参
「此処か……」
五十匹以上の魔獣を屠った頃、漸く目的の社が見えて来た。次第に霞む視界は、霧の所為だけでは無い。体力の限界が近付いていたが、休む訳には往かない。
「貴様、此処に何の用だ?」
今度は人の姿をした魔徒が、行く手を塞いでいた。先程までの雑魚とは様子が違う。
身形からして《禍人の血族》だと解った。恐らく自分と同じ様に、数珠を求めて此処に来たのだろう。そして魔徒に討たれて、魔徒に成り下がった。恐らく、そんな処だ。
鬼神化こそはしていないが、自分と同じく《禍人の血族》ならば、術を使う筈だ。
——もう、使っているよ。
何処からか、声が聴こえた。若い女の声だ。
光の輪が、身体を拘束している。身動きが取れずにいると、目の前の男が槍を構えていた。逃げる暇は無さそうだった。真面に受ければ、命は無い。
「赤丸!」
香流羅の声に呼応して、炎の鎧が身を包んだ。
放たれた槍が、先端から炎の熱で溶けていく。此方も術を使って、拘束を解いた。術の様式からして、御法院の物で在る事が解った。同門と謂う訳だ。死者とは謂え、身内に手を掛ける事に為る。
「香流羅、後ろ!」
敵が二人以上、居るのは解っていた。己が祖先が相手だとしても、邪魔立てする為らば斬るだけだ。
背後から閃光に包まれた弓が飛来していたが、飛んで躱した。空中で、青丸の羽根を纏う。此の形態で居れば、短時間だったが飛行が可能に成る。弐の矢、参の矢と追撃をしてくる女。躱しながら、女を目掛けて滑空する。動きが単調だ。
背後で雷鳴が、鳴り響いていた。どうやら男は、雷を操る様だ。前後から閃光が襲い掛かっていたが、燕の様に素早い動きで其れ等を躱す。二人の動きには、共通して隙が在る。溜めが長い為に、連続して術を放つ事が出来ないのだろう。未熟な故に、補い合う様にして二人で連携しているのだ。だが幾ら連携していようが、所詮は未熟なコンビネーション。崩す事は容易かった。
「貰った!」
光の羽根と共に、起爆札を女に飛ばした。
爆発と共に、女の気配は容易く消滅した。
香流羅は空中で旋回して、男に目掛けて飛来した。
雷を放つ男の顔は、修羅の形相で在った。余程、此の世に憎しみを遺していたのだろう。尤も憎しみを持たない《禍人の血族》は、かなり稀な存在だ。自分の識り得る中では、一人しか居ない。
紙一重で雷を避けて、男の胸に小太刀を突き刺していた。
此方にも、譲れぬ事情が在る。こんな処で、躓いている時間は一寸も無い。
「大人しく、消えるが良い!」
小太刀を斬り上げながら、香流羅は叫んでいた。
体力的にも精神的にも、随分と疲弊していた。だが、休む訳には往かない。香流羅は懐から、御法院家に伝わる丸薬と栄養ドリンクを取り出した。
近年の栄養ドリンクには、砂糖やカフェイン等が大量に含まれている。丸薬と合わせて飲めば、かなり体は楽に成る。
こんな処で、立ち止まってなど要られない。
自分は必ず戦騎騎士を斬る。
一族を護り、怨みを晴らすのだ。
亡き父と母の為にも、愛する者達の為にもだ。




