バレンタイン作戦
小学校の昼休み、教室でたけるとまなぶが2人で会話していた。
「今年も来たな」
「えっ何が?」
「バレンタインに決まってるだろ!?」
たけるは満面の笑みでグッドポーズをとった。
「あーバレンタインね」
まなぶはうん、うんとうなづいた。
「テンション低!楽しみだろ?」
「楽しみだったんだけどね……」
「あっそっか、もらえる見込みがないってことか。そんな落ち込むな、ワンチャンあるかもしれないぞ?!」
たけるはまなぶの背中をたたいた。
「あー逆逆。」
「逆?」
「バレンタイン、10人もらえる予定だから」
「……は?お前正気か」
「あの時は正気ではなかったけど今は正気だよ」
「あの時?」
「あーあの時だよ」
まなぶは机に頬づえをつき、窓のほうに目をやり、ふっとため息をついた。
「いやいや、あの時って言われても困るんだけど。お~い聞いてる?」
たけるはボーと外を眺めるまなぶの目の前で手をひらひらさせた。
「聞いてるよ。あの時というのは……」
まなぶの視線はまだ窓の方に向いている。
「あの時というのは……?」
「たける、今日、放課後〇〇公園行かない?」
まなぶはたけるの方に顔を向けた。
「また〇〇公園行くのか?何で?」
「行ったら僕がチョコをもらえる理由が分かるよ。」
放課後
「〇〇公園に着いたけど、どうするんだ?」
「えっともうすぐ来ると思うんだけど」
まなぶはあたりをキョロキョロ見渡した。
「来るってまさか?」
「あっ来た」
たけるとまなぶの前に現れたのは例の学級委員、あかねだった。
「まなぶ君、どうしたの?また私を呼んで。もっとチョコもらいたいの?」
あかねは微笑んでいる。
「いや、キャンセルしたいんだ。」
「えっ何で?」
笑顔のままだがあかねの口が一瞬引きつった。
「だってもらったってうれしくないから。お金で買ったチョコをもらうなんて虚しさしかないんだ!」
まなぶは大声で叫んだ。
「無理ね、返金はしないことを買う前に言ったよね?」
「……そんな」
「えっとお二人さん?」
たけるが2人の会話に割り込んだ。
「お金で買ったチョコをもらう?どういうことだ?」
「たける君は知らないのね。じゃあ……」
あかねはスカートのポケットから白い紙を取り出した。
「はいどうぞ、今日中に申し込めばバレンタイン当日に間に合うからどうかしら?」
たけるは紙を見た。
紙にはこう書かれていた。
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男子必見!
バレンタイン作戦!
あなたもモテモテになりませんか?
中身なし 1人1万円
中身あり(市販)1人2万円
中身あり(手作り)1人5万円
詳細は学級委員に聞いてください。
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「バレンタイン作戦?」
「お金を払えばバレンタイン当日、ランダムで女子からチョコをもらえるサービスよ」
「またあこぎな商売してるな……」
「あら、褒めてくれてありがとうね」
「褒めてない!てか空箱1万円とかどうかしてるぞ。他の値段もバグってるけど」
「ふふふ、たける君、まだまだ子供ね」
あかねはチッチッチと人差し指を揺らしてみせた。
「ねぇ、考えてみて。男子は何でバレンタインが待ち遠しいわけなの?」
「そりゃ、女子からのチョコが欲しいからだろ?」
たけるは両手を広げた。
「表向きはね。でも心の奥底では違う感情が芽生えてるわ。さぁ自分を見つめ直して」
「自分を……?」
たけるは腕を組んで考えた。
チョコが欲しいのは表向きの理由
俺はなんでチョコが欲しいのか。
それはもてたいから。
もてたいということは……あっ
「分かったかしら?」
あかねは終始笑顔だ。
「他の男子よりも多くのチョコをもらって、羨ましがられたい……」
「そう、その通り!マウントを取りたいのよ、皆。教室で女子からチョコをもらう瞬間を他の男子に見せつけたいのよ。例え空箱だとしてもね。だから需要があるのよ」
「なるほど……やっぱえぐい商売だ」
「あら、そうかしら。これも社会貢献よ。男子は承認欲求を満たすし、女子は小遣い稼ぎができるからね」
「女子に渡すお金なんて売り上げのほんの一部だろ?後は仲介手数料とやらでガッツリ儲けてるんだろ?」
「あら、売り上げの60%しかもらわないわよ。良心的でしょ?」
「どこが良心的やねーん!」
たけるは突っ込んだ。
「あのう、あかねちゃん……」
さっきから黙っていたまなぶが口を開いた。
「1個だけでもキャンセルできない?今月発売する新しいゲーム機が買いたいんだ。頼む!」
まなぶは手を合わせて頭を下げた。
「無理ね」
笑顔だがあかねはどこまでも冷酷であった。
「お前お小遣い50万だろ、ゲーム機1つぐらい買えるだろ?」
たけるはまなぶに聞いた。
「たける、俺何人チョコもらえるか言っただろ?」
「えっと10人って言ってたな……お前まさか」
「そのまさかだよ。10人とも手作りにしてもらったんだ。合計で50万消えたよ……」
まなぶはそこで膝から崩れ落ちた。
「……空箱で良かったんじゃね?」
たけるは冷静なことを言う。
「あの時はどうかしてたんだ……クラスメイトがバレンタインでワクワクしてる様子を見て焦ったんだ。俺だけ誰にも貰えなかったら恥ずかしいだろ」
「貰えない人のほうが多い気がするけどな……」
「そんな時、この紙をもらって、空箱1つを頼もうとした。けどこの女こう言ったんだ」
まなぶはゆっくり立ち上がり、あかねを指さした。
「『空箱1つもらったって虚しいだけよ。どうせなら手作りをもらいましょう!それにもっと多くの人からもらいましょう。それであなたは幸せになれるわよ』ってな!」
まなぶは叫んだ。
「そうか、そうか……」
たけるは何を言えば良いのか分からなかった。
「フフフ、アハハハハハハ!」
あかねは顔を少し上げ大きく口を開け笑い出した。
「醜いわよ、人のせいにするんじゃないよ」
あかねはそう言い残し、立ち去った。
静寂な公園。まなぶはまた膝を地面につけ崩れ落ちた。
「うっうーうーう……」
まなぶは声を押し殺しながら泣き出した。
「まぁ……強く生きろ、まなぶ」
たけるはまなぶの肩に片手を置いた。
バレンタイン作戦
あなたは使いますか? (おわり)




