壱
私立晴明女学院は、魔窟と化していた。
放課後と言う事も在って、生徒数は幾分と少なく成ってはいた。だが部活動をする生徒達の大半は、未だ校舎内に残っている。何れ程の生徒数が残っていて、何れ程の魔徒が蔓延っているかは杳として知れないが、状況は芳しくなかった。
半神半人の神楽に取って、人間は取るに足らない存在だったが、嫌いでは無かった。無駄に命を落とされても、寝覚めが悪い。極力、魔徒の被害を食い止めたかった。
尤も神楽達に其れ程の余裕は無い。
神楽も刹那も、異能の力の持ち主では在ったが、闘える類いの能力では無かった。闘う力を有した従者——菴との合流を果たさなければ、活路は開けない。
仄かに押し寄せる焦燥感は、神楽の人間としての感情で在った。其れは危機感とも少し違ってはいたが、兎にも角にも神楽は僅か許り焦っていた。
「さて、刹那よ。此の状況を、如何に切り抜けようか?」
傍目には、神楽は余裕の佇まいで在った。
其れは神楽の神としての見栄で在ったのかも知れない。
「解らない……けど、皆を護らなくちゃ。御願い、私に力を貸して!」
射貫く様な真っ直ぐな瞳。
神楽は笑みを認めながら口を開いた。
「皆を護る方法ならば、一つだけ在る。但し、かなりの危険に晒される事になるぞ?」
「私はどうなっても構わない。だから、御願い。皆を護って!」
覚悟なら出来ていると謂う事なのだろう。
神楽は両手を天に掲げた。遥か上空から、光が降り注ぎ校舎を包み込む。
「魔徒どもを、結界に閉じ込めた。此れで奴等は、私達だけを標的にせざるを得なくなる」
其の言葉と共に神楽達の周囲を、三つの邪気が取り囲む。
三体の魔徒は一様に、鉱物の身体で出来た獣の姿をしていた。
神楽は前方の魔徒へと駆けた。其の手には、仄かに光が帯びている。
舞う様な動きで、神楽は魔徒に触れた。其の途端、魔徒は動きを止めた。
後方の魔徒が、猛り吠えながら飛び掛かっていた。
身体を捻って、神楽は腕を廻す。魔徒に触れた瞬間、魔徒は動きを止めた。
其の一連の動作の間、刹那は詠っていた。
祈りの籠った其の詩が、光と成って二人を包み込んでいた。
残る魔徒が刹那に襲い掛かるが、光が魔徒の牙を遮っている。
「暫くの間、眠っていて貰うぞ」
神楽の手に触れて、魔徒は無力化された。




