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咎人の詩  作者: 81MONSTER(日本を代表する怪物)ポンコツ犬のタナトス
第一話【化物】

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弐

「羅刹(らせつ)、扉が開いたわ」


 夜の闇に忍ぶ様にして、歩いていた。吹き附(つ)ける風に、邪気が紛れている。


「又、魔徒(まと)が出現したか」


 羅刹は闇を見詰めていた。内に秘めた殺気を押し殺しながら、獲物を見定める様な視線を送っている。


 ——魔徒。人の心の闇に取り憑き、人を喰らう魔物。其(そ)の存在は、太古の頃より出現している。人が生まれた頃から、魔徒も又、生まれたと謂(い)われている。


「——で。魔徒は、何処(どこ)にいる?」


 黒いコートに忍ばせた短剣に手を当て、羅刹は歩き続ける。心が滾(たぎ)り、身体が疼(うず)いていた。斬りたい——と謂(い)う衝動が、心を甘く誘う。魔徒は残らず斬り伏せて遣(や)る。其(そ)れが、己の役目なのだ。


「近いわ。其処(そこ)の先に在(あ)る工場にいる」


 頭の中に直接、響く女の声。


 彼女の名は、タリム。


 羅刹の相棒で在(あ)る。


 其(そ)の姿は、此(こ)の世には存在しない。声こそは幼かったが、千年以上もの時を生きている。


「彼処(あそこ)か……」


 視線の先には、何の変哲もない工場が聳(そび)えている。其(そ)の中から微(かす)かに、邪悪な気を感じた。


「どうやら、奴はまだ鬼神化していない様だな」


 邪気の強さから、魔徒の力を推(お)し測(はか)る。今なら未(ま)だ、楽に倒せるだろう。尤(もっと)も自分としては、鬼神化してからでも一向に構わない。周囲の人間が、どうなろうとも関係無い。


 羅刹は静かに息を吸い込むと、疾走(はし)った。


 一目散に目標で在(あ)る魔徒の元へと、疾走(はし)る。まるで風の如く、迅速に——しかし、気配は完全に消している。


 工場内は暗く、様々な機材で入り組んでいた。そんな中を尋常ならざる速さで、障害物に当たる事なく魔徒へと接近する。


 気配だけを頼りに、間合いを計算して、羅刹は魔徒に斬り掛かる。


「何だ、お前は……?」


 後退する魔徒。大した手応えは、得られなかった。


 踏み込みが浅かった為か、魔徒と成った男の胸を掠(かす)めた程度だった。


 暗闇の中から無数に飛来する殺意。風を切る微(かす)かな音。人並みならぬ羅刹の感覚が、其(そ)れ等(ら)を鋭敏(えいびん)に捉(とら)える。


 たったの一呼吸で、難無(なんな)く短剣で払い退(の)ける。


 金属音と共に、数本の何かが床へと弾かれた。魔徒に視線を送るが、其(そ)の姿も気配も、消えている。


「逃げられたか」


 既に邪気は遠ざかっている。


「急がないと、犠牲者が出るわよ」


「知った事か。俺は只、奴を斬るだけだ」


 羅刹は魔徒を斬り滅ぼす為に存在している。


 其(そ)の命は疾(と)うに、果てている。だが地獄の底で、閻魔大王の計らいに依(よ)り蘇った。


 魔徒を狩る戦騎騎士として、其(そ)の命を懸(か)けなければ為(な)らない。其(そ)れが羅刹に課せられた使命で在(あ)った。


「貴方は、いつもそうね」


 元来、騎士とは護る為に存在している。魔徒から人々を護る事こそ、戦騎騎士たる定(さだ)めで在(あ)る。


 だが、羅刹は違う。


 魔徒を斬る事だけに執着していた。まるで抜き身の刀の様に、羅刹の心は殺気に囚(とら)われている。


 人を護る心算(つもり)など、在(あ)りはしない。人としても、騎士としても、羅刹の心は欠けている。


「戦騎騎士としての自覚を持ちなさい。そうしなければ、いつかきっと後悔するわ」


「関係無い。俺は只、奴等(やつら)を斬れれば、其(そ)れで良い」


 本心だった。


 羅刹に取っては、戦騎騎士としての宿命も、人々の平穏な日々も、どうでも良い。


 只、魔徒の存在は気に入らない。だから、魔徒を斬る。


 其(そ)れだけの事でしかなかった。本心を謂(い)う為(な)らば、己の中に在(あ)る憎しみの憂(う)さを晴らす為だ。滾(たぎ)る憎悪は、鎮まる事を識(し)らない。抑え込む心算(つもり)も、毛頭ない。復讐を果たす相手は、疾(と)うに命が尽き果てている。


 魔徒を斬る事だけが、唯一の救いだと感じていた。只の気休めでは在(あ)ったが、闘争の間だけは、心が紛れていた。


「奴は、何処(どこ)へ行った?」


「解らないわ」


「どうやら、手掛りは此(こ)れだけか……」


 魔徒が投げた武器を、拾い上げる。


「どうやら、彫刻刀の様ね」


「辿(たど)れるか?」


「多分ね……」


 タリムには、魔徒を感知する能力が在(あ)る。


 彫刻刀に残った僅かな思念を頼りに、魔徒を追跡するしかない。


「とにかく、此処(ここ)を出るぞ。腹が減った」


 羅刹を動かすのは、殺意と本能だけで在(あ)った。




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