肆
町外れに建ち並ぶビルの一室に、ニコニコ金融と言う名の事務所が在った。
違法な金利で金を貸す所謂、闇金と言う奴だった。事務所に居る男達の顔は皆、一様に厳つい。蒐られた視線の先には、華の姿が在る。
全裸で正座をしている華を、オールバックの男——田辺が睨み付けていた。眼が合わぬ様に、華は俯いている。
「君さぁ……約束した事、覚えてる?」
ニコニコ金融の社長が、穏やかな口調で華に問い掛ける。未だ若い男で在った。険しい連中とは対照的に、とても穏やかな表情をしている。
「はい……。けど、もう少しだけ待って下さい!」
恐る恐る華は顔を上げていた。其の拍子に田辺と目が合い、僅かに弛緩していた筋肉が再び強張った。
「てめぇ、嘗めてんのか。返済期限は、昨日までだろうがっ!」
「田辺、煩い。黙ってろ」
抑揚の無い声音で、社長は田辺を諫める。其れが気に喰わなかったのか、田辺は華に無言の圧力を掛ける。そんな田辺を無視して、社長は華を見た。
「昨日から、居酒屋のバイトも始めたんです。ですから、もう少しだけ待って下さい。お願いします!」
必死に懇願する華。
嘘ではなかった。きちんと働いて、真面目に返済する心算でいた。けれども今回だけは、どうにも都合が附かなかった。
「良いよ。今回だけは、ジャンプさせてあげるよ」
五万円を華の眼前に投げ捨てて、社長は胸ポケットから《うまか棒》を取り出した。ジャンプとは、更に追加融資を受けて、利息分だけを返済する事で在る。其の場は凌げるが、とても危険な行為で在る。
安堵に表情を緩める華。
「けど、忘れるな。次は、容赦しない」
其の声には、研ぎ澄まされた刃物の様な鋭さが在った。田辺の見掛けだけの恫喝とは、全く比に為らない恐怖を感じて、華の心は恐怖に満ちていた。
一瞬で華の表情が強張ったのを確認して、社長は欠伸をした。詰まらない、と謂った様子で投げ掛ける。
「君、もう帰って良いよ」
「有り難う御座います!」
頭を地面に擦り付ける華。そんな自分が、酷く惨めで在った。何故だか涙が零れていた。悔しさと恐怖。そして嘆きの感情が、そうさせている。そんな自分が、愚かしく思えた。どうにかして、此の現状から抜け出したかった。死ぬ気で働いて、必ず完済してみせる。
——人間とは、愚かな者だな。
卑しい笑い声と共に、頭の中で声が響いた。
「どうかしたか?」
不思議そうに周りを見渡す華に、男の一人が問い掛ける。
「いえ、何でも有りません……」
華は慌てて衣服を纏って、事務所を後にした。




