第三十二話 失格はどっち
静けさが辺りを包み込む。
銃口を向け相手を睨む雪国さん。そんな雪国さんの方へと体を向けた少女は、「ふっ」と小さく笑うと、「あなたも失格ね」と雪国さんに告げた。
けど、雪国さんはその言葉に静かに笑みを浮かべると、
「言って置くけど、簡単に背後を取られるあんたに、失格とか言われたくないわ」
「違うわよ。失格って言ったのは――」
彼女がそう呟くと、突如として地面から炎が吹き出る。
「能力の分からない相手の間合いに入るなんて、失格って事よ」
「ったく。ワナくらい仕掛けてあるに決まってるっしょ」
男の方が鉄の杭を空中に投げながらそう言うと、突如周囲に冷気が立ち込める。
「ふふふ……私も、バカにされたもんね……んな事くらい、知ってんに決まってんでしょ」
噴出した炎が急速に凍り付き、音を立て崩れた。美しく氷の粉を周囲に広げながら。
だが、その瞬間、カチャと金属音が僅かに耳に届き、真っ白な銃が彼女の両手に握られていた。片方の銃口が雪国さんの頭に向けられ、もう片方は僕の頭に向けられる。
「チェックメイトね。これで」
少女がトリガーに指を掛け、静かに笑う。
「これが、実力差って奴よ。分かった?」
「まだ、終わってねぇよ!」
突如として、言葉遣いが変わった雪国さんが、彼女の手を蹴り上げた。一瞬、間が空き、少女は僕に向けた銃口を素早く雪国さんへと向けた――が、既に雪国さんの銃口が彼女の額に押し当てられていた。
「知ってる? 最後まで油断しちゃいけないのよ? 封術師もガーディアンも」
「残念! 吹っ飛べ!」
サングラスをした男が、そう叫び指を鳴らすと、雪国さんの足元が赤く光る。炎が噴出すと、今までの流れでそう思った。雪国さんもそう感じたのだろう、すぐにその場を飛び退く。が、一向に炎は吹き出ない。
「心理戦は、苦手の様ね」
彼女のその言葉で気付く。男の言ったさっきの言葉はハッタリだと。だが、もう遅い。既に両手に握った銃を構え直した少女が、トリガーを交互に引いた。
乾いた破裂音が数発轟き、硝煙が銃口から僅かに漂う。しかし、少女の視線は上空へと向けられ、握っていた銃を静かに下ろす。
「あなた、中々素早いのね」
「あなたこそ、中々のコンビネーションね。正直、驚いたわ」
互いの実力を知って、意気投合したかと思ったその瞬間、両者が素早く銃口を互いに向ける。
そして、ほぼ同時に両者の引き金が引かれた。甲高い轟音を響かせたのは雪国さんの方で、蒼白い冷気を纏った弾丸が一直線に少女へ迫る。一方、少女の方は単音の乾いた破裂音が何度も響かせる。
両者の放った弾丸の威力の差は歴然だった。その差に諦めた様に引き金を引くのをやめた少女は、両腕を頭の上まで上げると、
「エディ!」
と、自分のサポートアームズの名を呼び、告げる。
「モード双剣!」
『分かったわ。まどちゃん』
その声にエディと呼ばれたサポートアームズが返答すると、両手に握っていた銃が眩く光り、その姿を変えた。二本の白刃の剣に。と、同時に少女が振り上げた二本の剣を交差しながら振り下ろす。交差した刃と雪国さんの放った弾丸がぶつかる。
その衝撃は、彼女の体越しに僕の方まで届いた。その衝撃に右腕を顔の前に持ってきて視界を守る。その僅かな行動をしている間に弾ける様に、「バチッ!」と大きな音が聞こえ激しい冷気がグランドを覆いつくす。
「うおおおっ! サブッ!」
そう叫んだのは、サングラスを掛けた男の方で、その声に少女が横目で睨んだのが分かった。
「武明。うるさい」
「う、うるさいって、俺は――」
「うーるーさーいー!」
少女にそう言われ、武明と呼ばれた男はその服装からは考えられぬ程落ち込みその場に膝を抱えて座り込んでしまった。何と無く哀れに思っていると、上空から雪国さんが怒鳴る。
「バカ! 晃! あんたも、少しは援護とかしろよ!」
「いやいや。援護も何も、何で戦ってるのかも、理由も分かんないのに、そんなマネ出来るわけないだろ!」
相変わらず口調が悪いままの雪国さんにそう返すと、あからさまに不快そうに眉間にシワを寄せた。
「テメェ! 状況分かってんのかよ!」
「何かキャラ変わってません?」
(何か吹っ切れたんだろ? とりあえず、我を具現化しておいたらどうだ?)
不意にキルゲルの声が頭に響き、仕方なく具現化する事にした。右手に現れた剣を軽く構えると、少女が体を横に向け、ゆっくりと左手に持った剣の切っ先をこちらへと向けた。
「私は、いいわよ。一対二でも」
自信に満ち溢れたその言葉に、雪国さんが更に怒鳴る。
「一対ニだと! ば、バカにするんじゃねぇ! 晃! あんたは絶対手を出すんじゃないわよ!」
「どっちなんだよ……」
小さくため息を吐き、具現化したキルゲルを戻す。
すると、彼女もゆっくりと体を雪国さんの方へと向け直した。
何だか、彼女の手の平の上で踊らされている様に思えたが、とりあえず雪国さんにこの場は任せる事にした。
白翼を羽ばたかせ、空を舞う雪国さんが、蒼い銃をゆっくりと少女の方に向けると、少女の手に持っていた双剣を地面に突き立て、
「エディ。モードランチャー」
と、自らのサポートアームズに命令すると、地面に突き立てていた双剣が光り、彼女の背丈程の大きなランチャーが現れた。見た事も無いその大きなランチャーを右脇腹に抱えると、左手で横についたグリップを握り、一際大きい銃口を雪国さんの方へと向ける。
『チャージ完了まで十秒……九……八……』
カウントダウンが始まると、雪国さんも不適に笑う。
「最後は、力勝負ってわけね。ヴィリー! 出力最大!」
『うえっ! ひ、姫! 流石に、それはまずいって!』
「いいから! やるの!」
『愛ちゃん。流石に、それはやり過ぎよ? 幾らなんでもそれじゃあ――』
セイラとヴィリーが雪国さんにそう抗議していると、眩い光りが辺りを包み込む。
「落ちなさい!」
少女の声が僅かに聞こえたが、その直後少女の声を掻き消す程の大きな轟音が雷撃と共に空へと昇った。衝撃で爆風が起き、グランドが僅かに陥没し、少女の構えたランチャーの後ろから大量の白煙が噴出している。
『ま、マジかよ……』
『あと少し反応が遅れてたら、直撃だったわ……』
唖然とするヴィリーとセイラ。間一髪の所で、上手くかわした様だ。
この行動には、武明も驚いていた。口を開けたまま空を見上げ、表情を引き攣らせる。予想外の行動だった様だ。
「うおい! 円! おまっ」
「うーるーさーい!」
グルンと武明の方へと発射口を向けた。
「うおっ! あぶねぇだろ! コッチ向けんな!」
「撃つわよ」
「撃つなよ! それ、デカイ相手に撃つ奴だろ! 何で、んなもん使ってんだよ!」
武明が文句を言うと、円と呼ばれた少女がチラッと愛の方へと目を向け、
「デカイから?」
「何処がだよ! 普通じゃねぇ! いや、むしろ、お前の方が色々デカイじゃないか!」
武明の言葉に円が自らの胸に眼を向けた後、武明を鋭い眼差しで睨む。
「ここは関係無い。デカイのは態度の方」
「態度って……お前も十分――」
そこまで言って言葉を呑む。ランチャーの引き金を円が引きそうだったからだ。
そんな二人のやり取りを見ていると、無性におかしくなった。一人でクスクスと笑っていると、カチャッと音がし、発射口をこちらに向け円が睨んでいた。
「撃つわよ」
「わーっ! 撃つな! バカ! 何考えてんだ!」
武明が間に割って入り、両腕をジタバタと動かす。完全に無視される雪国さんは、静かに地上へと下りると、ヴィリーとセイラの具現化を解く。
発射口を相変わらずこちらに向ける円は、ジト目で前に立ちはだかる武明を見据える。
「だーかーら! 何で、お前は、そう――」
「あっ」
円が突如そんな声を漏らす。その瞬間、カチッと何かのスイッチを押す様な音が聞こえ、発射口に光りが収縮される。
「なっ! おまっ! ふせ――」
武明が叫びながらその場に伏せると、同時に光りが弾け消え去り、円が楽しそうに笑みを浮かべた。
「何してるのよ? 武明? 土下座?」
「お、お前……」
「出る訳無いでしょ? チャージにどの位時間が掛かるか知ってるでしょ?」
「てっめぇー……」
拳を震わせる武明を無視して、円は雪国さんの方へと体を向け歩き出した。




