本能
「ミノワさん!」
慌てた様子でサクヤが指をさし叫んだ。
「ガァァァ!!」
サクヤの指した先には咆哮を上げるマンティコアの姿があった。その視線はオモスを捉えている。
ただでさえ重装備であるうえ今はマイラを抱えているオモスがマンティコアを振り切れるはずもなく、瞬く間に距離を縮めたマンティコアは背後からオモスに襲いかかった。
「大人しくしていろ!」
「グギャァァ」
マンティコアとオモスの間に入ったミノワが右手でマンティコアの頭を押さえつけると、顔面を地面に押しつけられ苦しそうに叫ぶながらマンティコアは尾の毒針でミノワを突いた。
「甘い!」
向かってくる尾を左手で掴み、両手で握りなおすとハンマー投げのようにマンティコアを振り回した。
回転の度にスピードが上がり遠心力に耐えられなくなったマンティコアの尾が根元から千切れ、マンティコアは壁に激突した。
「すご、いぃぃー⁉」
その光景に感嘆の声を上げるサクヤだったが、ミノワの姿を見て更なる衝撃を受けた。
「うぷっ、目が回る……」
そこには酔っぱらいのような千鳥足でフラフラしているミノワの姿があった。
「何やってんですかー!」
自分の仕掛けた技でダメージを負うミノワにサクヤは思わずツッコんだ。
「回転は苦手でな、うぷっ」
気持ち悪そう答えるミノワをサクヤはジト目で見ていた。
「さてと」
酔いがおさまったミノワは壁際に倒れているマンティコアに向かい歩みを進めた。
振り回された影響が残っているのか、マンティコアは起き上がろうとするも起き上がれない。
近づくミノワに気付いたマンティコアは伏せたまま顔だけを上げると、牙を剝き出し威嚇する。
「うそでしょ」
マンティコアの姿に会場中がどよめいた。
マンティコアは震えていた。マンティコアは脅えているのだ。
ミノワに脅え、震えながらも懸命に唸り声をあげていた。
魔物が脅える稀有な光景に、どよめきは歓声に変わる。
「さすがはアニキ」
地鳴りのような歓声の中、リーヴに支えられたカイトは驚嘆した。
リーヴの魔法で一命はとりとめたがダメージは残っており、尚且つ大量の出血による影響で力が入らずリーヴに支えられているのだ。
「信じられません」
リーヴは思わず呟いた。目の前の出来事が信じられなかった。
だが現実だ。ミノワの強さを本能で理解し、逃げることのできないこの状況にマンティコアは恐怖したのだ。
「やはりバケモノですね」
「お前がそれを言うか」
苦笑するホーガンに「何が言いたいのですか?」とマイは鋭い視線を向ける。
歓声の鳴りやまぬ観客席では別の戦いが勃発しようとしていた。
「二人ともちゃんと応援しなきゃダメですよ」
ジーナに諫められ二人は舞台に視線を戻した。
「動物を虐待する趣味はない。苦しまず終わらせてやる」
そう言ってミノワが手を伸ばした時だった。
!!!!!
歓声に包まれていた闘技場は一瞬にして静まり返る。
歓喜に沸く観衆はその光景に言葉を失ったからだ。
観衆が目にしたのはマンティコアの腹。仰向けになり腹を見せるマンティコアの姿だった。
「もう戦う気はないようだな」
伸ばした手でマンティコアの腹を優しく撫でると、抵抗することなく撫でられ続けた。
自分の腹を見せる。マンティコアは完全に戦意を失いミノワに服従したのだ。
「夢なの?」
敵わない相手から逃走する魔物もいるらしいが、魔物が服従するなど聞いたことがない。サクヤは目の前の光景が現実とは思えなかった。
「ギャァァー!!」
突然マンティコアは苦しみだし、その体は消滅し最後に残った魔石も砕け散った。
お読みいただきありがとうございます。
もう少しだけお付き合いいただけたら幸いです。




