実況・夢の崖 (注)小説家を目指す方は見ないほうが良いです
実況:
現場は「小説家」の崖を映しております。ヘリからの実況中継です。
実況は私、佐藤。解説は夢追い人マスターの高柳さんです。よろしくお願いします。
高柳:
はい、よろしくお願いします。
実況:
ご覧ください! 数多くのクライマー、つまり夢追い人たちが崖を登っています! すごい人数ですね!
高柳:
多いですねぇ。小説家という夢は、他の夢より追いかけ始めるのは比較的簡単ですからね。もっとも、叶えるのは別の話ですが。
実況:
なるほど……。
あっと! 5人が一気に崖から落ちた! 5人とも奈落の底へ……!
……あっ、違います! 1人だけセーフティーネットの上に引っかかっています! これはどういうことでしょう!
えー、情報が入りました。彼は定職についているとのことです!
高柳:
小説一本に絞らなくて正解でしたね。
実況:
ということは、夢が破れても生活は続けられると。
高柳:
はい。
残りの4人は……まあ、知りません。
実況:
その間にも、また1人、また1人と崖から落ちていきます! あっけない! 儚い! 夢とは、こんなものなのでしょうか!
高柳:
そうです。夢というのは、美しくて残酷なものなんです。
実況:
おっと、落ちることを恐れて途中で休憩している人もいますね。
高柳:
休憩は大切です。でも人生は短い。長すぎる休憩は禁物ですよ。
実況:
そんな中、先に登り始めた人たちをごぼう抜きにして、どんどん登っていく人がいます!
高柳:
ああ、彼はいわゆる才能のある人なんでしょうね。これは本当に頂上まで行くかもしれません。
実況:
その「かもしれない」が、今、現実になりました!
男は、なんと崖を登り切りました!
なんというスピードでしょう! これが才能というものでしょうか!
高柳:
それに彼は一度も休憩せず登り切りました。努力もできる人なんですよ。
才能と努力。その両方を持つ人が頂上に立つんです。
実況:
男は右手でガッツポーズを決め、喜びに浸っています!
おめでとうございます! 新たな小説家が今、ここに誕生しました!
……ん?
仮面をかぶった女性でしょうか。頂上に立った男へ近づいていきます。
高柳:
大会スタッフですね。
実況:
……何か箱のようなものを持っています。
パイロット、もう少し寄れますか?
高柳:
……あっ、そうか。
そうだった……。
実況:
高柳さん?
高柳:
いえ、何でもありません。
実況:
えーっと、仮面の女性が持っている箱ですが、上部に穴が開いていますね。
……くじ箱でしょうか?
あっ! 男が箱に手を入れ、くじを引きました!
高柳:
ハズレですね。
実況:
あっとーーー!!
その瞬間!
仮面の女が男の顔面へ回し蹴り!
かかとが直撃!
男は後ろへ吹き飛び、そのまま崖の下へ落ちていったーー!!
高柳:
私は忘れていました。
夢を叶えるには、努力と才能だけでは足りない。
最後に必要なのは――運なんです。
(おわり)




