002・忍者の若者はエルフの美少女を救う
王立魔法学校の過年度生
002・忍者の若者はエルフの美少女を救う
エルフと言えば美女、美少女と決まったものだが、荷車に立たされたエルフは、その上に超が付く美しさだ。
切れ長の目はエメラルドグリーンの瞳を宿し、髪と同色のプラチナブロンドのまつ毛に半ば隠され、その上の二重と飛行機雲の切れのような眉に荘厳されている。秀でた額は振り分けになった前髪に縁取られ、矛盾した表現だが柔らかな鋭さを感じさせる。頬と顎は、エルフらしくシャープなのだが、人で言えば十六七の少し幼さを感じさせる丸みを帯びている。唇はエルフにしては厚みがあって、けして煽情的ではないのだが、弾みのいい心を持っているように思えた。手かせ足かせが無く、荷車ではなく、エルフ王の玉座の横に王女の場所があったとしたら、そこにこそ相応しいと若者は思った。
「それでは、伝統にのっとり、この荷車を川岸にまで進め、祈りながら、贄をデトの神に捧げたいと思います」
キリキリキリ……
御者と助手が、馬を外した荷車を押し出す。エフタルは魔導士らしく、なにやら詠唱しながらエルフの肩に手を載せる。荷車の端が川にせり出したところで、その肩を押して神鎮めのフィナーレに持っていく流れだ。古くからの伝統儀式でもあるのだろう、慣れない旅人はともかく、近隣の者たちの何人かは、魔導士と同じ詠唱を唱えて荷車を押す。水かさを心配していた老人たちは帽子を持った手を胸にあてて恭順の意を示すばかり。
若者はタイミングを計った。エルフを救出するタイミングを。
忍術は磨き抜かれた技術、体術……ばかりではないと、忍者学校で悟り、忍術を超えるスキルを得るために転移してきたが。いまの局面は、その技術体術の発露の場面だ。
一秒で手順を反芻、次の一秒で必要な道具を確認し、真っ先に必要な一つを手にし、荷車がせり出した岸の顎の下に潜った。
ドン
エフタルの手がエルフの方を突く。
ドッポーーン!
エルフの少女は声も上げずに水しぶきを上げ、手足の枷のために浮き上がることも無く流れに呑み込まれてしまった!
若者は、手にしていたそれを少女に咥えさせ、次に手にした針金様のもので手足の枷を開錠、少女を背中から抱え、水中を勢いのまま流された。
エフタルや岸の者たちの目があるので、数分そのままに流される。咥えさせたマイクロ酸素ボンベは10分はもつが、いつまでも水の中には居られない。
川の流れが複雑なためか、いくつもの何かが追ってきているような気がする。二度ほど上がろうかと思ったが辛抱した。
——もう大丈夫だろう——
一キロほどは流されただろうか、ほぼ確信が持てたところで少女を抱えたまま岸に上がる。
ジャジャバーーーン
たった今——もう大丈夫だろう——と思った水中を何かが走ったような気がして、いっしゅん身構え、しゃがんだ姿勢のまま疾駆して、岩場の陰に身を潜めた。
少女が呼吸していることは抱きかかえていても分かって、救出に成功したと思った。
「さあ、もう大丈夫だ……」
華奢な体を苔の上に横たえ、咥えさせたボンベを外させる。
「え!?」
顔が露わになって驚いた。
エルフ少女は、百歳の誕生日を控えた老婆のようになっていた!




