伍
道場で座禅を組む戎三。
昨夜、見えた少年に想いを馳せていた。
まるで思春期の少年が、意中の少女に恋い焦がれる様な心中で在った。初めて出逢った真に強き者。在の少年ならば、本気で死合える。
此れまでの修練を、試す時が来たのだ。己の武を、存分に振るえる相手が遂に現れた。
内奮える心を、抑え切れなかった。幼い頃に一度だけ、強き存在を見た事が在る。
光り輝く鎧を、身に纏い。醜く凶悪な魔物を討ち斃した騎士。魔物の正体は、父で在った。不思議と怒りや悲しみは無かった。共に居合わせた弟は、悲しみに涙していた。憎しみに染まった眼を、光の騎士に向けていた。
だが、己の胸中に在った物は、全く別の感情で在る。
其の騎士は真に、強き男で在った。猛る様な、雄々しき鎧。迸る程に鍛え上げられた体躯。全てを射抜くかの如き眼差し。
包み込む様な優しい笑顔を受けて、こう想った。
——何時か光の騎士よりも、そして誰よりも、強く成ってみせる。
昨夜の少年は、光の騎士に何処か似ていた。
目を見開いて、戎三は眼前の刀を見た。
——打刀・篠ノ雪。
銘こそは不明で在ったが、其の切れ味は折紙付きで在る。笹の上の雪を落とす程の切れ味から、付いた其の名は伊達では無い。
其の刀身は通常の太刀よりも、少し長いが敏捷性は打刀の方が優れている。打撃力こそ優れているが、太刀は抜刀後、刃を返さなければ、相手を斬る事が出来ない。だが打刀の場合は、刃を上に向けて帯刀する為、速やかに敵を斬る事が出来た。
戎三は篠ノ雪を手に取って、立ち上がっている。
磨上無銘の刀を腰に差し、静かに笑った。
少年に想いを馳せて只々、笑った。
——相手に取って、不足は無い。




