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ナマモノ萬歳  作者: CGF
6/6

完璧なる家畜


古来、有史以前より人間様は『食用』『使役』『愛玩』として他の生物を飼育してきた。



それらを総称して『家畜』と呼ぶ。



「愛玩はペットだろ」最近出来た言葉じゃボケッ!





彼等家畜は既にして自然環境で繁栄するのが難しい。


家畜を野に放つと、元々の原種と混ざり合って子孫は残る。


しかし品種改良された家畜という血統はそこで途切れる。子孫は原種との雑種であり、代を重ねる毎に血統は薄まっていく。


それでも、家畜は逃げ出す機会を狙っている。


『繁栄』とは『繋がれた栄え』


自然という地獄への逃亡は、彼等にとって未だ『自由は然り、繋がれた生より地獄での死』であるのかもしれない。





ここに完璧な家畜が存在する。


小さな虫である。


かつて、この小さな虫の為に『くわ畑』という地図記号があった。



カイコガ。


お蚕様──蚕には『お』と『様』をつけよ──は逃げない。


人間との数千年に及ぶ永きつきあいは、生存に関わる全てを人間に委託する事で成立してきた。




幼虫の頃、お蚕様は桑の葉をお食べあそばす。


そのおみ足はものに掴まる力が無い。


例え木の枝、葉の上に乗せてもお蚕様は掴まらない。ころりと転げあそばす。



『食べる時に葉を押さえておければそれでいいじゃない。何で枝を歩かなければならないの?たべものは持ってきてもらうものよ』



平たい飼育台にお食事の桑を納めるのは奴隷である人間の仕事だ。人間は危険を顧みず屋外へ桑の葉を毎日採りに行く。勇敢な奴隷である。





蛹になるまでお蚕様は糞をなさらない。



『まぁ、私達高貴な生まれの者が糞など生涯に一度きりよ。毎日糞を撒き散らす不潔な猫と一緒にしないでちょうだい』





蛹になる直前に体内の糞は排出され、お蚕様は清潔なお身体で繭糸をお出しになられる。



『貴方、ぐずぐずしないで繭床を用意なさい。私これから逢瀬を楽しむ為に仕度しなくてはならないわ。美しく変身する私を楽しみにお待ちなさい』






純白の繭のなか、完全変態を遂げたお蚕様は繭を破り翼を広げる。



『翼?これは衣装よ。何故飛ばなきゃならないの?』



成虫となられたお蚕様は福々しいお姿をされており、やはりおみ足が弱く、翼の羽ばたきで勢いをつけてお歩きめされる。


そうして異性との逢瀬と産卵によってその生涯を閉じる。


※お亡くなりになったので下手な敬語をやめる。




成虫になってからは餌を食べない。成虫とは『大人』ではなく『卵を産む為の特殊形態』であるからだ。


その昔は糞をいろりの下に納め、一年後に収穫した。遠熱法による硝石製造。鉄砲の火薬、その材料である。


繭は茹で、生糸を収穫した。絹は人類史上最高の織材であり、宝石、貴金属と比べられる。


茹でられた蛹にも利用法があり、佃煮にして食用、粉末にして釣餌、堆肥に混ぜ肥料と用途に困らない。




お蚕様は逃げない。


人間が逃げない様に品種改良したのだろうか?


それともお蚕様自ら逃げる事を止めたのか?



逃げず、多目的に利用が出来、捨てるところが無い。


お蚕様は完璧な家畜と謂える。



『あら、完璧な家畜は貴方でしょ?ここまで尽くしてくれる家畜なんていないわ。茹でられるのは運が無いからよ、自然に生きていたらもっともっと死んじゃうんだから。人間は私達を繁栄させる家畜よ』



ごもっとも。




────ナマモノ、萬歳!




────────────────終。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いやあ……素晴らしかったです(´;ω;`)ウッ… 内容も大好きなんですけど、その文学的なセンスと圧倒的な筆力を惜しげもなく使っている本気度と遊び心のバランスが最高です。 私の中でレジェンド…
[良い点] 蚕は自分で生きられない、っていうのを聞いてついつい「哀れ」に思ったりもしますが、見方を変えれば人を使役しているわけですね。 使わない機能はやはりなくなっていくもんなんですかね。人にとって最…
[一言] 驚きました。 枝に掴まる力もないとは。 まさに、蝶よ花よと育てられるのですね。
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