拾壱
羅刹は苛立っていた。無力な自分が、歯痒かった。
刹那を護りたいと言う想いが、焦りを生んで、結果的に何も出来ずにいた。惨めに見ている事しか出来ない自分が、酷く情けない。
——悔しかった。胸裏を、負の感情が満ちていった。けれど、感傷に浸っている暇は無い。
「此れは驚いたな……。よもや、燈の動きに気付き、反応して来るとは思わなんだぞ?」
聞き覚えの在る声が、鼓膜を振るわせる。
刹那を魔徒を討った帰路の道中、闇夜に闇よりも濃い影が浮かぶ。突如として現れた燈に、反射的に身体が動いていた。
身体が無意識の内に、動いていた。刹那に忍び寄る影が、敏速な動きで拐おうとしていた。気付けば短剣を放ち、阻んでいた。今の自分は頗る機嫌が悪い。《金獅子》に敗れ、刹那の危機に何も出来ずに居た。日に二度も醜態を晒している。此れ以上は、無様な姿を晒せ無かった。
眼前の男は己の刃を、籠手で受けていた。其の顔に、表情は無かった。以前に見えた時の面影は、一切として無かった。憤怒に染まってはいたが、己の正義に燃えていた瞳は、今は何も感じられなかった。光を喪った眼が、全てを物語っている。
男の名は、爪倉燈。魔徒に憑かれた男だった。確かに燈からは、魔徒の気配がした。
だが、其の様子に違和感が在った。
身を捻ると燈は滑る様に、懐へと入り込んでいた。撃ち衝ける肘の衝撃。今ので、肋が折れていた。
「羅刹ッ!!」
刹那の悲鳴が上がる。
倒れる羅刹を見下ろしながら、燈は短剣を引き抜いていた。其の佇まいからは、怪しい暉を感じた。奇妙な感覚で在った。燈とは友でも何でも無かった。以前に一度、見えた敵で在る。今も眼前で敵意を向けている。鉈梛九の術か何かで、操られている。
——奇妙な事に、肚の底から怒りが込み上げていた。
燈に対してでは無い。死者を冒涜して、己の道具として弄ぶ鉈梛九。其の所業が赦せなかった。今の燈に同情こそは無いが、自分は憤怒の感情を抱いている。
「悪は斬る……」
其の言葉と共に、燈に戦騎が喚装されていた。




