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第三十三話 理由

「だーかーら! さっきから説明してるだろ!」


 武明がテーブルを叩き怒鳴った。

 現在、食堂にて、話し合いをしていた。

 僕と雪国さんが隣り合わせに座り、向かいに武明とまどかさんが座っている。テーブルに並ぶ四つのコップの表面に吹き出た雫が滴れていた。

 腕を組み仏頂面の雪国さんは、背凭れにもたれジッと円さんの顔を見据える。しかし、円さんは相手にしていないのか、顔を背けたまま小説を読んでいた。その態度が、気に食わないのか、肘で何度僕の横っ腹を突いてくる。


「な、何だよ?」


 小声でそう聞くと、雪国さんは顎で円さんに注意しろと言う様に促す。

 この重苦しい空気の中で、僕に一体どうしろと言うんだろうか。


「て、おい! お前等、話聞いてんのかよ!」


 と、相変わらず怒鳴り散らす武明を、円さんが横目で睨む。


「な、何だよ! 今、説明してる所だろ? 何で、睨むんだよ!」

「イチイチうるさい。もっと、静かにしなさいよ。周りにも迷惑でしょ」


 ごもっともな意見に対し、武明が拳を震わせる。


「待て待て。俺はだな、全ての誤解を解こうと、一生懸命――」

「大声で怒鳴れば一生懸命って、事にはならないの? 分かる? もう少し、静かにして。私の読書の邪魔しないで」

「って、何で、あんたは読書してんのよ!」


 テーブルを叩き立ち上がる雪国さんが、円さんを指差しながら怒声を響かせると、呆れた様にため息を吐き、


「う・る・さ・い。あなたも、女なら、もう少しおしとやかに出来ないの?」

「な、なな、なんですって! 表に出なさいよ! 今すぐ決着つけようじゃない!」


 怒鳴る雪国さんに、パタンと読みかけの小説を閉じた円さんは、ゆっくりと立ち上がり、


「いいわよ。あなたが、それを望むなら、私は――」

「ちょ、ちょっとお、落ち着けよ。二人とも!」


 とりあえず、二人を止め様と立ち上がるが、二人の鋭い視線がコッチに向けられ、


「あんたは黙ってなさいよ!」

「外野は引っ込んでてくれない」


 と、声をそろえて怒鳴られた。あまりの迫力に「はい」と、返事をして椅子に腰をすえると、向かいで武明も小さくため息を吐き、椅子に腰を下ろした。


「はぁ……お互い大変だな」

「そ、そうだな」


 武明の言葉に戸惑いながらもそう返答した。まぁ、実際大変なわけだから、そう答えて当たり前なのだが……。

 腕を組み項垂れる武明は、そのままテーブルに突っ伏すと、


「ったく、女って、何でこうも揉めたがるかなぁ……」


 と、呟く。いがみ合う雪国さんと円さんには聞こえてなかった様だが、僕にははっきり聞こえ、その言葉に苦笑する。突っ伏したままこちらへと顔を向けた武明は、サングラスの奥の目を細め、もう一度深く息を吐いた。


「はぁ……とりあえず、お前には謝っておく。すまなかったな」

「えっ、あっ、いや、僕に謝られても……」

「何言ってんだ? 友達だったんだろ? それを、正当防衛とは言え、あんなにボコって」


 武明が申し訳無さそうにそう言う。

 友達と言うのは、博人の事だ。何でも、学校に現れた鬼獣を倒した後に、「俺にその武器をよこせ!」と、叫びながら襲い掛かってきたそうだ。だが、その瞬間に円さんの鉄拳制裁を受け、ノックアウト。あれでも、結構喧嘩に強い博人が、瞬殺。これが、鬼獣と戦っている人との差なのだろう。

 コップの水を一口飲み、小さく息を吐く。隣りでは相変わらず雪国さんが円さんと睨み合っていた。まさに一触即発と言わんばかりだ。周囲も、その状況に触れてはいけないと、近くの席は全て空席となっていた。


「それで、お前は何でガーディアンなんてやってんだ?」

「えっ? な、何でって?」


 思わず質問の意図が分からず聞き返すと、訝しげな表情を浮かべ、


「えっ? お前、もしかして、戦う理由とか無く、命張ってんの? 何? 死にたがり?」

「い、いや、そんな事無いけど?」

「じゃあ、何でガーディアンなんかやってんだ? お前、育成学校通ってないんだろ? 戦闘に関しては素人じゃないか?」


 武明の言葉に考える。何で、ガーディアンをやってるのか。考えてもみなかった。キルゲルが目覚めて、流れで鬼獣との戦いに身を任せていた気がする。

 暫しの間黙り込んでいると、武明が呆れた顔で体を起す。


「お前さぁ。戦う理由とか無くて、戦ってたのか? まぁ、お前みたいに育成学校通ってなくても、ガーディアンや封術師になる例は少なくも無いけど……普通は、皆断るぜ? 誰かの為に自分の命を捨てるような事」


 軽く身振り手振りで大袈裟に言う武明に、苦笑する。

 でも、言われてみれば、思う。争いごととは無縁だった自分が、こんな命を失いかけない戦いに身を投じているのかと。しかし、こうなる運命だったのかも知れない。あの日、彼女と出会った瞬間から。

 そんな事を考えていると、不意に武明と視線が合う。そして、思う。武明が鬼獣と戦う理由が何かと。


「あのさぁ」

「何だ? 理由、見つかったのか?」

「いや、そうじゃないけど……武明が封術師になった理由って何かなぁ? って」


 そう尋ねると、「封術師になった理由?」と、不愉快そうな声で聞き返してきた。聞いちゃまずかった事だったのかと、すぐに謝ろうとしたが、武明は腕を組みながら静かに語る。


「封術師になった理由なんてねぇよ。ウチの家系が、そう言う家系だったから、無理矢理育成学校通わされて、サポートアームズとの適合性と、封術師としてのほんの少しの才能があったから、封術師にさせられた。それだけだ」


 サングラス越しでも分かる程、切なげな目をしていた。遠くを見る様にして、誤魔化しては居たが、何と無くそれが伝わった。

 そんな武明が急に思い出した様に視線をこちらに向けると、顔を近付け耳を貸せと言わんばかりに人差し指を動かす。


「ど、どうしたんだよ? 急に?」


 小声で返答すると、サングラスの向こう側の目が一瞬隣りの円さんの方へと向けられ、口元を隠す様に左手を添えると、


「アイツは父親を鬼獣に殺されたんだ。それで、ガーディアンに」

「え、えっと……それ、言っちゃっていいのかな?」


 そう聞くと、しまったと言わんばかりに引き攣った笑みを浮かべ、その隣りで指の骨がいい音をたてる。


「ふふっ。人の秘密を、ベラベラと良く喋る口ね」


 壊れたロボットの様に震えながら静かに円さんの方へと顔を向ける武明。ニッコリと笑みを浮かべる円さんが、拳を震わせる。


「ちょ、ま、待て! お、落ち着け!」

「あなたも、あんまり余計な詮索すると――」

「いや……余計な詮索って言うより、武明がベラベラと……」


 正直にそう言うと、武明が素早くこちらに顔を向けた。


「お、お前! 自分だけ助かる気か!」

「自分だけって、あんたの自業自得でしょ? 大体、女の子の秘密を言うなんて、最低ね」


 武明の言葉に、そう言い返したのは雪国さんだった。腕を組み、蔑む様な目を向ける雪国さんに、更に表情を引き攣らせる武明。

 一方、円さんは雪国さんの方へと顔を向けると、


「初めて意見が合ったわね」

「そうね」

「変な所で、意気投合してんじゃねぇよ……」


 ボソッと武明が呟くと、二人が同時に睨みを利かす。


「ねぇ。提案があるんだけど?」

「提案?」

「お互いの親睦を深めるって意味で、一緒にコイツをボコボコにするって言うのは?」


 恐ろしい提案をサラッと言ってのける雪国さんだが、それに「ええ。いいわよ」と即答する円さんが更に恐ろしく見えた。

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