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異世界の同僚

「ヒューッ…ヒューッ…」

「うっし。今日はこれぐらいで充分か」

肩で息をするという表現がある。この言葉がどういう意味なのか知らない人が今の僕を見たら、即座に理解するであろう。

いや、そもそもこれは虫の息ではないのか?要するに早い話が、僕が死ぬほど疲れているという事である。

「明日は兜と鎧着けるからな。これでバテてるんじゃ倒れるぞ…ん?いや、倒れてるな」

カルムはほんの少し汗をかいているぐらいだった。

「隊長…」

「なんだ?肩貸して欲しいのか?」

それも確かにあるが、その底無しの体力は何処にあるのだろうか。聞く暇も無く、カルムは僕の手を肩に置いてきた。

「…ありがとうございます」

「おう。木刀ぐらいは持てよ」

染みる掌で、僕は木刀を握った。







重い足取りでゆっくりと兵舎の部屋まで送ってもらう。

「食堂の場所は覚えてるよな。風呂入って汗流して勝手に食いに行けよ。道分からなくなったら他の奴に聞け」

それだけ言うと、部屋を後にした。

即座にベッドに倒れこみたいが、こんな汗だくの状態でベッドに倒れるのも流石に気が引ける。

「えっと…」

教えられた引き出しから着替えを取りだし僕は浴槽に向かった。

疲れが判断を鈍らせ、捻りが強すぎて火傷をしかけた。






部屋を出て、記憶の道を辿る。確か近くが物置?いや武器庫か。

廊下をしばらくまっすぐ

「君」

「ひゃいっ!?」

突然掛けられた声に驚く。振り返ると眼鏡をかけた青年がいた。

「あ、ごめん驚かせちゃって。今から食堂に行くの?」

「えっと…貴方は」

「ここの流儀に従って名乗らないでおくよ。君と同じく夢見てた馬鹿な男さ」

青年は腕を見せる。僕と同じ剣の模様が描かれた腕輪をしていた。

少しだけ呼び方を考え、咄嗟に思い付いた呼び名を僕は口にしていた。

「…メガネ君」

「へっ?」

「あ、いやアダ名だよ。名前は知らなくても、分かりやすいから」

「成る程、安直だけど分かりやすい。君はなんて呼ぼうか?」

「社畜」

無意識の内に僕は自分を社畜と言っていた。自分でも驚く。

「あ…いや…」

「社畜…成る程。どうやら君とは気が合いそうだ」

メガネ君は笑った。

「え?それって」

「とりあえず食堂に行こう。話は歩きながらでも」

「あ、うん」

僕とメガネ君は食堂へ向かうことにした。









「へぇ。やっぱり君の世界にも」

「ああ。奴隷の様に使われる側と使う側。俺はどうやらその競争に負けたらしい」

少しばかり道に迷いながらも、僕達は食堂へたどり着いていた。手近な空席を見つけ座る。

どうにもメガネ君とは非常に親しみやすい、というか同じ匂いを感じ取っていた。

「異世界なら皆笑って過ごせると思ったんだけどな」

「俺もそう思ってたよ。社畜君の話聞いてたら、存外そうでもないみたいだけど」

メガネ君もまた、社畜君だった。異世界という幻想が着々と現実になっていくのが身に染みて分かる。

「まぁパワハラは無かったけどさ」

「パワハラ?」

「パワーハラスメントって言って…僕の世界だと仕事で殴ったりすると訴えられるんだ」

「ふーん…やっぱりそういうのってどの世界でも共通なのかな」

「メガネ君の所は?」

「社畜君と同じだけど」

「あはは…何だか本当に他人とは思えないや」

「俺も。むしろ同僚って奴に近いかな」

メガネ君はどうやら、こちらで言う管理職に就いていたらしい。結構いい役職だと思いきや、指示に従わない部下と無茶な事を言う上司の板挟みでストレスフルのブラック勤めだった。

「そんな時に…まぁ、帰り道だったね。高速エレベーターの明かりが消えたと思ったら、突如…そう。君も見たろ?」

「うん。あの白い部屋」

「そう。でも俺の部屋は白髪じゃなくて水色のショートカットの人だったな」

「美人だった?」

「言わずとも分かるだろ?」

僕とメガネ君は顔を合わせて笑う。

「お待たせしましたー」

「あ、ありがとうございます」

「どうも」

談笑中に頼んでいた料理を、これまた美人のメイドが運んでくる。

「…えっ?」

「ごゆっくりどうぞー。あ、食器は置いたままで結構ですよー」

メイドはそう言うと、一礼して通路を戻っていく。



色鮮やかで、なおかつ見ているだけで涎が出そうな料理が目の前に並べられた。

「…」

「…」

僕とメガネ君は絶句する。特に気に止めても居なかったが、回りを注意深く見ると、他の席にも同じ豪華な料理が配膳されていた。

「…いただきます」

「…いただきます」

食前の挨拶は共通のようだ。いや、腕輪の魔法でそう聞こえているだけかも知れない。

味は言うまでもなく格別だった。どこか優しい味がした気がする。








「どう思う?」

黙々と味を噛み締めていたが、メガネ君が静寂を切り裂いた。

「…どうって?」

「俺が思うに…この処遇だよ」

「…」

確かにそうだ。異世界からの代理戦争の駒としての扱いなら…まぁ、栄養不足はさすがに不味いが…にしたって、これはむしろ豪華過ぎる。

最低限の食事とは思えないぐらいの食事だった。

「おかわりは必要ですか?」

先程とは違うメイドが僕達に尋ねた。

「あ、大丈夫です」

「俺も大丈夫です」

「そうですか。お口には合いましたか?」

「とても美味しいです。ありがとうございます」

「明日が楽しみですよ」

「良かった…明日もまた、腕によりをかけて作らせていただきますね」

メイドは嬉しそうに通路を戻っていく。

「…最低限どころか、むしろおかわりも、って」

「…死ぬ前に良い思いをさせるか。ここの国王も人の心は捨てきってないみたいだな」

メガネ君は吐き捨てるように、王への怒りを露にした。

「…僕は自業自得って思ってる」

「…分かってるさ。だけど…このやり場の無い怒りは誰かに向けないと耐えられないんだよ…」

僕は目の前に座る彼の震える手を見逃せなかった。





「それじゃ、また明日」

「ああ、お休み」

食事の後、僕達は今度は迷わずに兵舎へと辿り着く。メガネ君は奥の自室へと戻っていった。

「…生き残るさ」

先程のメガネ君の言葉を聞き僕はそう呟いた。






今日の事を思い出しながら、寝支度を整える。

ショックからの嘔吐や久々に感じた激痛、人を殺そうとする覚悟。そしてそれに慣れ始めつつある自分の適応力に若干嫌気が指した。

しかし出会いもあった。ソラやメガネ君と言った友人…いや、戦友と言うのか。

クロアさんやカルム隊長、向こうでは絶対に会うことは無い魔法と言う夢。

「…等価交換ってやつか」

そう。何も捨てずに何かを得ようとした僕。

そんなの無理に決まってるじゃないか。ハーレム?チート?何も代償が無いのに?

「お酒無いかな…」

向こうの世界の悪い癖が本能的に言葉に出ていた。

自己嫌悪に陥った時は、強いお酒を呑んで思考を鈍らせていた。大体翌日は二日酔いで電車に揺られていたが。

食堂に戻ってメイドさんに頼んでみようか。いや、少し厚かましいかな。


そんなことを考えていると、部屋のドアがノックされた。

カルムだろうか?

「起きていますか?」

透き通った声がしたのでその可能性は無くなった。応対にドアへ向かう。

「はい」

目の前にはメイドさんが居た。相変わらず可愛らしい。

「洗濯物の回収に来ました。何かお代わりありませんか?」

そうだ、今朝カルムが言っていたっけ。

「あ、すいません。今持ってきます」

「いえいえ。失礼します」

メイドさんは静止を押しきって部屋の中へ入る。

洗面所へ向かい、慣れた手付きで洗濯物を籠の中へ入れた。

「それはそうと、お疲れではありませんか?」

「えっ?ああ…凄く」

「でしょうね。外ではここでするような事はしませんからね。ベッドに横になってください」

「えっ?」

言われるがままベッドに横になる。するとメイドさんは手を発光させだした。

「魔法?」

「はい。とは言っても、本当に初歩中の初歩ですが。大怪我とかはどうしようも無いですが、擦り傷や筋肉痛程度なら」

ああ、腰痛が酷いときにマッサージ店行ったっけ。あれも魔法だったのか。

そんな馬鹿なこと考えている間に、手の豆の後がゆっくりと消えていった。心なしか体も随分軽くなった気がする。

「あの、メイドさん」

「はい?」

「お名前は」

「あ、私ですか?イヴと申します」

「イヴさん、ですか。よろしくお願いします」

「さんはいいですよ。その…私がこんなこと言うのもあれですけど…頑張って生き残ってください」

頑張って、僕はその言葉が大嫌いだった。中身の無い、とりあえず言う頑張って。

だけれど、今イヴが言った頑張っては少し好きになれた。言葉の重みが余りにも違いすぎたから。


段々と眠気が強くなってくる。リラックス効果もあるのだろうか。

寝たら失礼かな。

「がああぁぁぁ!!!!!!!!」

「!?」

突如外からの悲鳴に僕は飛び起きた。イヴは悲鳴では無く、飛び起きた僕に驚いた様子だった。

「あー…次から担当変わるかな」

「えっ?あの…何が?」

「えーとですね…腕輪ですね」

「腕輪…これ?」

イヴに腕を見せる。彼女は頷いた。

「狼藉…と言えば」

「…あっ」

成る程。納得した。

「ところでイヴ、メイドさんは美人揃いだけど…何かあるの?」

少し気になっていた事を聞く。守秘義務で答えられないかもしれないが。

「うーん…王様の趣味って事にしておいて貰えますか?」

「…そうですか」

「そろそろ体は大丈夫そうですか?」

「あ、お陰さまで」

体は絶好調だった。気分も悪くない。

「それじゃ私はこれで失礼します。おやすみなさい」

「おやすみ」

ドアは静かに閉まった。


色々あったが今日はよく眠れそうだ。

僕はベッドに倒れ目を閉じた。










----逃げの一手----

代理戦争のネームは完成してるんです…

気力の問題です…


しばらく更新停止します…

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