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迷い人のお知らせ


 頭を殴られた女は、道にしゃがみこみ、濡れた手ぬぐいで(こぶ)をひやしている。

 隣には、手ぬぐいを渡してくれた魏泰が立っている。思遠や官吏は、周囲の男たちの手を借り、井戸から女の遺体を引き上げようとしている。


「お嬢さん、本当に何にも覚えてないのか?」


 女が魏泰を見上げた。すると彼にじっと顔を見られたので、「何かついてます?血ですかね?」と問うと、「いいや、綺麗なもんさ」と目を反らされた。その様子が、妙に引っかかり、女は首を傾げた。


「覚えていないというよりは、なんだか夢でもみているような変な気分です。もっと全然違う所にいたような」

「そりゃあ、どんなところだ」

「もっと都会的で、せわしなくて、ちょっと窮屈な……」

「まぁ、見る限り、俺たち貧民窟の人間と関わるような生活はしてねぇだろうな」

「そうなんでしょうか?私、わりとオジサンにも親近感有ります」

 魏泰を、オジサンと呼ぶと、彼の側に控えていた手下が彼女を睨みつけた。周囲に緊張が走ったが「そうか、そうか」と魏泰は愉快そうに答えた。


「名前すら思い出せないし、困ったことになりましたが、あちらの女性よりは良い状況ですかね。あの人……なんで、殺されて井戸なんかに捨てられちゃったのかなぁ。……酷い」

「さぁな、ここらの人間の命なんて豚より軽い。お嬢さんも、気をつけな。油断してると、あっという間に首切られるか、腰から下がなくなっちまうぞ」

 魏泰は、一見すると柔和な顔をしているが、その顔は一瞬で表情を変える。

 どんな荒くれ者も受け入れる器の大きい男だが、恐ろしい噂も絶えない。

「腰から下がなくなる⁉」

「犯罪者の刑罰にも色々ある。城旦春や鬼薪の労役刑で済めば御の字。死刑は酷いぞ。斬首は良い方だ。腰斬や、見せしめに、牛に四肢を引きちぎられたり、生きたまま煮られることもある」

「……」

 女は、震え上がり、自分をよく観察した。

 まさか、犯人ではなかろうか――


「疑われて、しょっぴかれたら最後、拷問されて、やってもない罪を認めさせられる。あの爺さんも、そうなるかもな」

 魏泰は、鼻で笑った。


「どこだか分からないけど、お家に帰りたいでーす」

「でかい迷子だな」

「迷い人のお知らせをしてほしいです」

「何だそれ?尋ね人の張り紙か?」

「そう、そんな感じで」

「おすすめしないぞ。悪い奴らにかどわかされてお終いだ」

「八方ふさがり!じゃあどうすれば」

「そりゃあ、お前……」

 魏泰の視線は、井戸を覗き込む思遠に注がれた。


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