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咎人の詩  作者: 81MONSTER(日本を代表する怪物)ポンコツ犬のタナトス
第十一話【傀儡】(前編)

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 風を裂いて、菴は疾走はしっていた。


 主で在る神楽が、言霊を送って来ている。神楽の通う現代の寺子屋から、無数の邪気を感じる。


 半神半人である神楽で在っても、脅威と成りる数だった。


 急いだ方が良さそうだ。


 既に寺子屋の敷地内には、入っている。先程、神楽が結界を張った事も解っている。言霊に依って、神楽の正確な位置は把握している。邪魔さえ入らなければ、然程のいとまは掛からぬ距離で在る。問題は敵の正体と、其の目的で在る。無数の邪気の大半は魔徒に依る物だったが、其れ以外の邪気を感じる。其れに魔徒の造詣が此れまでとは、明らかに異質で在った。


 其の金属を思わせる異形の姿は、何者かの作為を匂わせている。もしもそう成らば、無数の魔徒を生み出して、操る者が居る事に成る。非常に厄介極まり無い状況で在る。焦りと共に、思案を巡らせる。


 疾走はしりながら、菴は風の調べを聴いていた。其れは、うたで在った。


 《捧ぐ者》が、うたっているのだろう。


 其の旋律が、幼い頃の記憶を呼び覚ましている。


 菴には兄が居た。歳は三つ程、離れている。


 兄の事が大好きだった。何処へ行くにしても、菴は兄の後を付いて廻っていた。優しくて、強い兄が大好きだった。兄を慕っていたし、尊敬もしていた。


 其の兄が在る日、突然に修羅と成った。


 皆が寝静まった丑三つ刻。突然の物音に、菴は目覚めていた。物取りの類いならば、父も兄も居るので然程の心配は無い。二人は戌咬弐天流いぬがみにてんりゅうの免許皆伝の腕前で在る。


 物取り如きに遅れを取る事は有り得ない。だが、物音が有った方向は、両親の眠る寝室で在った。本能的に厭な予感がして、菴は飛び起きて寝室へと歩みを進めていた。


 襖越しに何者かが、二刀の短刀を構えている。其の立ち居振る舞いは、菴の良く知る者で在った。胸奥を、厭な物が撫でていた。悪い予感が脳裏を満たして往って、吐きそうだった。


 ——兄様?


 戸惑いながら、声を放つ菴。返事は無い。恐る恐る襖に手を掛ける。菴の胸中を厭な想像が、幾重にも駆け巡っていた。優しい兄が、両親を手に掛ける訳が無い。屹度きっと、何かの間違いだ。杞憂で在って欲しかった。只の勘違いで在って欲しかった。


 意を決して、菴は襖を開けていた。


 眼前に飛び込んで来たのは、修羅の形相で血を纏った兄の姿で在った。其の足許には、父のむくろが転がっている。


 異臭が鼻腔に触れて、菴は嘔吐していた。心が砕ける様に、胸が痛い。頭の奥を、無数の蛇が這っているかの様に、どす黒く不快な感情が込み上げて往く。


 そんな菴には触れずに、兄は闇に消えた。嗚咽と憎しみに塗れながら、菴は修羅と成る道を選んだ。


 以来、菴は兄を恨んだ。優しい兄の思い出を、心の片隅へと押し遣った。網膜に焼き付いた両親の骸と、脳内に膠着こびりついた悲しみが、菴の心を大きく変貌させて往った。大好きだった兄の面影は、既に失われている。最早、菴に取っては復讐の対象でしかない。


 憎悪の念を募らせながら、剣の腕を磨いた。毎日毎日、早朝から深夜まで血反吐を吐きながら、幼い身体を酷使し続けた。何が在ろうとも、どうしても、兄だけは赦せない。絶対に此の手で引導を渡したかった。


 たとえ刺し違えてでも、兄を斬ると誓った。


 尤も其の誓いは叶わぬ儘、菴は人としての生を終えた。兄も又、うに命を喪っている。


 何故なにゆえに今更、過去を思い出しているのかさえも解らない。


 気が付くと菴は、立ち止まっていた。鼻腔を撫でる死の匂い。怨みと憎しみの蛇が、胸奥で絡まり合う。神楽の力で抑えられている魔徒が、目覚め様としている。意思の力で其れを抑えながら、菴は胸内で呟いた。


 ——見付けた。


 狐面の下で、狂喜に満ちた笑みを浮かべている。不思議な感覚で在った。ずっと探し求めていた者が今、眼の前に居る。会いたくて、逢いたくて、堪らなかった。漸くまみえる時が来たのだ。ずっと、諦めていた邂逅の時が、遂に訪れたのだ。喜ばずには居られない。沸き起こる憎悪の念を抑える事もせずに、菴は己の中の感情を解き放った。


 何の躊躇も無く菴は、鬼神化している。魔徒の力を引き出せば、相応のリスクが伴う。故に神楽の力に依って、制限が設けられる。鬼神化は一時的に、其の制限を外す形に成る。神楽の手が届く所に居れば別だが、扱い方を間違えれば闇に墜ちる事と成る。


 譬え此の命が果て様とも、果たしたい想いが在った。


 目の前には、男が居た。


 菴に背中を向ける形で立っている。


 其の立ち居振る舞いは、菴の良く知る者で在った。



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