陸
「御法院さん……御法院刹那さん。第二診察室へお越し下さい」
受付の看護師の事務的な言葉に、刹那は立ち上がる。
先日、受けた傷を治す為に、病院へと足を運んでいた。刹那には傷を癒す力が在ったが、自分の傷を癒す事は出来なかった。
第二診察室へと足を運んでいると、表情の暗い男に出会した。異常に迄、痩せ細っていて血色が悪い。其の眼は陰鬱な印象を抱かせていた。其の手には、猫程の大きさの何かをタオルに包んでいた。中身までは解らない。
何か途轍もなく厭な気配を嗅ぎ取ったのか、刹那の全身を戦慄が走っていた。魔徒の様な邪気は感じられない。だけど、吐き気がする。醜悪な気配を纏わせながら、男は此方に微笑み掛けていた。
「刹那ちゃん、気を付けて。彼からは、魔徒の気配がするわ」
タリムの声が、頭の中で響いた。
「在の人……やっぱり、魔徒なの?」
「良いえ。彼は人間よ。魔徒に、魅入られてるわ」
「じゃあ、助けなきゃ……」
立ち去ろうとする男の後を、着ける刹那。
「駄目よ、刹那ちゃん。危険だわ!!」
「心配しないで、タリムさん。後を、着けるだけ……」
刹那は、ふと立ち止まっていた。
男の姿を見失ったからだ。辺りを見廻す刹那の背後に、厭な気配を感じて慌てて振り向いた。
「此れは、美しいお嬢さんだ。私に、何の様かな?」
男の底無しに冥い瞳が、嗤った。
空洞の様な、其の双眸に見詰められて、全身を厭な物が撫でる。
「刹那ちゃん、逃げて!!」
叫ぶタリムの甲斐も無く、男に何かを嗅がされて刹那の意識は無くなった。




