弐
「何の用だ?」
一人、短剣を振るう羅刹を見ながら、刹那は申し訳なさそうに呟いた。
「家に来てみない……?」
「戦騎騎士で在る俺が、《禍人の血族》の家にか?」
刹那は良く解っていなかったが、どうやら其れが不味い事なのは解っている様だった。
「安心して。家には今、お姉ちゃんしかいないから……。其れに……お姉ちゃんも、羅刹に逢ってみたいって言ってるの」
「何も知らない様だから、教えてやる。《禍人の血族》とは、戦騎騎士に見捨てられた人間が、魔徒に対抗する為に、神と契約した一族の事だ。騎士達と《禍人の血族》の対立は、何千年も前から続いている。四百年前に起きた魔徒達との大きな闘いの際に、其の溝はより大きな物に成った」
一息に捲し立てる羅刹。
「四百年前に一体、何が起きたの……?」
「騎士達は《禍人の血族》達を、捨て石に使ったのよ。其れが伝承に依って、大きく歪んで伝わっていったわ。《禍人の血族》に取って、戦騎騎士とは、魔徒以上に憎い対象と成っているの」
タリムが諭す様に、付け加える。
「だって……羅刹は、私を護ってくれたでしょ?」
「あぁ。だが……他の《禍人の血族》は、俺なんかには護られたくない筈だ。現にお前の兄貴は、俺を憎んでいた」
「お兄ちゃんに、会ったの?」
「二度、刃を交えた」
香流羅の眼は、憎しみに染まっていた。憎悪の炎は、決して鎮火する事は無い。いつまでも、何年でも、己が躯を焼き焦がし続ける。其の炎が大きければ大きい程に、紅蓮の憎悪は殺意と成って放たれる。
其の感情は、戦騎騎士で在る自分に確実に向けられていた。香流羅の瞳に宿る憎しみは、自分の眼にも宿っている。自分と香流羅は、似た者同士なのかも知れない。
故に互いに解り合う等、不可能に等しかった。そう、解り合える筈が無い。
「ご免なさい。……けど、お兄ちゃんは私が必ず説得して……」
「——無理だ!」
刹那の言葉を遮って、羅刹は叫んでいた。
「二人共、少し落ち着きなさい!」
二人を諫めるタリム。
「兎に角。一度、刹那ちゃんのお姉さんに逢ってみなさい」
「本気で言ってるのか?」
意外そうに、羅刹が問う。
「其れと……私は【裁きの門】に喚ばれているから、着いて行けないからね?」
「タリム、お前……面倒事を俺に押し付けて、逃げるつもりか?」
「あら、其れとも……貴方も【裁きの門】に着いて来るのかしら?」
「否、在の女は嫌いだ」
「なら、決まりね。行ってらっしゃい!」
愉しそうに言って、タリムの気配は消えた。
極界に在る【裁きの門】に向かったのだろう。此れで暫くは、戦騎を喚装する事が出来ない。
「羅刹……?」
窺う様に、刹那が此方を見る。
「仕方がない。今回だけだからな」
「うん!」
表情を明るくして、刹那は頷いた。




