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咎人の詩  作者: 81MONSTER(日本を代表する怪物)ポンコツ犬のタナトス
第六話【食堂】

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拾



「嫌だ、嫌だ……ふふふ。年末だと言うのに、そんな顔をしないでおくれよ」


 昭久(あきひさ)が、年端(としは)もいかぬ少女を見据(みす)えていた。ナイフの刃先が、心地良い感触を伝えてくれる。恐怖に染まった眼まなこが、非常に唆(そそ)らされる。


 町の外れに在(あ)る小さな社。大晦日だと言うのに、参拝者は誰一人としていなかった。詰(つ)まりは、潜伏するのに持って来いと言う訳だ。死に損ないの老神主(ろうかんぬし)は、既に始末した。目の前の少女以外は、生存者は居ない事も確認済みだった。最高の塒(ねぐら)だった。


「今宵は大晦日。除夜の鐘の代わりに……巫女の悲鳴でも聴いて、年を越すとしようか?」


 恐怖に顔を歪めて、震えながら昭久を見る少女。何度も何度も、優しく切り刻んであげよう。気が触れる迄(まで)、丁寧(ていねい)に恐怖を植え附(つ)けてあげよう。


 糞尿を垂れ流して、余程に恐怖しているのだろう。可哀想に……。優しく、じっくりと壊してあげよう。


「おいおい……君。随分と恐がって、どうしたんだい?」


 昭久は、僅かばかりの違和感を抱いていた。少女の様子が、おかしいのだ。


 獲物が恐怖するのは、何時(いつ)もの事で在(あ)ったが、其(そ)の恐怖が自分に向いていない。


「私は……こう見えても、紳士なんだよ……。安心し給え。優しく、君を……殺してあげるから……ふふふ……」


 震える指先で、明後日(あさって)の方を指差す少女。


 矢張り、何か在(あ)る様だ。


「何か、言いたいのかい?」


 口を塞(ふさ)いでいる為、少女は呻く事しか出来ないでいた。


 猿轡(さるぐつわ)を取って遣(や)ると、か細い声で呟いた。


「タタラ様に、呪われる……」


 少女が指差す方に、視線を送る。


「タタラ様って、さっき私が壊した御神体の事かい?」


 視線の先には、粉々に成った仏像の残骸(ざんがい)が在(あ)った。


「貴方は、きっと……タタラ様に呪われるわ!」


 怨(うら)めしそうに、少女は叫んだ。


「いいや……其(そ)れは、違うね。タタラ様は……私に、味方してくれるよ……」


 ——お前が、私の封印を解いた者か。


「ほらね……。声が、聴(き)こえた」


 嬉しそうに、愉(たの)しそうに、昭久は少女に囁(ささや)いた。


「そうだ。私が、お前の封印を解いた。私に力を授けるが良い。そうすれば、騎士ですら斥(しりぞ)けてみせよう!」


 ——ほう、面白い事を言うな。お前の様な邪悪な人間は、此(こ)の数百年は見ていない。


「御褒(おほ)めに預かり、光栄だね」


 少女の身体が、異常に迄に震えていた。全身から、凡(あら)ゆる体液を垂れ流している。


 ——気に入った。お前こそ、我が依代(よりしろ)に相応しい。


「さぁ、タタラ様……私に、力を与えるが良い!」


 邪悪な魔物が、邪悪な心の奥深くへと入って往(い)った。昭久の身体を、溢れんばかりの力が満たした。


 古(いにしえ)の時代。多くの戦騎騎士を屠(ほふ)った魔徒が存在した。数多(あまた)の英雄が立ち向かい、屠(ほふ)られた。戦騎と騎士の屍(しかばね)の山を築き、人々に恐怖と死を招いている。邪悪なる魔獣・タタラの名は、多くの戦騎騎士を震え上がらせた。だが数百年前に、多くの騎士の犠牲と共に、此(こ)の社に封じ籠められた。


 其(そ)の邪悪なる魔獣・タタラが、此(こ)の東山昭久の力と成った。何者にも自分を止める事は出来はしない。


 少女の断末魔の悲鳴を喰らって、昭久は甘美な眩暈(めまい)に包まれた。



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