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咎人の詩  作者: 81MONSTER(日本を代表する怪物)ポンコツ犬のタナトス
第十三話【正義】

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 通報を受けて、燈は現場に駆け付けていた。


「おや、諸君。随分と大勢で来た様だが、少しばかり数が少ない様だな」


 既に現場には、武装した警察官が、二十人以上も居た。此れは決して大袈裟な人数では無い。寧ろ、足りないぐらいだ。


 相手は凶悪犯だ。何人か同僚が殺されている。どう謂う手段を用いているのかは解らないが、相当な人数が犠牲に成っている。


 燈に取っては、絶対に見過ごせない完全なる悪だった。


「嫌だ、嫌だ……ふふふ。どいつも、こいつも……随分と殺気立っているじゃあないか?」


 東山昭久は静かに語り掛ける様に、燈を見ていた。見た処、武器を所持している様には見えない。何処かに隠し持っているのかも知れない。


 此の人数に囲まれているにも拘わらず全く、焦ったり動揺している様子は無い。寧ろ、余裕すら窺える。


「君は、私が憎いのかい?」


 其の瞳の奥は、狂気の色に染まっていた。其の表情は、狂喜に歪んでいる。過去に関わった犯罪者は、反吐が出る程の屑が多かった。卑しい笑みを浮かべる者。無様に泣き喚く者。怒り狂ったり、狂言をのたまう者など様々だ。けれど目の前の男は、其の何れとも違った。其の濃艶な狂気は、どす黒くて異常な気配を纏っている。


 燈は吐き気がする程の異常な重圧を、全身に受けた。心の奥深くから絞り出された恐怖が、己の心臓を縛り附けている。激しい動悸と呼吸困難が、心肺の異常を物語っている。全身に纏わる異様な脂汗。氷附いた様に、身体が動かない。周りの警察官達も同じなのか、呼吸が荒れている。全身を発汗させながら、怯えた様な表情をしている。


 驚くべき事に、此の場に居る全員が、眼の前の男一人に恐怖しているのだ。


「私はね……男には、興味が無いんだ。今回は、見逃してやるから、さっさと消えてくれないか?」


「ふざけるな。此れだけの人数相手に、抵抗は無駄だ!」


 恐怖を振り払う様にして、燈は拳銃を構えていた。震える指先が、上手くトリガーを引けないでいる。


 どうして、こんなにも恐怖に捉われているのかが、自分でも理解わからなかった。


「おやおや。随分と……震えているじゃあないか。……ふふふ。怖いのかね?」


 ゆっくりと、此方へと歩み寄って来る。


 其の瞬間、其の場に居る全員が発砲していた。


 鉛の雨を意に介さずに、歩き続ける東山昭久。


 其れは、異常な光景で在った。


 明らかに、被弾している。


 其れなのに、掠り傷の一つも附かないのだ。常軌を逸している。


鬱陶うっとうしいぞ、貴様等!」


 東山昭久の一喝と共に、燈以外の全員が刃物で斬られたかの様に、全身がバラバラに成っていた。


「君は……わたしが、憎いのかね?」


 冷酷な声が、燈の心を撫でる。まるで冷たい刃物で、心臓を直接、撫でられている様だった。恐怖している。自分は今、犯罪者を目の前に——恐怖しているのだ。其の事実が、赦せなかった。


 心の奥底から、悪を憎んでいる。目の前に在る巨悪が憎い。其れなのに、成す術が無い。そんな自分が憎かった。


 ゆっくりと近付いて来る東山昭久。


 身体が動かない。


「恐怖と憎悪を抱いて、逝くが良いッ!」


 狂気に染まった笑み。


 悪が堪らなく憎かった。


 燈の心臓を、ナイフが貫いていた。


 力無く倒れる燈を踏み付けて、東山昭久は笑った。



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