プロローグ:2000年5月――犬神荘へ
【読者の皆様へ:閲覧上の注意】
本作は「イヤミス(読んだ後に嫌な気分になるミステリー)」の極致を目指した作品であり、以下の要素が含まれています。
• 極めて残酷な殺傷描写および損壊描写
• 薬物、精神的虐待、および毒親に関連する描写
• 精神的なトラウマを誘発する可能性のある心理的恐怖
• メタフィクション(読者への直接的な干渉)要素
心身の健康状態が優れない方、および過度なストレスを感じやすい方の閲覧は強く推奨いたしません。本作を読み進めることで発生したいかなる精神的・肉体的な不快感についても、当方は一切の責任を負いかねます。
これは単なる物語ではありません。「覚悟」のある方のみ、その扉をお開きください。
POV 1:犬神 江戸(Inugami Edo)
センチュリーの後部座席から、霧に包まれた軽井沢の別荘の門を眺めていた。隣には、朱里の遺灰が入った小さな骨壺がある。「見ていろ、朱里」と心の中で呟く。「お前を殺したネズミどもがやってきた。奴らの嘘を一つずつ解剖してやる。我が家の名を汚した罪を、血で洗いきるまでな」
POV 2:神崎 朱里(Kanzaki Akari)
小さな手鏡で化粧をチェックする。私の名前は、死んだ江戸の妹と同じ――退屈な皮肉。江戸が私を愛していないことなんて知っている。私はただのステータス、彼の評判を飾るアクセサリーに過ぎない。でも、それでいい。秀英高校の女王でいられるなら、私は江戸の掃除を手伝うわ。友人だと思い込んでいるあの愚か者たちを消し去るために。
POV 3:辰巳 大樹(Tatsumi Daiki)
スポーツカーのハンドルを握る手が震えている。また、あの『薬』が必要だ。クソ、筋肉の疼きが収まらない。何かを殴り殺したい衝動に駆られる。助手席を見ると、美結が青ざめた顔をしていた。あの日、何があったのか、こいつは何かを知っている。もし犬神家の前で口を滑らせたら、それがこいつの最期だと誓ってやる。
POV 4:森下 美(Morishita Miyu)
腕の痣をニットのカーディガンで隠す。大樹は飢えた狼のような目で私を見ている。彼が憎い。この学校が憎い。そして何より、死んだ朱里が憎い。私の臆病さを一番知っていたのは彼女だ。この別荘で、誰かが私を殺してくれればいいのに。そうすれば、この怪物に愛を注ぐふりをしなくて済むから。
POV 5:岡島 蓮 (Okajima Ren)
送迎バスの中で静かに座り、バッグの中のハンディカムを指でなぞる。MiniDVテープには、すべてが記録されている。誰も知らない秀英高校の暗部。目の前で偽善的な笑みを浮かべる奴ら。あの日、学校の屋上で朱里が泣いていたあの映像を、私が持っているとは誰も知らない。
POV 6:浅野 栞 (Asano Shiori)
折りたたみ式のPHSで短いメールを打つのに没頭している。『ゲームは今日から始まる』。連中が互いを疑い、怯える姿を見るのは最高の娯楽だ。一ヶ月前、学校のBBSに「犬神家の呪い」の噂を流したのは私。あとは特等席に座って、その炎が奴らを内側から焼き尽くすのを見守るだけ。
POV 7:一ヶ谷 慶介 (Ichigaya Keigo)
バスの隅でドイツ語版の『人体解剖学』を読んでいる。クラスメイトたちは、私が医学部受験のために猛勉強していると思い込んでいる。だが、私はただ想像しているだけだ。制服のジャケットに血を飛ばさずに、どうやって大腿動脈を切り裂くか。朱里は失敗作だった。私が十分に観察する前に、あまりにも早く死にすぎた。
POV 8:西園寺 エリカ (Saionji Erika)
犬神家の家紋を見るたびに、胃の底から吐き気がする。父は奴らに従えと言うが、私は奴らの秘密を知っている。朱里は天使なんかじゃない。彼女は私の当然の権利をすべて奪った泥棒よ。シャネルのバッグの中には、小さな毒薬の瓶を忍ばせている。もし江戸が私を追い詰めるつもりなら、妹の後に続かせてあげる。
POV 9:成海 亮介 (Narumi Ryosuke)
ディスクマンから流れる轟音が、頭の中の雑音をかき消そうとする。江戸が最高の「娯楽」を約束してくれたから、ここに来た。両親が離婚して以来、私はすべてを失った。今夜、私たち全員を閉じ込めたままこの家が燃え落ちるなら、それは最高に美しい卒業記念の花火になるだろうな。
POV 10:花村 静香 (Hanamura Shizuka)
革表紙の手帳を胸に抱きしめる。半年前、11月15日。私はすべてをここに書き留めた。誰がそこにいたのか、誰が彼女を突き落としたのか、そして誰が笑っていたのか。犬神家は自分たちが審判だと思っているようだけど、彼らは知らない。私が彼らの帝国を灰にするための「鍵」を握っていることを。
バスは犬神荘の重厚な扉の前で停車した。エンジンの停止音と引き換えに、軽井沢の深い森の不気味な静寂が辺りを支配する。十組の足が地面に降り立ち、それぞれの罪を背負って歩き出す。バルコニーの上では、ワイングラスを手にした一人の男の影が、獲物を見下ろしていた。
終わることのない、血塗られた卒業式へようこそ。




