閉塞(4)
酷く端的な表現だと思った。端的すぎて、逆に何を言っているのか、僕には一回では理解できなかった。
「それって……どういう、意味。」
「原因は分からない。心身喪失状態で…医者もさじを投げた、って。」
これは、本当に現実だというのだろうか。
そんなの、信じられない。
「……そんな、……。そんなの……助かってても、」
死ぬのと同じくらい辛い。出かけた言葉で僕は息を詰まらせた。同時に心臓が潰されるのではないかというほどの胸の苦しさが襲ってくる。後悔、罪悪感なんて言葉で、とても言い表せるものじゃない。
「……ああぁああ…!!!」
潰れた胸から溢れた、感情の波を吐き出すしかなかった。ルチアを助けたとしても、助けられなかったとしても。僕があの場所を話題にあげて、洞窟に行く話にならなければ、こんなことにはならなかった。そもそもルチアが見たものが何だったのか探そうとしたのが間違いだったのだろうか。
僕はただ、最後に思い出を作りたかっただけなのに。やがて一人になってしまうルチアを、少しでも励ましたかっただけなのに。そんな言い訳をいくら並べてみても、突きつけられている現実が変わることはない。僕は喘ぎ続けーー
やがて沈黙した。
「シオン。…まだ望みがなくなった訳じゃねえ。ルチアはーー今、お前の親父さんが見てる。」
僕は無気力に視線をマルコーに向ける。
「………。父親が?」
「なあ、シオン…お前が言ってたこと、間違っちゃいなかったんだよ。少なくとも俺はそう思う。だって俺達も見ただろ?」
思い出そうとしなくてもフラッシュバックする。あの湖の光のことだろう。
「あんなこと、俺達の、一般人の常識の範囲を越えてるよ。……親父さんがいうにはな、ルチアは『無粒子溜まり』に落ちたらしいんだ。」
マルコーが父親が使う言葉ーーしかも僕の聞いたことのない単語ーーを口にするなんて、普段ならきっと驚いていただろう。
「ルチアが見てたのも、無粒子の可能性があるって。もしそれが原因だったなら、まだ医学で踏み込めてない分野だ。医者が治せなくても治療法が探れるかもしれない。ルチアを元に戻せるかもしれないんだよ!」
その口調はまるでいつもの僕のようだ。僕はいつもこんな嬉しそうな顔をして語っていたのだろうか。だけど急にそんなこと言われても、今は逆に僕が置いてきぼりにされているようだ、僕はただ呆然としてそれを聞いているしかない。
「だから俺、決めたんだ。俺はこれからお前の親父さん……いや。アルキメデス博士と無粒子の研究を進めることにするよ。」
窓の向こうから西日が傾いてきて、僕らを照らし始める。マルコーの立ち姿は、無機質な病室のなかで異様に浮き彫りになって見えた。向けられたその眼差しには、一点の曇りもない。
「あの一件で、俺とお前はもうルチアに会うことを禁じらてる。でも、今フルクシオはルチアをアルキメデス博士に任せてるんだ。研究チームだって博士のために立ち上げてくれた。その協力をするなら、必要な時には許可してくれるって!」
「……。」
「だからシオン。まだ終わりじゃない、その為にはお前の力が必要なんだ!シオンも親父さんと…俺と、無粒子の研究を続けようぜ!」
マルコーの手が、差し伸べられた。
「一緒にやろう。俺達ならーーきっと出来る!」
僕は、その手をーー