漆
魔徒を討ちながら、香流羅は菴を見ていた。
素早い太刀筋に眼を凝らすが、捉え切れない。此れ程迄の剣捌きを一体、どうやって会得したのかは解らない。現時点で相対すれば、自分では太刀打ち出来ないだろう。尤も其れは、現時点でだ。必ず力を得る。そうしなければ此の先、何も斬れはしない。
「余所見している暇は無いぞ、香流羅よ!」
咎める様に、赤丸が促す。魔徒の数は、百を優に超えている。況してや此処に至る迄に、かなり疲弊している。全てを倒すのに、自分一人では無理で在った。菴は大小の太刀を見事に使い分けて、魔徒を薙ぎ払っている。疲れる処か魔徒を斬る度に、強く成っていた。
良く見ると斬られた魔徒は、消滅せずに菴の持つ刀に吸い込まれている。
菴は魔徒を、喰らっているのだ。
次第に菴から、邪悪な氣が発せられて往く。魔徒と同じく邪悪な氣を、菴からは感じられた。菴の正体に、香流羅は気付き掛けていた。
だが今は兎に角、魔徒を斬るのが先決だった。
体力の消耗が著しかったが、前に進む以外の道はない。立ち止まる事は、死を意味していた。
一心不乱に、香流羅は剣を振るい続けた。
気が附いた時には、魔徒の気配は一つしか感じられなかった。其の気配は香流羅が相対した中でも群を抜いて強大で、微塵の隙も見当たらない。圧倒的な力量の差を感じていたが、逃げる事すらも叶わぬ現状。尤も端から、逃げる心算は毛頭も無い。
残る魔徒は、菴一人だけで在った。
互いに対峙して、改めて庵の強さを実感した。全く隙が無い。どう、打ち込んでも、返す弐の太刀で斬られてしまう。故に、香流羅は動けないで居た。僅かな隙で在っても、菴は見逃さない。其れは既に、学習済みだった。
隙を見せれば、斬られてしまう。獰猛な獣は対峙しただけで、相手を畏縮させる。其れだけの威圧感が、菴には在った。焦れば剣だけでは無く、判断力までもが鈍る。恐怖を抑え、呼吸を整える。
此の儘では、殺されてしまう。
焦りが、汗と共に伝う。
退けば、斬られる。前に出ても斬られる。
だが活路は、前にしか切り拓けなかった。
意を決して、香流羅は動いていた。




