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デクステラ大陸物語—機構弓剣使いと精霊追いの魔導士  作者: 猫ろがる
第一章 行き倒れの天才魔導士
6/21

05

 気付けば何か視線を感じる。


「なんだよ?」


 俺に熱い――もちろん、皮肉だが――視線を送っていたのはサラだ。


「いや、別に」


 そう言って、そっぽを向かれた。

 本当に何を考えているのかよくわからない奴だ。


「てか、お前はいつまでそうやって顔を隠してんだ? 見られたらなんか不都合でもあるのかよ」


 ここまで頑なに顔を見せないのは流石に怪しいと思った俺はかまかけてみることにした。


「不都合? ないけどそんなの。見せる必要がないから見せないだけ」


 相変わらずの可愛げのない返答だ。


「そういって本当はお前、どっかで悪さでもして国に手配されてるお尋ね者とかじゃないだろうな?」


 冗談半分だが、半分は本気で俺は怪訝な顔をしてはサラに問いただす。


「…………」


 おい、なぜ黙る。


「お前、まさか本当に……」


 サラの口角がニッと上がった。

 一瞬、緊張が走る。


「そんなわけないでしょ。妄想が過ぎるわよ、〝お猿さん〟」


 俺は切れた。完全に切れた。


「この女……!」


 勢いよく俺は立ち上がる。

 しかし、すぐにおっちゃんに「まぁまぁあんちゃん、落ち着いて!」と宥められ、渋々俺はまた地面に腰を下ろした。


「嬢ちゃんも、流石に言い過ぎだよ」


「……ごめん、言葉が過ぎた」


 おっちゃんに優しい口調で諭さればつが悪くなったのか、サラは此方を向くなり頭を下げた。

 俺も、こいつがまさか頭を下げると思ってもみなかったので同様にばつが悪くなり――。


「いや、俺も意地の悪い言い方してたしな。悪かったよ……すまん」


 頬を引っ掻いては頭を垂れた。

 そうしてお互いが謝ったところで、おっちゃんは嬉しそうにうんうんと頷いた。


「まぁ、隠してるわけじゃないのよ。単純にこの方が落ち着くし、集中も出来るからずっとこうしてただけ」


 唐突にサラが切り出し、俺は少し思案する。

 つまりだ。


「もしかして、暗くて狭いところとか好きか?」


「……そうね、嫌いではない」


「そうか、好きならしょうがないよな」


 そいつはすばらしく、学者で魔導士らしいなと俺は素直に思った。


「まぁ、変に怪しまれるのもなんだし、大人しくフードを脱ぐわ」


 意を決っするように自身のフードに手を掛けるサラ。

 何故だろう。自分で素顔を見せろって言っておいて、いざその時が来ると何だかいけない気持ちになってくる。

 そんな事を思っている間に、サラは事もなげにフードを脱いだ。


「…………」


 意外だった。


 俺が想像していた容姿とは違いすぎていた。

 学者で魔導士でもあり、暗くて狭いところが好きで、おまけにかなりの毒舌家。それならきっと、髪は手入れもされておらずぼさぼさで、瞼も落ちて目つきが悪く、肌艶はだつやもなくカサカサで、いかにも研究のために女を捨てた様な――完全に偏見だが――風貌をしているのだろうと、俺は想像していた。


 でも実際は、その真逆だ。


 サラの髪は真っ直ぐで艶のある朱色で、左側の頭頂部辺りから三つ編みに下ろし、低い位置でリボンを使ってお洒落に束ねている。目つきは、ややつり目だが印象が悪いわけではなく、気が強いサラらしいと言える。肌の艶も年相応で、ハリのあるみずみずしい肌だ。

 正直言って悔しいが、俺の脳が一瞬いっしゅん可愛いと思ってしまった。

 でもそれは勘違いだ。脳の錯覚だ。俺はこの女の性格を知っている。見た目に惑わされては駄目だ。


「そんなまじまじと見られると、流石に恥ずかしいのだけど」


 おいやめろ。気恥ずかしそうに目線を逸らすな。

 俺の中でお前の印象が変わるだろうが、なに可愛げぶってやがる。お前にそんな感情……ん?

 ここで俺は疑問に思った。思ってしまったら条件反射的に言葉に出してしまうのが俺の性格だ。


「ちょっと待て、はずかしい? おまえにもそんな感情があったのか?」


 しかし失言だったと。言ってから俺は気付く。

 そして、今までフードで遮られて見る事のなかったサラの翡翠(ひすい)色の瞳が揺れ、俺をその中に写した。


「あんたやっぱり失礼ね……あたしにも羞恥心ぐらいあるわよ」


 予想通り軽く睨まれ、呆れられた。だがそれだけだ。やっぱり、おかしい。

 さっきまでのサラなら、心を抉るような皮肉で言い返してくる筈だ。しかも、また目線を逸らした。

 ……ひょっとして、こいつ。


「お前、もしかして人見知りか?」


 図星だったのか、サラは何とも言えない複雑な表情をした。


「……だったらなに? 問題でもあるの?」


 サラの明らかな強がりに俺はクスッと笑ってしまう。


「いや、なんもねぇよ。ただその方が、少しは可愛げがあると思っただけだ」


 これは皮肉じゃなくて、本心で言った褒め言葉だ。

 つもりだったんだが――。


「あんたやっぱり馬鹿にしてるでしょ……分かった、燃やす」


 どうやらまともに受け取ってもらえず。

 恥ずかしさか、もしくは怒りで頬を赤く染めては俺に掌をかざし、紅い魔法陣を展開させた。

 煮え立つような熱量を流動的に纏うそれが、〈火焔球ブラム〉なのは一目瞭然。


「馬鹿! やめろ! それ撃ったらおっちゃんも巻き込むぞ⁉」


 こいつなら本当に撃ちそうだと本能で察知した俺は、人質だと言わんばかりにおっちゃんの名前を挙げては慌てて止めさせた。


「冗談だってば」


 本気にしないでよと肩を竦め、サラは掌を下ろした。

 同時に魔法陣も弾け、魔素の粒子となって霧散する。


「何処の世界に冗談で魔法をぶっ放そうとする奴がいるんだよ……本気にするわ」


 俺はため息を吐きつつ、やっぱり恐ろしい女だと認識を改めた。 


「俺が言うのもなんだが。お前、人見知りだってしても、もう少し人との付き合い方を改めた方がいいんじゃないか? そのうち大変な誤解を招くぞ」


 現に俺がそうだ。


「あんたに言われなくても理解してるわよ、それぐらい。でも人との接し方なんてすぐにどうにか出来る事でもないじゃない」


 それに、とサラは話を続ける。


「今更、人との関わりなんて私にはどうでもいいの。私は研究さえできればいいし、ここ数年の調査だってずっと一人でやって来た。勿論、これからもそうするつもり。誰にも邪魔されたくないし。だから必要ないの」


 なるほど、学者ここに極まれりだな。


「でもこんなに人と喋ったのは久しぶり。そのせいか、少しだけ楽しんでいる私もいるわ」


「そうか……そいつは良かった」


 口元を綻ばせては笑うサラに俺は一言、そう言った。

 やっぱり悪い奴ではないらしい。俺の中のこいつの印象を少し改めた方が良いのかもしれない。


「あ、でもあんたが私に〝した事〟は一生忘れないし許してないから? 変な勘違いはしないでよ?」


「…………」


 きっぱりと言われ、俺がとんだ思い違いをしていたことに気付く。

 ――あぁそうか。そうだよな。俺の中でこいつの印象が変わったとしても、こいつの俺に対する印象が変わるわけじゃないわな。


「……それは本当にすまん」


 謝ってみたものの、サラはその明らかに笑ってはいない笑顔でただ一言。


「い・や・だ」


 と、そう言われてしまった。

 助け舟を求めて、おっちゃんに顔を向けるが――。


「おきゃく……さん…………へへ……おめが……たかい…………」


 ダメだ。静かだと思ったら夢に落ちてやがった。

 そして弁解の言葉も見つからず、何処から降ってこないかと俺は星が瞬く天を仰いだ。

 当然、降ってくるわけはない。

 俺は視線を戻し、火の勢いが弱まった焚き火に枯れ木を放り込む。

 そろそろ夜も良い時間だ。


「おっちゃんもこんな感じだし、お前もいい加減寝たほうがいいんじゃないか?」


「また誤魔化すの?」


「ちげぇよ、明日は日の出と共に出発だから寝とけって言ってんだよ。馬車の中譲ってもらってんだろ?」


「あんたは?」


「俺は火の番と、魔物の警戒があるからな。気にせず寝てこい。そのために日中、寝てたんだしな。また明日、出発したら寝させてもらうよ。その時は、〝あの場所〟譲れよ?」


「わかった。じゃあ、任せるから」


「あいよ、任された」


 さっさと行けといった意味で俺は手を振る。

 サラもそれを一瞥すると馬車に乗り込んでいった。

 さて、ここからは一人の時間だ。

 今日聞いた情報を整理しながら、今後どうするか考えるか。と思った矢先。


「あ、そうそう。一つ言い忘れてた」


 サラが馬車の幌を開いては顔を出して俺に言ってきた。

 俺は「なんだよ?」と返す。


「変なことしてきたら燃やすから」


「……しないから寝ろ!」


 最後にそう叫んだ俺の声は、静寂な平原と無数の星が瞬く夜空へと広く響き渡っていった。


お読みいただきありがとうございます。

ここまで投稿して初めて気付いたのですが、〝——〟この線、カクヨムからのコピペのまま投稿したら文字化けしてました。確認不足です。お目汚しすみませんでしたm(__)m

どこかのタイミングで書き直します。

次回は明日、20時以降に投稿します。よろしくお願いいたしますm(__)m

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