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(旧)マル才  作者: 青年とおっさんの間
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【番外編】内気な少女は夢を見る

メインストーリーとは別のお話です。


最近出番のなかった女子バスケ部1年生の花沢華ちゃんのある日常のお話となっています。


メインストーリーを早く読みたい方は飛ばして読んでも大丈夫ですよー

「はぁ… 」


最近は湯船に浸かるといつも溜息が出ちゃう。別にお風呂が気持ちからというわけじゃなくて、ある人のことが頭から離れなくて無意識に溜息が出ちゃうみたい。



「最近入月先輩と全然会えてないな~」



だって先輩全然バスケ部に顔を出してくれないんだもん。


入月先輩がバスケ部の助っ人に来てくれてから、私は自分に自信が持てるようなって、男の人とまだぎこちないけれど話せるようになれたし、クラスで友達も出来た。


入月先輩には感謝しても感謝しきれないよ。


本当は毎日会ってお話ししたいし、もっとバスケを教えて欲しいのに、もうずっと会えてない。


何度か入月先輩のクラスに行こうとも考えたけど、後輩がいきなり訪ねて来ても迷惑だろうし、何より私が恥ずかしくて無理でした。


でも、もう一度ちゃんと見たいな~、入月先輩の顔… 凄くカッコ良くて、優しそうで、いや! 優しいんだよ、私が言いたいのは顔が優しそうってことだからね!



「よしッ! 明日こそ入月先輩に会いに行くぞー! おーーーッ!!」


「ちょっと華~!? 早くお風呂出なさ~い! 後がつかえてるんだから!」


「はッ、はーい!! ごめんなさーい」




一通り寝る支度を済ませ、自分の部屋のベッドに入るけれど、なかなか寝付くことができない。


目を開けても目を閉じていても、浮かぶのは入月先輩の優しい笑顔…



「もう! 眠れないよ~、こんな時はガップレの曲を聴いて落ち着いてから寝よう!」



携帯にイヤホンを差し込み、音楽プレーヤーを立ち上げガップレのアルバムを再生する。


優しい音色にボーカルのミュアさんの透き通った綺麗な声が独特の世界観を作り上げていく。


一つ一つの音に意味があって、それが合わさってハーモニーになり、私の心に響き渡る。



「ミュアさん素敵だな~、私もこんな綺麗で歌が上手な人になりたいな~」



そうしたら入月先輩だって…



「ウフッ、ウフフフフ…」


「お姉ちゃん、キモイからやめた方がいいよ? その笑い方」

「美乃梨!? どうして私の部屋にいるのよ!?」



突然現れた妹、花沢美乃梨はなざわ みのりに気持ち良くガップレの聴いていたところを邪魔されてちょっと強めの口調になってしまう。



「お姉ちゃんに借りてた本を返しに来たんだけど、お邪魔だったかな?」

「ノックくらいしなさいよ!」


「したけど、イヤホンしてたから聞こえなかったんでしょ、 じゃあおやすみ」


「本当に可愛げないんだから!」



姉の私が言うと、シスコンとか言われるかも知れないけど、美乃梨はかなり美人で、まだ中学3年だというのに、そこらの雑誌に載ってるモデル並みに背も高く、可愛いというよりカッコいい。


私が男の人が苦手になった原因は少なからず美乃梨のせいもあると思う、だって美乃梨と違って私は背も高くないし、その… 胸だって、ないし…


だからコンプレックスでダメになっちゃったんだろうな~、きっと。


でも大丈夫! 私にはきっと美乃梨にはない私だけの魅力があるもん!


例えば、小ちゃくて可愛いとか、手のひらサイズとか、妹にしたいとか…


……



「全然ダメだぁ~! はぁ~… 」



自分の魅力を何一つ見つけられなくて、嫌になってしまい、頭からベッドに倒れ込みんで枕に顔を押し付ける。


ふと顔を上げると、携帯の画面にはガップレのメンバーが映ったジャケット写真が映し出されていて、その中の1人、ギターボーカルのユウから目が離せなくなってしまう。



「ガップレのユウって、何となく雰囲気が入月先輩に似てる気がするなー、それに声もなんとなくだけど… 」



もし入月先輩がガップレのユウだったら…






………



………………






「花沢さん? どうしたの、いきなり呼び出したりなんかして?」


「入月先輩、急に呼び出したのに来てくれて、ありがとうございます! その… 実は私… わかっちゃったんです」



誰もいない旧校舎の教室の窓から夕日の光が教室の半分をオレンジ色に染める。


教室の入り口近くに立っている入月先輩の顔は陰になってよく見えない、きっと入月先輩からも私の顔は陰になっていてよく見えないと思う。


もし、入月先輩の顔が見えていたら、誰もいない教室で2人っきりというシチュエーションに恥ずかしくて声が震えてしまうから、今は見えないくらいが丁度いいんだと思う。


それでも会話の間の静けさに、この張り裂けそうな胸の鼓動が入月先輩に聞こえてしまいそうで、会話が途切れないようにと必死に言葉を紡いでいく。



「何を知ってしまったんだい?」



入月先輩は声色を変えず、私に聞いてくる。



「Godly Place のギターボーカル、ユウって、入月先輩なんですよね?」



10秒くらいの沈黙の後、入月先輩が私の方にゆっくりと歩きながら口を開く。



「どうして俺がガップレのユウだってわかったんだい?」


「入月先輩のことなら私、何でもわかるんです!」



やっぱり私の勘は当たっていた。


入月先輩のことなら何でも知っているんだから、それだけは誰にも負けない自信がある。



「そっか、悪いけどバレてしまった以上は口封じをしないとならない」


「ど、どうするんですか…?」



入月先輩はお互いの顔がはっきりと見える距離まで歩みを進めるけれど、それでもまだ私に近付いてきて、もう息がかかりそうなほどの距離まで迫っていた。



「言葉通り口封じをするのさ、僕の口で… 君の口を… 」

「そ、そんな… ダメですよ、まだ… あっ… ああ…… 」







………



……………






「んッ… んん~… なんだもう朝か~… 」



いつも通りの時間に鳴り響く目覚ましを止め、夢の余韻に浸りながら入月先輩のことを想い、今日も会えないのなら、せめて夢の中でもう一度会いたいと再び目を閉じるのでした。







……


………






今日もいつもと変わらない朝。


お母さんが朝食を準備してくれていて、お父さんはダイニングテーブルで新聞を広げながらコーヒーを飲んでいて、妹の美乃梨は朝練でとっくに学校へ行っている。


本来なら、お父さんとテーブルを挟んで斜め向かい側に私も座ってご飯を食べながらニュースを見ているはずなのに…



「お母さん!? 何で起こしてくれなかったの!! このままじゃ遅刻しちゃうよ~~」


「あら、華が寝坊するなんて珍しいわね、てっきりもう起きてるもんだと思ってたわよ」


「も~~!!」



物凄いスピードで学校へ行く支度を済ませ、玄関へ降りる。


いつもなら、いつ入月先輩と会ってもいいように身だしなみに気を配り、最近ではお化粧もするようにしていたのに、今日は髪の毛すら梳かす時間もないくらいに急いでいた。



「行ってきまーす!!」

「華! 朝ごはんは?」


「時間ないからいい!」

「パンくらい持っていきなさい、お腹なっちゃうわよー?」


「はいはい! 行ってきまーす!!」



いつもよりも2本ほど遅い電車に乗り、駆け足で学校へ向かう。


通学路には同じように駆け足の生徒が何人か見受けられる。


そこで初めて自分が生まれて初めて寝坊したことに気付き、何か新しいことをしているような気がして、少し不思議な感じがした。



「あれ、もしかして花沢さん?」



後ろから男の人に声を掛けられて、つい反射的に身体がビクッと反応してしまうが、その声は私がずっと聞きたくて夢にまで出てきた人の声だった。



「入月先輩!?」

「おはよう花沢さん、なんか久しぶりだね、いつもこの時間に登校してるの?」


「え!? ぇえ、はい… いえ違います!!今日はその… 寝坊しちゃって… 」


「奇遇だね、俺も寝坊してこの有様だよ」



入月先輩も寝坊したって言うけど、いつもと同じように爽やかで優しい笑顔だし、いつ見ても本当にカッコいいなあ…


それに比べて私は髪の毛すら梳かしてないし、化粧もしてないしどうしよー、あんまり顔見ないでくださーい!



「いっけね! 花沢さん、急がないと間に合わなそう、もう少しペース上げられる?」


「ごめんなさい入月先輩、私もうこれ以上は無理です。 入月先輩だけでも先に行ってください 」



いろいろともう限界なんです、これ以上入月先輩と一緒にいたら私、恥ずかし過ぎて爆発しちゃいそうなんです!



「よし! じゃあ悪いけど… 」



そう言って前を向いて走り去ろうとする入月先輩を見てホッと胸をなでおろすけど、どこか寂しい気持ちも同時に存在していて、胸の中をグルグル渦巻いていた。


そんなことを考えていると、不意に左手が誰かに引っ張られているような気がして、驚いて顔を上げると私の手を引っ張っていたのは他でもない、入月先輩だった。


少し考えればわかることじゃない! このシチュエーションで手を引っ張る人は入月先輩の他に誰もいないじゃない!



「あッ、あの!? 入月先輩!?」

「ゴメンね、もう少しの辛抱だから頑張って!」



かなりのスピードで走っているはずなのに、私の頭の中ではまるでスローモーションのようにゆっくり進んでいて、入月先輩の手の温かさと、私の心臓の鼓動だけが伝わって、段々と体温が上がっていくのが分かる不思議な感覚に支配されていた。


生まれて初めてお父さん以外の男の人と手を繋いだ、生まれて初めてお父さん以外の男の人と手を繋いだ、生まれて初めて入月先輩と手を繋いだ!


もうそれだけで頭がいっぱいになっていた。



気が付いた時には私はもう自分の教室で朝のホームルームを受けていたのだけど、入月先輩と手を繋いだことを思い出して、またすぐに意識を失ってしまい、結局午前中一杯を保健室のベッドの上で過ごした。


保健室でタバコを吸っている後藤先生に「恋に効く薬はないから自分で何とかしろよ」と、言われて、すごく恥ずかしい思いをした。


何で後藤先生は一目見てそういうことが分かるんですか? それとも、私って顔に書いてあるとか言われるくらい、すごく分かりやすい人なんでしょうか?


そうだとしたら入月先輩に私の好意が全部筒抜けだったなんてことは…



「はわわわわ~… 」



どうやら午後も保健室のベッドの上で過ごすことになりそうです。

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