玖
羅刹の初撃を鞘で受けて直ぐ様、斬り払った。が、籠手で防がれた。
足払いで、態勢を崩しに掛かる。其れも半歩、下がって躱される。僅かに振れた隙を衝かれて、羅刹の蹴りを腹に受ける。
「……ぐぅっ!」
予想以上に重く鈍い。
羅刹は蹴りの勢いを活かして、飛んで上段斬りを放って来た。
体を捻って躱しながら、廻し蹴りを放つ。
——確かな手応え。
空中で回転しながら、羅刹は蹴りの勢いを逃がしていた。同時に短剣の一撃を放っている。刀で払った直後、額を鞘で割られていた。
——だらり、と垂れる鮮血。痛みは余り感じなかった。脳内でアドレナリンが、分泌されているからだろう。
追撃を放つ羅刹。
体を捻りながら、刀で受け流した。脇ががら空きに成っている。鞘で打つと羅刹は、苦悶の表情を浮かべていた。
矢張り先の蹴りで、肋が何本か折れていたか。
後ろに飛んで、羅刹は距離を取ろうとする。逃がす心算は無い。
間髪入れずに間合いを、ぴたりと詰める。羅刹から繰り出される短剣の一撃を、刀で受け止める。
「……強い。本当に、強い!」
肝胆と感嘆の声が漏れ出ていた。此れ程迄に強き者と闘うのは、生まれて初めてで在った。心が充溢している。此れまで、貪婪に強さを求めていたのは、此の時の為だったのだ。
蝟集された想いが今、結実する時が遂に来た。陶然とした感覚に身体が包まれている。
「お前も、強いな……」
交わる声。
重なる刃。
高鳴る鼓動と抑え切れぬ衝動。ひりひりと身を焦がす様な、空気に包まれていた。此れ程までに満たされた事は、未だ曾て無かった。
「だが、まだ全力ではない。俺は、本気のお前と戦いたい!」
刀で払い、飛び蹴りを放つ。右の蹴りは、躱された。左の蹴りは、腕で受けて防がれた。身体を捻って、回転した勢いで再び右の蹴りを操る。
空中での三連脚。
「技の名は蓮華。よもや……此の技を使える日が来るとは、夢にも思わなかったぞ」
況してや、三連撃目に合わせて、短剣を放って来るとは思わなかった。
右足の靭帯を斬られていた。
「諦めろ。其の足では、真面に動けない。大人しく、其の刀を渡してくれれば、命までは奪わない!」
「興が醒める様な事を言うな。お前も武人ならば……解るだろう?」
死ぬならば、戦いの中で死にたかった。
互いに死力を尽くした上で、逝きたかった。
「成らば……俺も全身全霊の剣で、応えてやる!」
羅刹の真っ直ぐな瞳には、一点の曇りも無い。
「礼を言う」




