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咎人の詩  作者: 81MONSTER(日本を代表する怪物)ポンコツ犬のタナトス
第六話【食堂】

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「バイト始めた祝いに、旨いもん好きなだけ、食わしてやる!」


 意気揚々とバイクを走らせる健吾。の後ろに座る華。以前は今の様に、二人でバイクに乗って出掛ける事が多かった。部屋の中でしか顔を合わせる事しかしなくなったのは、何時いつからでっただろうか。別に不仲とう訳では無い。互いに時間はったが、何となくタイミングが合わなかっただけだ。金も無く、部屋でこもる事も多かった。


 れからは、少しずつでも二人で遊びに行こう。健吾は、そう心に決めた。


 初めてパチンコで勝った為か、健吾は舞い上がっていた。単純な理由でったが、久々に心が弾んでいる。たったの三千円が、五万円に増えたのだ。れが、喜ばずにはられない。健吾に取って五万円は、一ヶ月分の収入に等しかった。


れから、取って置きの店に連れて行ってやるよ!」


 叫ぶ健吾の表情は、喜びに満ちていた。満面の笑みは、爛漫らんまんと輝いている。


 こんなに気分が満ち足りたのは、数ヶ月振りの事でる。走るバイクも心なしか、軽快だった。今日は信号に捕まる事もなく、全ての物事が自分を味方してくれている気がした。


「着いたぞ、華!」


 行き着いた店は、何処どこにでもる小さな食堂でった。けれど、健吾に取っては、取って置きの店でる。いつも、何かがれば足を運ばせている。


此処ここのカツ丼、めっちゃ旨いんだぜ!」


 一年程前、健吾はの店で食い逃げをしようとした。食う金にも困り、華にも相談する事も出来ずにいた。そして空腹に耐え切れずに、の店に吸い込まれる様にやって来た。カツ丼を頼み、健吾は一気に平らげた。米粒一つ残さずに、綺麗になった器を見詰め続けた。財布の中は、空っぽだった。無銭飲食でる。まま、逃げる事を健吾はどうしても出来なかった。勇気を振り絞って、店の大将に本当の事を打ち明け様とした。立ち上がろうとする健吾に、大将はいくつかの料理を差し出して来た。どうやら大将は、金が無いのを見透かしていた様だった。代金はらないから、腹一杯に成って帰る様にと言う大将の言葉に、健吾は心から涙していたのを覚えている。れ以来、健吾は金が出来るたびに、の食堂を訪れていた。


「……お、の顔は何か良い事がったな!」


 店に入るなり、大将は健吾に声を掛けた。上機嫌の健吾の笑い声に、阿阿大笑かっかたいしょうの声が絡みく。大将の年齢は七十は越えていたが、溌剌はつらつとした様子でる。いつも穏やかな笑みを張り付けている。


「大将、いつもの!」


 健吾は此処ここに来ると、いつもカツ丼を頼んでいた。肉厚のカツに甘辛いつゆが溶け込んでいた。フワッ……とした卵のトロトロの触感が、心地良く舌上でとろけるのだ。


「あいよ……で、そっちの兄さんは、何にする?」


 穏和おんわな表情の大将。優しい眼差しを華に向けている。人生を達観しているのか、大将は人の心が見えているふしる。不思議と大将の優しい笑みを見ていると、心が落ち着けられるのでる。そんな大将が目的で、店に足を運ばせる者も少なくはない。


 中々の高齢者だったが、一人で店を切り盛りしている。本人曰く、年寄りの道楽。店を切り盛り出来なくったら、ころり……と、ってしまう。客が来てくれてる間は、死んでも死に切れない。だから健吾は金が出来れば、必ず大将に逢いに来ていた。


 逡巡しゅんじゅんする華の眼が、健吾と交わる。にこやかに健吾が笑うと、華も釣られて笑った。


「……あ、じゃあ。カツ丼、お願いします」


「あいよ!」


 威勢良く、厨房へと向かう大将。


 二人はカウンター席に腰掛けて、勝手にグラスを手に取り水を注いだ。


「しっかし、急にバイト増やして……金に困ってんのか?」


「うん、まぁ……」


 図星を突かれたと言う様に、口をにごす華。


 れ以上、何も言うなと言わんばかりに、華はグラスに視線を落とした。の様子が少しばかり、寂しかった。


「まぁ、良いや。れより、マジで此処ここのカツ丼、うめぇから楽しみにしてな!」


「あぁ……」


 何故なぜか気まずい雰囲気に成って、健吾は店内に視線を泳がせた。


 隣りの席に、高校生ぐらいのカップルが、何やら神妙な顔付きで話していた。大方、別れ話でもしているのだろう。


 そうこうしている内に、カツ丼が運ばれて来た。


 早い、安い、旨い。が、の店の売りだ。


「カツ丼、二丁おまち!」


 後、大将の人柄も売りの一つだ。


「さぁ、食ってみろよ!」


 湯気を立てる丼からは、こうばしいかおりが漂っている。健吾に促されて、カツ丼を口に運ぶ華。


「旨い……めっちゃ、旨い!」


 華の表情が、僅かに明るく成った。


「だろ!」


 笑顔を返す健吾。


 箸を手に取り、カツ丼を掻き込む健吾。


「やっぱ、此処ここのカツ丼は、最高だ!」


 満足そうに笑う健吾。


 釣られて、笑う華。


 穏やかな空気が、二人を包み込んだ。



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