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第六十話 五大鬼獣

 眩い雷火に包まれ、衝撃は地面を駆けた。

 舞う土煙。

 空中を飛び交っていた鬼獣は一体残らず地上へと落ち、その体には電撃が迸っていた。久遠達樹。彼もまた同じだった。体に雷撃を浴び、地面にひれ伏し表情を歪める。その左腕に抱えていたはずの皆川さんの姿はなく、僕と久遠の間に一つの小さな影が映る。銀色の毛を揺らし、体に青白い閃光を迸るその雄々しい姿。その肉体に刻まれた傷は、その鬼獣が潜ってきた修羅場の数を物語っていた。

 静まり返ったその中で、久遠が顔を上げ言葉を発する。


「くっ……な…何が……」


 何が起こったのかわかっていない様だ。実際、僕自身も何が起こったのか理解出来ていない。いや、この場に居る誰もが現状を把握出来てはいないだろう。呆然とただそこに居る一体の鬼獣を見据えるだけしか出来ずに居た。

 静かに周囲を確認する様に首を動かしたその鬼獣は、目の前に横たえた皆川さんの体を背に乗せるとゆっくりと歩き出す。その姿を見据える久遠は拳を握りその手から光を放つと、それを剣へと変化させる。そして、飛び立つ。僅かに黒焦げた翼をはためかせ。

 息を呑みその姿を見据える。走り出せば、飛び立つ前に斬りかかる事が出来たが、僕もキルゲルもしなかった。彼の放つ殺気に飲まれてしまって。

 だが、その鬼獣は何も感じないのか、ゆっくりと守の方へと皆川さんの事を運ぶと、振り向き久遠を見上げる。


「上には気をつけろよ」


 ボソリと呟く。その時、空に青白い光りが浮かぶ。黒い障壁で一層眩く見えるその輝きに、キルゲルが脳内で叫ぶ。


(火猿!)


 驚きの声に息を呑む。青白い炎が近付き全ての鬼獣を焼き払い灰へと変えていく。灰は雪の様に校庭へと降り注ぐ。

 息を呑む。怒りに満ちた火を司る五大鬼獣の一人火猿。その姿はまさに炎を司るに相応しい業火に包まれた姿。五大鬼獣と呼ばれる理由がこの時初めて理解できた。溢れる殺気は周囲の空気をピリピリと張り詰めさせる。

 乾ききった空気の中、音がほぼ無に近い状態が訪れ、ようやく火猿の唇が動く。


「アレを……返せエエエェェェェッ!」


 雄たけび。いや、それはまさしく咆哮。衝撃が地面を叩く。舞う土煙、吹き荒れる暴風に思わず目をそむける。後に訪れる。轟音と共に拳を久遠に浴びせ地上へと叩きつける。激しい衝撃波と地響きを残して。

 恐る恐る瞼を開く。周囲に撒き散った青い炎が、水の膜に覆われ蒸気を上げ消滅する。その蒸気が霧状になり周囲一帯を白く包み込んでいた。

 視野が悪い中で、目を凝らす。青白く燃え上がる火猿。そして、先程の狼の様な姿の鬼獣の傍に、知った顔の女性の姿を確認する。


(チッ! 水嬌も来てやがる……)


 小さく舌打ちをしたキルゲルに遅れ、突如突風が霧を晴らす様にその場を吹きぬけた。


「くっ!」


 左腕を顔の前に出し、空を見上げる。そこに居たのは小さな少年。まだ幼く見えるその少年は背中に大きな翼を広げ、突風を生み出し無邪気に笑う。金色の髪を揺らしながら。


「おっかしいな? 本当なら、ここで電鋭がズドーンって、稲妻を落とすんだけど……まぁ、いいや。アハハハッ」


 無邪気な笑いを浮かべ、風を起こすこの少年の姿に悟る。彼は風を司る五大鬼獣の一人なのだと。緊迫した空気なのに、物怖じしないのがその証拠だろう。

 その彼が両手に風を圧縮する。何をする気なのだと分かったが、その場を動く事は出来なかった。そうする前に別の声が、彼を制止させたからだ。


「風童。やめんか」

「ゲッ、燃土。いたのぉ?」


 風童と呼ばれた幼い子供の様な鬼獣が驚き、両手に圧縮した風をその手の中で弾かせ散布させた。そよ風となり風童の金色の髪を揺らし、頭の後ろで手を組み口笛を吹いた。

 一方、その風童を制止した声の主。確か、燃土と呼ばれた老人。彼の方へと目を向ける。落ち着きがあり、何処か不気味な印象の漂うそんな雰囲気に、息を呑む。手の平に薄ら滲む汗に、キルゲルは静かに告げる。


(奴は燃土。今居る五大鬼獣で最も長くその座を守り続ける最古の鬼獣だ)


 頭の中に響いた声に、静かに頷く。キルゲルの言う通り、燃土の風貌には威圧感があった。底知れぬその圧倒的な威圧感。その燃土はゆっくりと水嬌へと眼差しを向ける。この場に居る人間になど興味が無いと言わんばかりに、その傍に佇むただ一体の雷撃をまとう鬼獣を視界に入れ、


「水嬌。ソイツは何じゃ?」


 と、静かに問う。その言葉に、水嬌は火猿のばら撒いた炎を沈下し終え、ゆっくりと答える。


「見ての通り。狼電よ」


 感情の篭ってない冷ややかな眼差しが燃土の方に向け、その銀髪の髪を右手で掻き揚げた。しかし、その話題にのぼっている狼電は、二人の事よりも目の前に居る久遠達樹へと威嚇する様に毛を逆立てる。喉を鳴らし牙をむき出しにする狼電に、業火に燃える火猿の拳の下から久遠の声が響く。


「クックックッ……。五大鬼獣まで、来てしまったか……。俺の完璧な計画が、丸つぶれだ」

「ヴゥゥゥゥッ……ヴゥゥゥゥッ……」


 その久遠の声に、押し殺した様なおぞましい呼吸を繰り返す火猿。蒼い炎をまとうその肉体には幾重にも切り傷が残され、彼がどれだけの激戦を潜り抜けてきたのかが見て取れた。

 そんな彼の口から漏れる白い息。余程高温の熱を体内に宿しているのだろう。だが、彼の体がよろめいた。一筋の光りが彼の右肩を貫き――。


「グガアアアッ!」


 遅れて火猿のにごった悲鳴があがる。その瞬間、皆の視線が一斉に火猿へと向けられる。突然の事に驚き僅かにうろたえていると、猛々しい声が上がる。


「チッ! 生きたいなら、集中しろ! 一瞬たりとも気を抜くな!」


 その猛々しい声の主は、あの犬の様な鬼獣だった。確か、名前は狼電。五大鬼獣では無い彼の一言は、何故かその場に居た皆の気を引き締めさせる。感覚で分かった。狼電は五大鬼獣と対等の力を秘めているのだと。

 ドクンドクン、と脈打つ心音がやや大きく聞こえる中、よろめきその場に蹲る火猿の影からゆっくりと久遠が姿を見せた。衣服は焼け黒焦げた皮膚を露出する久遠。その久遠の右目が金色の光りを放つ。

 いつの間にか胸元でネックレスが揺れ、左腕にはブレスレット、そして、右手の中指にはリングが輝く。何処から取り出し、いつ装着したのか分からないが、その輝きは美しくやけに不気味に映った。


「クックックッ……。キミ達は……俺の怒りに触れた。大人しくしていればいいものを……」


 両肩を僅かに揺らし、不適に笑いながらそう告げると、キルゲルが強気な口調で答える。


『大人すれば、楽に死ねる。そういいてぇのか? 戯言を抜かせ!』


 怒声を響かせると、その声に対し久遠は薄らと笑みを浮かべ、冷ややかな視線をコチラへと向けた。背筋がゾッとする程冷たい視線に、思わず足を退く。やがて、彼の顔から表情が消え、静かな口調で言葉が告げられる。


「そうだ。人は何れ死ぬ。なら、楽な方がいいだろ?」


 その言葉に、奥歯を噛み締める。人の命をなんだと思っているのか、そう言う気持ちに怒りがこみ上げる。そう思った瞬間、叫んでいた。怒りの言葉を。


「ふざけるな! 人の死には意味がある。天命を全うし死ぬ者、誰かを守る為に死ぬ者。決して無駄に奪っていいモノじゃない!」


 それは、自分がこれからしなければならない事への覚悟の表れだった。

 これから、僕は命を……。そう考えると、簡単に命を奪おうとする彼のやり方に怒鳴らずには居られなかった。

 怒りに拳を握って居ると、その隣りに二人のフードを被った者が並び、制止する。一方は刀を一方は右手を出して。

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