幸せのゴールテープ
インタビュアーと女性ランナーの二人が、テレビカメラの前に並んで立っている。
「放送席、放送席! たった今、ゴールテープを切りました、山田さちこさんです! おめでとうございます!」
インタビュアーは、手に持ったマイクをランナーに向けた。
「ありがとうございます!」
女性ランナーは、額の汗を手でぬぐった。
「どんなマラソンでしたか?」
インタビュアーは笑顔で問いかける。
「それはもう大変でした。何度も諦めようと思いましたけど、ゴールした後の幸せを想像して、頑張りました」
ランナーも笑顔で答えた。
「お疲れさまでした。ゆっくり休んでくださいね」
「はい!」
「以上、現場から……あれ? どうしましたか?」
インタビュアーはカメラから目を離し、隣のランナーを見た。
ランナーは目を閉じ、何度も小さく首を横に振っていた。
「……あー、もうヤバいです」
ランナーは首を振るのをやめ、深いため息をついた。
「な、何がですか?」
「ゴール鬱です」
「ゴール鬱?」
インタビュアーは不思議そうに首を傾げた。
「前にゴールしたときも、こうなったんですよ」
ランナーは何度もうなずきながら答えた。
「どんな状態なんですか?」
「ゴールという目標を達成した途端、幸せが消えちゃうんです。心にぽっかり穴が開いたような……そんな感じです」
「えっ? ゴールしたら幸せになれるんじゃなかったんですか?」
「走っている最中は、そう思うんですけどね……。でも、達成した瞬間に変わっちゃうんです」
「そんな、バカな……」
インタビュアーは驚き、言葉を失った。
「……あっ、じゃあ私、また走ってきます」
「えっ? 今からですか?」
「はい。次のゴールを目指して走っている間が、一番幸せなのかもしれませんね」
ランナーは苦笑すると、その場をあとにした。
残されたインタビュアーは、しばらくその背中を見つめていた。
人生も、そうなのだろうか。
目標を追いかけている間は幸せなのに、手に入れた途端、その幸せを失ってしまう。
なんとも皮肉な話である。




