29.婆様
みんなが解体で湧いている中、婆様の姿を見ていない。
婆様が解体するわけじゃないのだから、ここにいなくんても問題はないのだけど、顔を出さないというのが不思議な気がする。
もしかして、何かあった?
マルク隊長はいる?
他の兵士はいるのに、先ほどまでいたマルク隊長がいない。
もしかして、本当になにか?!
ホッとしたところに、重要な二人がいないことに気づき慌てた。
近くの人に聞いてみようかと思ったけれど、みんな忙しそうにしている。ならば自分で婆様の家に行ってみたほうが早いと、駆け足気味に行ってみた。
あれ?
少し前までいた時と、何かが違う。何が違うのだろう?
間違い探しをするかのようにみてみるが、違和感がなにかがさっぱりわからない。お尻の座りの悪さを感じながらも、婆様を探すほうが先と中へ入った。
「婆様?婆様居ますか?」
「マルク隊長?」
全く物音ひとつせず、人の存在を打ち消すかのような静けさだけど、間違いなくこの中に三人いる。
ってか、三人?
もう一人は誰?
気配を探ってももう一人が誰だかわからない。
まあ、他の人は殆どあっていないのだから、わからないのは仕方ないのだけど、わからないことが問題。
だって、声を潜ませて要られたら、危ないと警告していると同じ事なのだから。
短剣を右手に持ち、左手でドアを開けた。
開けた瞬間に矢?いや針が飛んできた。
暗殺者?!
もしかして、国からやって来た曲者?!
この町を見捨てて、魔物の餌になるように仕向けた国からなら、容赦しない。
そのまま反射させるように、その針を飛ばし返した。
狙った場所へ反射させてしまえば、脅しなのか殺しにかかってきたのかすぐにわかる。
ウッという一瞬の呻き声の後、動きがなくなったのでゆっくりとドアを開けた。
そこには首を切られ、虫の息の婆様がいた。
斜め掛けバッグからとっておきの回復薬を出す。
首に掛ければすぐに血は止まり、漏れ出るような空気音が収まった。
口と鼻に耳を近づければ、小さいなりに息をする音が聞こえてホッとした。
外の傷はこれでいい。
もう一本回復薬をだして、ゆっくりと婆様を起こして飲ませていけば、真っ青だった顔色にほんのりと赤みがさしかかる。
本当に嫌になるぐらい世界樹の葉で作った回復薬は、効果がある。
婆様が魔力を持っている巫女で良かったというべきなんだろうか。
マルク隊長は・・・気を失っているだけで、生死は問題なさそうだ。
だけど、この状況が問題だよね。
国から派遣されているマルク隊長は昏倒させれるだけなのに、婆様だけが刺殺されるとかおかしい。
これはどういう意味を示しているのだろうか。
・・・考えてもわからない。
婆様があの家に入れるなら、受けれればいい。
ダメなら、その時考えよう。
一先ず、ここに居てはいけない。
反射させた針によって仮死している者を見る。
凄いね。
足で蹴っても、ピクリともしない。
起こしてどういうつもりだと、聞くなんて面倒に付き合う気もない。
婆様だけ、今からすぐに連れて帰ろう。
帰りはトレースするだけだし、魔物も出てこないだろう。
一気にブーストかけて、転移扉まで一気に行ってしまおう。
問題は婆様をどうやって運ぶか。
あたしが背負って行くと、血をかなり失った婆様にかなりの負担を強いる。
リデルに運んでもらった方が、いや、そうだよ。
リデルがいた!
婆様を背負ったあたしが、リデルに乗って森を駆け抜ければいいんだ。
婆様は小柄だから布で覆ってしまえば、街の人は魔物を持って帰っていると思ってくれるかもしれない。
迷っている時間はない。
マルク隊長が起きても、第二弾がやって来ても面倒だ。
「婆様、少し揺れますが頑張って下さい」
聞こえていないはずなのに、頷いた気がした。
名前を付けた時から繋がっているリデルを呼ぶ。
闇に潜むようにそっと窓の外に現れた。
流石、黒狼。
「リデル、あたしを乗せてこの町を急いで出て。背中に婆様がいるから静かにね」
頷いたリデルの背中に乗った。
「他の狼たちも後から追いかけてくるように」
「さあ、行くよ」
世界樹の根が燃えて燻っている場所を横目に、低くなっている塀を颯爽と飛び越え、リデルは森へ駆けた。
解体に夢中になっている人々は気づかない。
問題なさそうだ。
風呂敷に包まれている婆様も大丈夫なのを確認して、更に森深くへ駆ける。
途中逃げ帰った魔物たちに合うが、襲ってくるどころか逆に明後日の方向へ逃げていくので、追い払う作業をすることなく、楽に行けそうだ。
それにしてもリデルの背中はなんて快適だろうか。
もふもふ具合は最高なのは当たり前で、吸い付くように体がしっかり固定され、必死にしがみつくこともない。
悪路な森の中だというのに、まるでリデルが飛んでいるみたいだ。
飛んでいるのだろうか?
後で確認かな。
追手など来るとは思えないけれど、万全を期しておく方がいい。
今はとにかく婆様を安全な場所に移したい。
よくわからないけれど、婆様を見ているととても懐かしい気がしてくるのだ。
目を覚ましたら、ゆっくりと話をしてみたい。
読んで頂き、ありがとうございました。




