拾弐
塁留は再度、戦騎を喚装しながら動いていた。
其れに合わせて、矢紅も動こうとしていた。
「御主は、駄目だ。今の燈では、未だ勝てぬからな」
嘲る様に、鉈梛九が矢紅を遮った。
「儂が御主の前に居る意味が、御主になら解ろう?」
鉈梛九には相手の戦騎を、自分に強制的に喚装する術が在る。矢紅が戦騎を喚装すれば、間違いなく鉈梛九は強制喚装をするだろう。だからと言って、戦騎を用いらずに倒せる相手ではない。が、鉈梛九は動こうとはしない。心算は、自分を足止めするのが目的だろう。
故に矢紅は動けなかった。
燈に目を遣ると、見た事も無い戦騎が喚装されていた。恐らくは鉈梛九が新たに造った物なのだろうが、様子がおかしかった。
戦騎からは、何の気配も感じられなかった。まるで、燈自身が戦騎で在るかの様だった。
「勘の鋭い御主の事だ。彼奴が、どう謂った存在なのか、気付いておろう。新型の戦騎の性能、篤と堪能するが良い」
愉悦の混じった笑み。鉈梛九は恐らく、燈を戦騎に造り変えている。魔徒に憑かれた人間を戦騎にするなど、在っては為らない事だった。人の魂を冒涜して穢すなど、在って良い筈が無い。肚の底から込み上げる怒りが、矢紅を静かに奮い立たせていた。
「戦騎を欠いていようが、御主は恐い。真面に遣り合う心算は……無いッ!!」
鉈梛九の周囲を、無数の戦騎獣が出現した。
あくまでも、足止めに徹する心算の様だ。
戦騎が使えない上に、相手は自分と同じ【皇渦陸仙】で在る。武器と術だけで対応しなければ為らない。骨の折れる状況で在った。
少なくとも、束の間は動けないと謂う事だ。嘆息しながら、腰に差した短剣を引き抜いた。戦騎獣の数は十体。極界の炎を召喚して、短剣に纏わり附かせる。炎の出力を最大にすれば、短剣と謂えども戦騎獣に刃が通る。
一呼吸の間に、間合いを詰めて三体の戦騎獣を焼き斬った。其の動きを他の戦騎獣が認識する頃には、更に三体を斬り終えている。鉈梛九の足元の影が、静かに揺れた。迫り来る戦騎獣を斬りながら、鉈梛九の迎撃に対応する。影から二頭の獣が顕れていた。
其の動きは思いの外、速かった。其々が左右から襲い掛かっている。其のタイミングに被せる様に、残る戦騎獣が前後から襲い掛かる。其れ等を最小限の動きで往なして斬った。全ての敵を斬り伏せるのに、数秒と掛かってはいない。
鉈梛九に向き直った直後、矢紅の身体を異様な重圧が伸し掛かった。まるで鉛を全身に纏った様に、身体が重かった。
再び戦騎獣の群れが、鉈梛九の周囲に出現していた。




