陸
ビルの屋上で、羅刹は横に為っている。アスファルトの堅く冷たい感触を背に受けながら、空を見上げていた。雲一つ無い群青の空が、広がっている。穏やかな日差しが、心地良く全身を照らしてくれている。
今朝、ぶつかった少女の事を考えていた。雲一つ無い様な、穢れの一片も識らない表情をしていた。何故だか知らないが、魅せられていた。心の片隅に、少女の姿がちら附いて離れない。
「可愛らしい女の子だったわね」
羅刹の心を見透かしたかの様に、タリムは茶化した。其の声は何処か、揶揄っている様にも思えた。別に怒りは無い。純粋に只、少女に興味が沸いていた。
「アイツから、不思議な力を感じた」
僅かにだが、何らかの力を感じた。戦騎騎士とは異なる力だ。此れ迄にも、異能の能力を操る人間を見た事は在ったが、少女は其の中でも異質だった。微弱な力しか感じられなかったが、羅刹の心は穏やかに落ち着いている。
「あいつは、何者だ?」
「解らないわ。其れより羅刹、例の魔徒はどうするつもり?」
気配から、魔徒が鬼神化したのは解っていた。其の結果、罪もない人が死ぬ事も、良く理解している。放っておけば、多くの犠牲者が生まれるだろう。
だが、何処の誰が死のうと関係ない。自分の仕事は、魔徒を狩るだけだ。
「昼は目立ち過ぎる」
誰かに見られたら、後が面倒だった。
遣るなら、夜が良い。




