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第三十一話 パートナーとして

 あれから数日が過ぎた。

 大地と風見さんは人影トカゲを追う、と言ってこの町を去った。

 その際、ガーディアンとは何か、封術師とは何かを、詳しく教えてくれた。そして、パートナーの重要性も。同じ歳位なんだろうけど、何故か風見さんは大人びて見え、大地はしっかりと彼女を支えていて、本当にいいパートナー同士に思えた。

 僕も雪国さんとそんなパートナーになれればいいと、思っていた。


「晃! 遅刻するぞ?」

「お、おう。悪い」

「お兄様? 体調が悪いんですか?」


 優海が心配そうに顔を覗き込む。そんな優海に微笑みかけると、


「もぐもぐ……それより、優海ちゃんは、急がなくていいの? もぐもぐ」


 用意された朝食を当然の様に食す雪国さんが、お箸で時計を指した。ボケッとしていた優海はジーッと時計の針を見据え、数秒。


「ふぇっ! も、もうは、八時! み、美空ちゃん!」

「美空ちゃんなら、さっき出て行ったけど?」

「ええっ! そ、そんな! も、もう! 置いていくなんて酷いよ……」


 慌ただしく優海がカバンを持って美空を追う様に家を出て行った。

 静まり返った部屋で、雪国さんと向い合う。黙々と食事を続ける雪国さんの顔を見据えていると、不意に視線があった。


「何? あんたも、早く食べないと遅刻するわよ?」

「それは分かってるけど……雪国さんは何故家で、当然の様に朝食を食べてるんだ?」


 箸を咥えたまま硬直する雪国さんは、視線を斜め上へと向けると、「うーん」と唸り声を上げた。それから、暫くして、ニコッと笑みを浮かべると、


「美空ちゃんの料理って美味しいから」

「……それで、毎朝家に来るのか? ワザワザ学校の前を通って家まで……」

「いいじゃん。別に、美空ちゃんも優海ちゃんも喜んでるんだし?」


 明るく笑う雪国さん。

 そもそもの原因は先日、僕が人影に取り付かれた日に遡る。あの日、あの後、雪国さんは体力の限界と空腹で倒れた。その為、渋々家に連れてきて食事をご馳走したのだ。その時に、美空や優海とも仲良くなったらしく、今ではこうして毎朝の様に朝食を食べに来ている。

 小さくため息を漏らし、箸を進めていると、また雪国さんと目が合った。今度は雪国さんが箸を咥えたまま僕の顔をジッと見据えていた。


「な、何?」

「ううん。何でもないわよ?」


 何でもないといいながらも、ジッと顔を見据える雪国さん。そんな雪国さんから視線を外し、気にしない様にしながら食事を進めるが、やはり気になり箸をおいた。


「何だよ? さっきから? 人の顔をジロジロと?」

「うーん。別に、意味は無いわよ?」

「じゃあ、やめてくれないか? 正直、気になるから」

「そう? もぐもぐ……それより、しょう油取って」

「はい。しょう油」


 雪国さんにしょう油を手渡した。

 暫く静かに食事を続け、


「さぁって。そろそろ、学校行こうか?」

「……後片付けはしてくれないか?」

「分かってるわよ。人を子供扱いしないでよ」


 雪国さんはプンプンと文句を言いながら食器を片付ける。

 僕も使った食器を片付け、ようやく家を出た。美空と優海から遅れる事二十分程が過ぎていた。完全に遅刻なのだろうが、満面の笑みを浮かべる雪国さんは、のん気に鼻歌を交えながらゆっくりと歩いていた。


「あのさぁ……遅刻だぞ?」

「いいじゃない? どうせ、遅刻なんだし、急がなくても?」


 のん気にそう答える雪国さんに、僕は小さくため息を吐いた。

 最近、気付いたのだが、雪国さんは何処と無く水守先生に似通った所がある。それに、今までは随分と猫を被っていた様だが、あの日以来僕には素の顔を見せる様になった。


「ねぇ、晃?」


 不意に後ろから雪国さんが呼びかける。


「何? 雪国さん?」


 特に気になる事も無かったので、足を進めながら返答すると、次はやや遠くの方で雪国さんの声が聞こえた。


「この先、何があっても、あんたは居なくなったりしないよね?」


 僅かにくぐもった雪国さんの声に、足を止め振り返ると、やや離れた所で立ち尽くす雪国さんが空を見上げていた。何処か寂しげな表情を浮かべる雪国さん。水守先生の事を思い出したのだろう。


「大丈夫だよ。僕は今ここに居る。この先も、ずっと、支えていくよ。それが、パートナーの仕事だろ?」


 我ながらよくこんなセリフがスラスラと出てきたものだと思う。

 しかし、その言葉に対し、雪国さんは笑いを噴出す。


「ぷっ! あはははっ! な、何言ってんのよ! あははは!」

「あ、あのな……人が励ましてやろうと……」


 腹を抱えて笑う雪国さん。あんまり笑われると、流石に恥ずかしくなってきた。あまりの恥ずかしさに顔が熱くなり、思わず視線をそらした。

 相変わらず笑い続ける雪国さんは、そんな僕の肩を叩きながら、


「大丈夫だよ。僕は今ここに居る。この先も、ずっと……ぷふふっ! だはははっ!」

「う、うるさいよ! 繰り返すなよ!」


 大笑いする雪国さんにそう怒鳴ったが、全く効果は無く笑い続けていた。更に顔が熱くなっていき、もう俯くしかなかった。それから、数分間ずっと雪国さんに笑われ続けた。



「ったく、笑いすぎだろ……」


 森楼学園の校門前。閉じられた校門を開けながらそう言うと、目尻に涙を浮かべながら、


「いやーだって、まさかあんたがあんな事言うなんて思ってなかったからさ」


 と、雪国さんは笑みを浮かべる。自分でも不思議だ。どうしてあんな事を口走ったのか。言った後後悔した。そりゃもう、今まで生きてきた中で一番。そして、この先、二度とあんな事は言わないと心に誓った。

 校門を潜って気付く。周囲のザワメキに。雪国さんも気が付いたのか先ほどまでの顔が、真剣に変わっていた。

 教室の窓から身を乗り出す生徒達。今は授業中のはずなのに、一体どうしたんだろうと、周囲を見回す。その時、僕のクラスの教室から吉井さんが声をあげる。


「晃! グラウンドに変な二人組みが!」


 吉井さんの言葉にグラウンドの方へと視線を向けると、グラウンドの中心に二人組みの男女が居た。男の方は背丈が高く奇抜な服装で、楕円のサングラスを掛けていた。女の方は背丈は低く僕や雪国さんよりもやや幼く見えるが、膨らんでいる所は膨らんでいる為、多分同じ歳位なんだと思う。

 デコボコな二人組みを見ていると、不意に隣りで雪国さんが小声で僕の名前を呼んだ。


「……晃」

「何?」


 顔を動かさず小声で返答すると、雪国さんがスッと二人組みの後ろに倒れる人を指差す。


「あれって……加賀君じゃない?」

「エッ?」


 雪国さんに言われ、目を凝らし確認する。それが、博人であると。


「博人!」

「ちょ、ちょっと待て! 晃!」


 思わず叫んで走り出す。雪国さんの制止する言葉を無視して。

 その声に、二人組みも僕らの方へと目を向ける。男の方と視線が合った気がした。相手がサングラスをしてる為、定かではない。だが、女の方とは間違いなく視線が合う。切れ長の鋭い目つきに威圧され、思わず立ち止まると、彼女の蒼い瞳が静かに伏せられ、小さなため息を吐いた。


「ふぅ……。あなた、それでもガーディアン? それとも、その自覚が無いの?」

「どう言う意味だ?」


 彼女の言葉にそう返答すると、彼女はサッパリだと言わんばかりに頭を左右に振る。


「言ってる意味も分からないの? あなた、ガーディアン失格ね」

「あら? それじゃあ、あんたも、失格なんじゃないの?」


 そう告げたのは雪国さんだった。いつの間にか彼女の背後に回り込み、博人の安否を確認していた。その手には蒼い銃ヴィリーが具現化され、銃口は女の頭に向けられていた。

 

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