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咎人の詩  作者: 81MONSTER(日本を代表する怪物)ポンコツ犬のタナトス
第八話【武芸】

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拾



 擦り足で、間合いを詰める。


 【糸游(いとゆう)】を使い間合いを、狂わせるのが目的だった。


 どんな事情で在っても、人間を殺す訳にはいかない。刀だけを砕けば、其れで良かった。


 魔徒を討つ。其れが己の使命だ。


 人間を護る。


 其の想いに、反する真似はしない。


 戎三の放つ斬撃は、空を切っていた。既に自分は、背後を取っている。


「見事だ!」


 叫ぶ戎三。


 腹に鈍い痛みが走っていた。


 一瞬、何が起きたのかが理解(わか)らなかった。


 戎三は己の腹を貫いて、攻撃してきたのだ。其の捨て身の奇襲を、全く予測していなかった。


「不味いわよ、羅刹。彼が魔徒と同化したわ」


 羅刹は後ろに退がっていた。


「其れに……己を殺した事に縒(よ)り、鬼神化したわ」


 戎三の傷が癒えていく。


「気を付けて。彼の能力は《練磨》よ。既に貴方の技は、学習されてしまっている」


「戦騎を喚装しろ!」


 叫ぶ戎三。


 鬼神化しても、其の姿が変わっていない。


 そういう手合いは、決まって強い。


「何故、魔徒に身を委ねた?」


「言っただろう。俺は、本気のお前と戦いたい!」


 戎三は、斬り掛かって来た。


 戦騎を喚装して、籠手で受けた。


 短剣を、刀に変化させて斬撃を放った。


「お前ならば、騎士に成る道も在った筈だ!」


 極界の炎を、身に纏う。


「正義の味方は、性に合わん!」


 《糸游》を繰りながら、刃を放つ。上下に打ち分けながら、隙を窺う。


 だが、隙など微塵も見出せなかった。


「俺も同じだ。だが、今は護りたい者が居る!」


 先程、戎三が見せた蓮華を放つ。


 三連撃目に、刀を合わせて来る戎三。


「そして……其の存在が、俺を強くする!」


 更に身体を回転させて、鞘で刀を打った。炎の出力を、刀に集中させて五連撃目の斬撃を放った。


「見事だ。最早、一分(いちぶ)の悔いも無い!」


 炎の斬撃を受けて、戎三の身体は燃えていた。


 本当に強い相手だった。無聊を携えて掛かった己を、恥じなければ為らない。此の傷は、其の報いだ。薄れる意識の中、煌めく一陣の暉を見た。其れは戎三が放つ最期の暉だ。灰に成りながら、全霊の剣で斬り掛かって来ている。


 既に戦騎の喚装は解いていたが、問題は無い。


「誠にッ……天晴だッ!!」


 放たれた短剣を胸に受けて、戎三の身体は灰燼に帰した。


 ——爪倉戎三。其の強き者の名を、確りと心に刻み込んで短剣を鞘に納める。


「……糞。思ったよりも、傷が深い」


 眩暈がして、膝を着く羅刹。腹部が血に染まっている。其の出血量は、尋常ではなかった。此の儘では不味い。


 息が荒れている。身体に力が入らない。血と汗にへばり附く衣服が、異様に重い。脱力が全身を襲う。血に伏せば、途端に意識を失うだろう。抗い切れぬ睡魔が、曾て経験した死を誘う。


 意識が薄れて往く。


 此の儘では、不味かった。眠れば、確実に死ぬ。自分は未だ死ねない。漸く見えて来た光を、護りたい。


 刹那を、守護(まも)りたい。こんな処で、死ねる訳が無かった。


 何処か遠くで、声がした。


 自分を呼ぶ其の声が、とても温かくて心地良かった。気付けば、地に伏していた。


 温かい暉が、身体に触れている。意識が甘やかな微睡(まどろ)みに墜ちて、溶け込んでいった。



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