悪夢・劣る献身
こちらは、現在連載をしております『醜くも綺麗な一瞬』という物語に登場する、とある人物が見ている悪夢の話となっております。
これだけだと、何のことか全く分からない内容となっております。
ご注意ください。
「……ん、…………さん、郁子さん?ちゃんと聞いているんですか?」
苛立ちを孕んだ声が聞こえ、叶望はハッと目を開けた。
パシャッパシャッ
カメラのフラッシュが目に飛びこんできて、眩しさで思わず目を瞑る。
次に目を開けると、子供が握りしめた粘土のような形をした、巨大な『何か』に取り囲まれていることに気がつく。
全員スーツを着ており、カメラやマイクを持っている。
叶望は、記者会見みたいだ、と混乱する頭で思った。
「郁子さん、今のお気持ちを聞かせてください」
パシャッパシャッとフラッシュが走り、マイクが差し出される。
「…………え、き、気持ち?」
「…………はぁ、やっぱり聞いていなかった。これだから駄目なんだよ」
叶望は、「これだから」という五文字に、反射的に肩を跳ね上げた。
痛む胸を押さえつつ、どうにか平静を装う。
「ああ、はいはい。もう一度質問します。『兎火涼多さんのお父様に対して、謝罪の言葉は?』。あなたの所為で、今も苦しんでいるんですよ?」
「兎火さんから話を聞いてから今まで、笑顔で接されていましたよね?どうして、そんなことができたんですか?悪いと思わなかったんですか?」
「郁子さーん、答えてください」
「ご家族に、謝罪の言葉は?」
「……あっ、そ、その」
「もしかして、自分は関係ない、とか思われています?」
言葉を詰まらせる叶望に、嘲笑が飛ぶ。
なんて身勝手、ここまで面の皮が厚いとは、……パシャッパシャッ。
「では、質問を変えます。『音律奏さんに、謝罪の言葉は?』。あなたの所為で、あんなにも追い詰められていますよね?心的負担は、計り知れないものがあると思うのですが」
「もしかして、お母様がしたことだから自分は関係ない、と思っていらっしゃいますか?郁子さんは、ご自身のお父様の御言葉を、忘れたんですか?」
「……い、え、……わ、私たちは、全員…同じ……だと……」
パシャパシャッ パシャッ
「分かっているのに、どうして行動に移さないんですか」
「郁子さん、これだけじゃないんですよ?早く質問に答えてください」
「実子誘拐の件については?」
「AED問題については?」
「痴漢冤罪については?」
「女子枠については?」
「パパ活、婚活、については?」
「夫をATM扱いしている妻がいることについては?」
「お小遣い制度については?」
「聞いているんですか?数字が出ているんですよ?」
「幸福度ランキングについては?」
「少子化問題については?」
「スノドロで、女性が放ったこの発言については?」
「○○県で、女性が起こした事件については?」
「『女の敵は女』という言葉について、どう思いますか?」
「この漢字の成り立ちについて、一言、お願いします」
「おい!聞いていますか?事実なんですよ事実!!」
「ほら、またそうやって目を伏せるパフォーマンスをして」
「仕事に加え、家事育児も全てやれなんて、虫が良すぎないですか?」
「某映画が、女性主人公になった件については?」
「どうして黙っているんですか?……ああ、『痴漢と間違われないように、両手でつり革を持っています』と語る会社員の方について、一言お願いします」
「とある漫画の主人公が、『女の子が泣いているなら、助けないと!』と言ったことについて、郁子さんはどう思われますか?」
「答えてください!今この瞬間も、何の罪もない人たちが苦しんでいるんですよ?それなのに、どうして笑っていられるんですか?」
パシャッ パシャパシャッ パシャパシャパシャッ
パシャパシャッ パシャ パシャパシャッ
「謝罪の言葉を」
「何か言うことは」
「謝罪の言葉を」
「謝罪の言葉を」
「説明を」
「こんなに宿題が溜まっているんですよ?」
「謝罪の言葉を」
「謝罪の言葉を」
「謝罪の言葉を」
「謝罪の言葉を」
「聞いているんですか?」
「謝罪の言葉を」
「謝罪の言葉を」
「謝罪の言葉を」
「謝罪の言葉を」
「謝罪の言葉を」
パシャッパシャパシャッ パシャパシャパシャッ
パシャッ パシャパシャッ パシャパシャパシャッ
「本当なら、貴方は被害に遭われた方の家を一軒一軒訪問して、土下座をするくらいしないと、『罪』は償えないのではないんですか?それなのに、竹あかりを作ったり、喫茶店に行ったりと、……口だけの謝罪なんて、意味ないんだよ!!そんなことも分からないのかっ!!」
叶望は、「も、申し訳、ございません……」とその場で土下座をした。
こうなってしまうと、弱い。
化生界で積み上げられた何かが、音を立てて崩れ落ちてゆく。
まるで、全てを嘲笑うかのように――。
パシャッパシャパシャッ パシャパシャパシャッ
パシャッ パシャッ パシャッパシャパシャパシャッ
「はぁ、当たり前のことをして、許されようとしているよ」
「なんて意志薄弱な奴だ」
「それなのに、人間になれた気でいたなんて笑わせる」
頭上から、侮蔑、嘲笑、様々な感情を孕んだ言葉が降ってくる。
「……その『申し訳ありません』は、何に対してですか?まさか、全女性代表として言っている訳ではないですよね?」
「なっ、それが本当なら、あまりにも傲慢な思考じゃないですか?それに、蕉鹿さんや蘇芳さん、鵙さんたちの想いを、無駄にしています!!」
「個を見て全とする、……なんて醜い思考。ああでも、今この瞬間も、あなたの所為で、大勢の人間が涙を流しているんです」
「あーあ、出会った人たちの想いを無駄にしたぁ~。結局は、辛い自分が大好きなんだよねぇ。あんなに、気を遣ってもらったのに、まだ足りないの?」
「詫びろ」
「傲慢」
「謝り続けろ」
「お前ごときの命じゃ釣り合わない」
「お前の所為だ」
「結局は、ファッションなんだろ?」
「本当に、しつこいよな」
「ずっと、ウジウジとして、みっともない」
「どうせ、トラウマの所為にするんでしょ?」
「聞いていますか?」
「早く謝罪を」
「そんなに嫌なら、言えばいいのに……」
「事実から目を背けるなっ!」
「逃げるんですかぁ?」
何を言っても、許してもらえない。
何を言っても、許してもらえない。
(どうしよう、どうすれば、……でも、そうだった。私にできることは、謝ることだけ。謝らないと、死ぬ直前まで、謝り続けないと。今まで、ぬくぬくと化生界で過ごした日々の分も含めて、人間になれたと思ってしまったことも含めて、謝らないと。ああでも、それじゃあ、蕉鹿さんたちの想いを……ああ駄目だ。どれをとっても、言い訳になってしまう。ごめんなさい。申し訳ありません)
叶望自身、自分が何を考えているのか、分からなくなってきた。
胸を占めるのは、「早く処罰を!」という思いだけだ。
「あなたが兎火美月さんを見て、一瞬でも、『今殺した方が幸せなんじゃ』と思ったという証言があるんですが、本当ですか!?」
その一言に、会場はざわめく。
刺すような視線が、叶望に降り注ぐ。
「一瞬でも、そんなことを考えるだなんて」
「毒されすぎだろ。…………人間の思考じゃない」
「他にも、このロべチューバ―さんたちの奥さんや娘さんが、感化された人に何かされたらどう思うんだろう、と思ったりもしたとか」
「それからぁ、有栖乃さんの絵を初めて見たときの感想も、『女だから優遇されて賞を貰えたんじゃ……』とか思いましたよねぇ?クラスの誰よりも、一生懸命、描いた絵なのに。だから、評価されて、然るべき賞を貰えたのに、なんで、そんなひねくれた考え方しかできないんですかぁ?」
ざわめきが、さらに大きくなってゆく。
息が上手く吸い込めず、叶望の喉や肺は痛みを訴えた。
「救いようがない。生きてちゃいけないだろ……」
「なんでこんな奴が、楽しく毎日を送って――」
「ねぇ、別の世界に逃げてみて、どうだった?」
突然、言葉の雨とフラッシュの音が止み、誰かの楽しげな声が聞こえてきた。
叶望が顔を上げると、長い黒髪を靡かせた叶望が立っていた。
ふわりとしたスカートを認め、吐き気がこみあげてくる。
「ねぇ、どうだった?」
優しく顔を包み込まれ、叶望は戸惑う。
「どう……と言われても」
その言葉に、スカートを穿いた叶望は、憐れむような視線を向ける。
「じゃあ、これはどう?」
彼女が手をパンッと叩くと、周りの景色が変化した。
見慣れた景色に、叶望はひゅっと息を呑む。
自分の家の廊下がそこにあった。
「懐かしいよねぇ。髪の毛を掴まれて、壁にガンッと押しつけられてさ」
僅かに変色している壁を撫で、スカートを穿いた叶望が言う。
叶望は、不規則に脈打つ心臓を押さえながら、壁から視線を背けた。
昔……小学校中学年くらいのときの記憶が蘇る。
◇◇◇
あの日、いつも以上に、叶望の父は苛立っていた。
原因は、叶望の三者面談に行ったとき、教師があることを言ったからだ。
『叶望さんは、自己評価が低い所があって――』
誰にでも、『うっかり』はあるのだが、相手が悪かった。
家に帰った後、ロベリアチューブを漁っていた叶望の父は『自己評価が低い人間はプライドが高い』という一文を見つけてしまった。
一口に『プライドが高い』と言っても、千差万別だ。だが、叶望の父にとっては『プライドが高い=どうしようもない存在』という認識しかなかった。
だから『罰』として、叶望に重い物を持たせ、台所と風呂場を往復させている。
男だけが重い物を持つなど、おかしいからだ。
だが、苛立ちは治まるどころか、膨れ上がる一方だった。
そして、テレビから流れた『ある一言』で、それはあっけなく破裂した。
『この夏、母の愛を日本中に届けます!映画○○、八月――』
「ふざけんなっ!!何が『母の愛』だっ!!!」
叶望の父が叫ぶと同時に、怒声に驚いた叶望が、重い物を落とした。
それが、怒りをさらに加速させる。
「誰が落としていいって言ったっ!?そんな物も持てないのか!……おい、そんな被害者面をするな!!お前らが望んだ『平等』だろうがっ!!!!」
彼は怒りに任せて、娘の髪を掴み、壁に叩きつけた。
顔面を強打し、叶望は鼻血が止まらなくなった。
「っち、面倒だな。……おい、病院に行くぞ!生臭いっ!!」
連れて行かなかった時の『面倒』を本能で察し、叶望の父は頭を掻く。
『いや~、こいつ女のくせ……女の子なのにやんちゃでしてね。走り回っていて転んじゃったんですよ。もうちょっと落ち着いてほしいんですけど』
叶望の父は、病院の医師に向かい、そう説明した。
その際、医師が眉を顰めたことが、途方もない苛立ちを呼んだ。
『くそっ!俺より全然若いくせして、達観したような顔をしやがって!!お前だって、女を診察するのなんか、後から訴えられるリスクが生じるから面倒だと思っているくせにっ!!本当、お前らは――』
帰り道、叶望の父は、助手席に座る叶望に怒鳴り続けた。
そして叶望は、謝り続けた――。
◇◇◇
「……『解像度の低いお父さん』を持つと、大変だよね」
スカートを穿いた叶望は、憐みを孕んだ眼を叶望に向ける。
「例えばの話だけど、あなたが今までのことを、スノドロやロべチューブ、本にして発信したって、きっと信じてもらえない。『なんで嘘つくんですか?盛りすぎじゃないですかぁ?』『本を出すも嘘まみれになってしまうwww』で終わり」
『…………いえ、著名な人の目に留まったりしちゃうと、『こういう人は○○です』なんて言われかねない。下手をしたら、『これ、私のことだ!だから、全男は私に謝罪すべき!!』なんて、あれな人の餌食になりかねない。もっと言うと、政治だなんだと、関係ないことにまで飛び火するかもしれないし、ある意味被害者であるあなたが、『スノフ●ミ筆頭!!』みたいに思われかねない。第一、父を不快にさせずに、これらのことができようはずもない。あなたの叫びなんて、その程度でしかない」
「ああ、もしかしたら、『真面目に生きてる奴には悪いけど、同性がやらかしたからしわ寄せが来てるだけだろ?』『止められないお前らにも非がある』って、優しいお言葉の一つくらいは、かけて貰えるかもしれないわねぇ」
俯いた叶望に向かい、長い髪の叶望は、自身の髪に髪飾りをつけた。
『乙女チック』としか言いようのないそれは、楽し気に揺れる。
「虚しいものだよね。現実で……目の前に『当てはまっていない存在』がいるのに、あなたのお父さんが信じるのはスノドロやロべチューブ。それも、テレビ、ショートや切り抜き、『よいね!』の数、AI、ことわざ、再生回数、誰かの言葉、何かのアンケート結果、どこかで行った実験、嘘でも本当でも、時代や国が全く違っても関係ない。加えて『自分はちゃんと選べている。自分は絶対的に正しいんだ!』と思っているから始末に負えない。はははっ、それらを紹介しているモノ全てを合わせても、あなたが献身してきた時間には、遠く及ばないのに、それでも、あなたは『劣る』。…………そう、『負ける』じゃなくて『劣る』のよ」
「……ある意味、宗教みたいね。神は別に、『争え』『攻撃し合え』とは言っていないのに、敬虔な信者たちが、勝手に血を流してくれる」
髪飾りを揺らし、叶望は可愛らしく微笑んだ。
自分には絶対に作れない笑みに、叶望は背筋が粟立つのを感じた。
「でも、仕方がないわよね。兎火君や音律君たちを苦しめているゴミは、実際にいる……これから先だって、現れるんだから。なら、あなたは謝らないといけないわよね?お父さんだって、ちょっとのことで『セクハラ』って言われることにビクビクしながら、毎日を過ごしている訳だし。家族なんだから、受け皿にならないとね。もっとも、受け皿の役目さえ、果たせていないけど」
「それに、言ってしまえば白けるの。コメントでもあったでしょ?『こういう動画を目にすると、生きてちゃいけない気持ちになってしまいます』『女がみんなこんな考えだって思われるのは嫌です』ってヤツに、『見ましたマーク』はついたけど、投稿者からの返信はない。他のにはコメントを返しているのに。代わりに、『こっちはずっとそんな気持ちで生きてきたんだよ!!』『貴方みたいな少数のことを、この人は言っているんじゃない』って別の人からのコメントはあったのに。新たな争いを生んでも、知らんぷり。……でも、仕方がないのよねぇ」
「そう、貴方は『少数』。だから、どれだけ苦しもうが声は届かないし、貴方だって届かせられない。加えて、家庭のことだからどうしようもない。発信者の中には、貴方のような存在を生んでしまうと思っている人もいるでしょうね。でも、臭いものには蓋よ。少数なんて切り捨てていかないと……ね」
じわじわと染み込んでくる言葉に、叶望は目を伏せる。
すると、目の前に、子供用の小さな椅子が出現した。
「ねぇ、いつから、テーブルでご飯を食べていないんだっけ?動画を見るときや、勉強をするときは机を使えるけど、ご飯のときは、床に正座して子供用の椅子をテーブルに……だったよね?はははっ、すっごい滑稽!!でも、スマホもパソコンもあって、勉強ができてご飯も食べれて、雨風が凌げる世界を生きるあなたは、上澄みの存在なんだよね!そんなことで不満を言うなんて、贅沢贅沢っ!!」
「それに、美月ちゃんや発信者の家族のことなんて、言っても意味ないわよ。だって、高を括りまくっているんだもん。……で、実際、そういう人には、何も起こらない。なぁんて、こんなこと言うと、本当に感化される奴が出て来るかもね。だから、黙って下を向いて、会ったこともない人の正義を受け続けるしかない。あなた、弁もたたないしね。万が一、『話し合い』をしたとしても、ボロクソに言われて、『はい、終了ww』になるのがオチよ」
「虚しいねぇ。お父さん、教師のこととなると『みんなそうみたいに言うんじゃねぇっ!!』って怒るのに。虚しいねぇ、外に出れば『普通の世界』が広がっているのに、あなたは知ってしまった。後戻りなんてできない。幼少期から多感な時期、そして、これからも『その世界』に浸り続けなければいけない。でも、仕方ないよね。あっちにはあっちの言い分があるし、それで色々と発散させている人だっている。現に、お父さんは『いい先生』をやれている。未来を担う存在に、道を示してあげている。あなたは『無価値』ではあるけど、そう言った方面では、とっても価値ある存在よ」
「……よく、生まれ持った役割がどう、とかほざいているけどさ、役割とやらをを全うしたら、暴力を振るっていいの?暴言を吐いてもいいの?それも、一方的にさぁ!自分がされると、馬鹿みたいに怒るくせにっ!!しかも、得意げにそんなことを言っておいて、ちゃんと『確認』しているのよね。『鬱の人が見せる仕草』みたいな動画を見て、『……これらの症状が出てないから、まだ大丈夫だ』ってさ!そこまでしているくせに、自分を変えるつもりはないのよっ!!」
「ねぇねぇ、化生界で、何回『ビクッ』ってなった?最初は、化生界で心変わりしてくれたらいいと思っていたんだけど、でも無理。……どれだけの『献身』を無駄にしても、あなたは変われなかった。でも、仕方がないよね。『魂に染みついてしまっている』んだから!だから、だからね、逃げられないんだよ。魂を消滅させる以外、もう手はないの。……ねぇ、今ここで願って?」
楽になりたい……と。
長い話を終え、化粧をした叶望は言った。
「どの世界に行ってもこうなあなたは、魂を消してしまう以外、逃げ場はない。……死後、幽霊として化生界で暮らすことになっても、何も変わらないのよ?化生界で、何年、何十年、何百年経っても囚われている人をたくさん見て来たじゃない!分かるでしょ!?さぁ、早くっ!!時間がないのっ!!!」
肩を思いきり掴まれ、叶望は眉を跳ね上げる。
彼女はしばらく考え込んだ後、ゆっくりと口を開いた。
「あなたの『その姿』は、その、『もしもの世界の私』というものなのでしょうか?どこかの世界では、『そういう私』もい――」
「馬鹿ね。いるわけないじゃない」
振り下ろされた言葉に、叶望の心は固まった。
「私は、消えません。人間界に帰ります」
廊下に、金切り声がこだまする。
地団駄を踏む自分を、叶望は静かに見つめていた。
今、彼女の中にあるのは、やけに清々しい『諦め』と『決意』だけだ。
鬱屈とした気持ちは消え去り、爽快感が心を埋め尽くす。
「…………っ!!なんであなたもそうなの!?こんなにあなたに心を砕いてやっているのに!私みたいな存在、後にも先にもいないわよ!?」
「奇跡を超えた奇跡が起こって、元の生活に戻れたとしても、所詮は『元の生活』止まりなのよ!?この世界で芽生えた『あなたらしさ』なんて、一瞬で『正義』に踏み潰される!!常に下を向いて、『ごめんなさい』って謝り続ける一生!それでいて、『余計なことをしないでください』って、手前勝手な祈りを心の中で捧げて、怯えるだけの一生っ!……そんなの嫌でしょう!?」
叶望だったモノが喚く度、世界に罅が入ってゆく。
叶望は、凪いだ目でそれを見つめていた。
「私以外、誰も、お前の心身が健やかであることを望みはしないっ!!」
「さようなら」




