#71 グルーミングと行商の亜人
縄張りに戻った僕達は皆に改めて話を説明すると最初は納得がいかない人達もいたけど、彼女達が作る料理を食べて、すぐに歓迎されることになった。
そしてエル達ともミイネは一騒動あった。具体的には僕と寝る順番とか隣にいる順番とか僕抜きで話し合いがされた。
「第一回嫁候補会議だな」
「面白がっているでしょ? 賢吾」
「当たり前だ。ここに葵達が参加していないのが残念で仕方ない」
その会議後、僕にご飯を食べさせて来たりなどエル達のスキルシップが激しくなるのだが、ミイネに聞いても鉄壁の笑顔で理由を聞くことは出来なかった。そしてみんなが忘れているシャンプータイプの時間を迎えた。
「……これ、嫌い」
「こら。逃げない。ちゃんと洗えないでしょ」
「……あうあうあう。これは……やばい……」
エルはだいぶ馴れているがみんなが戦々恐々な様子だ。
「あの……これは私達もしないといけないことなんですか?」
「折角買って来たんだし、騙されたと思って使ってみてよ」
「使うのは良いんですけど、カナタさんに洗われないといけないんですか?」
「一人で出来るならやってもいいよ。あ、他の人にして貰ってもいいか」
ハクアは逃げるから強制的に僕がしているだけだ。
「そ、そうなんですね。では、私たちは二人でしましょうか。お姉ちゃん」
「そうだね」
「私はカナタにお願いします! カナタに髪の毛とか洗われるとすっごく気持ち良いんですよ」
「……分かる」
これでも結構トリミングとグルーミング歴は長い。専門家には負けるけどね。そしてハクアは作業を終わると首を振って、僕に水をかけて来る。これも犬のグルーミングではよくある光景だ。
「……ミイネは何しているの?」
「いえ、その……旦那様は意外に体付きが良いんだなと思いまして」
「そう言われればそうですね」
「カナタはいつもみんなの様子を見回りしてますし、他にも結構外で作業していたりするんですよ。後、いつも朝に謎の動きをしています」
朝の体操がエルには謎の動きに見られていたのか。ちょっとショック。ここでエルが聞いて来る。
「カナタは私たちや賢吾さんに色々していますけど、それはどうしてですか?」
「あ、それは私も気になってました」
「うーん……何もしないと孤独になっちゃうからかな?」
これは僕の母さんが言っていたことだが、他人に優しく出来ない人はどんどん人と関わる時間が減っていき、最後には孤独になってしまうそうだ。
だから母さんは何か貰えば、必ずお返しを挙げていたし、うちにやって来た人にコーヒーや茶菓子を出していた。近所付き合いという物を僕は知らない間に母さんから学んでいたんだなと今、思った。
「そういえば私達の村にもそういう人はいましたね」
「そうなんですか? ミフネちゃん」
「はい。ちょっと怖いと噂になっていました」
「人付き合いが苦手な人はどうしてもいるからね。その人が孤独を本当に望んでいるならそれを尊重するのも優しさだと思うよ。ただ余計なお節介だと思っても、挨拶だけでもいいから関わって挙げて欲しいと僕は思うかな」
みんなが悩んでしまう。まぁ、理解するのは難しいか。
「他人に優しい人の周りには人が集まって来るって話だよ」
「それでこんなにもカナタの周りには色々な人がいる訳ですか」
「僕だけじゃないよ。みんなが優しいからここにはきっと人が集まって来ているんだと僕は思うな」
遊んでばかりいるエルも遊びを子供に教えて上げたりしているし、ハクア達は元々仲間を大切にしている。お互いがそれぞれの優しさを知り、それを真似て、周囲に優しさが広がっていく。
僕が魔王メイルに確実に勝っていると断言できるのはこれだ。あいつの奴隷の支配からは優しさは生まれない。あいつがもし自分が優しいと思っているならそれは自分だけの都合が良い勝手な解釈だ。
「わたしく達も頑張らないと行けませんね」
「そこまで気合いを入れなくていいと思うよ。たぶんその内、自然と出来るようになるからさ」
こんな話をした僕は結局全員の髪の毛を洗うことになった。しかもこの後にモンスター達も控えている。流石に一人では出来ないので、みんなにも手伝って貰うことになった。
「……カナタの所に大行列」
「仕方ないですよ。あの気持ちよさに勝てる人は中々いないと思います」
「「「「そうですね」」」」
因みに全員の髪型も変えて上げたら、ガロロ達が驚いていた。その様子を見ていたウルガはこういう手もあるのかと呟いていたのが印象的だった。
それから数日掛けて転移魔方陣の設置や狐の亜人達のリクエストなどを聞くなど色々なことをしているある日の夜に急に皆が騒ぎ出した。
「何だろう? 外が騒がしくない?」
「そうですね! 見に行ってみましょう!」
「ふふ。竜人族のお姫様なのに負けそうになると逃げるんですね」
「逃げませんよ!? いいでしょう! そこまで言うなら決着を付けてあげます!」
「そこはカードゲームより外の騒ぎを優先していいと思うよ」
僕達の家にガロロの仲間が入ってた。
「大変だ! アニキ! 怪しげな男がいつの間にかここに入って来ていて、みんなが混乱している!」
「ほぅ……罠や偵察していた者がいる中、ここまで入って来たのか。只者じゃないぞ。星空」
「そうみたいだね。とにかく目的とか色々分からない。みんな、悪いけど、ついて来て」
僕達が怪しげな男の所に向かうとボロ布を貼り付けている服を着た男がいた。すると僕と仲良くなった鼠が男に駆け寄り、肩に乗る。
「どうしたんだ!? ハムレットー!」
「そんな名前を付けたのか? お前のハムシリーズはハムスター限定じゃなかったんだな」
「同じ鼠だから問題ないよ」
ここで男は帽子を取るとそこから鼠の耳が現れた。鼠の亜人か?始めて見た。
「私の仲間が世話になったようですね~。私の名前はカゲツと言います。失礼ながらラムーナの町にいたお二人を見つけて、追跡されて頂きました」
「まさかハムレットが?」
「その通りでございます」
「そっか。さようなら。ハムレット。君に二度と餌をあげることはない」
「チュウ~!?」
流石にスパイを招き入れたのなら、擁護は出来ない。仕留めないのが僕なりの最後の慈悲だ。
「容赦がありませんね」
「俺達に何の用だ? 脅しにでも来たのか?」
「まさか。私は寧ろあなた達を支援したいぐらいなのですよ」
「つまり仲間になりに来たってこと?」
こういうパターンは初めてだな。
「仲間というより私は自分を売りに来たんですよ。こう見えても行商人でして」
「カナタ。行商人ってなんですか?」
「旅をしながら商売をする人かな? 色んな所に行っているからその場所では手に入らない商品とか売ってて、面白いんだよ」
「「「「へ~」」」」
僕達にとっては屋台や移動店舗と言った方がしっかり来る。あれらは人が集まる場所に店舗を構えて、すぐに別の人が集まるところでまたお店を出している。これが行商だ。公園や駅前でよく見かけると思う。
「行商の事をご存知でしたか。では、話が早く済みますね。実は私は御覧の通り、鼠の亜人でして。この身なりも問題でさっぱり商品が売れないのですよ」
「「「「あぁ~」」」」
「全員にそう言われると結構ダメージがきますね……そんな私としてはあなた達の亜人の奴隷解放に賭けたく思い、ここに来ました」
どうやら僕達の動きも調査済みらしい。抜け目がないな。商売で成功していないのが不思議なレベルだ。まぁ、それだけ亜人が人間社会で成功するのが厳しい世界という事だろう。
「亜人の奴隷が解放されたとしても自分が成功するとは限らんぞ?」
「承知しております。しかしチャンスすらない今の状況よりはかなりマシだとは思いませんか?」
「なるほど。確かに亜人の奴隷が解放されれば流れ次第ではかなりの商売チャンスが来るだろうな」
「そういう事です。それとここには一つ仕事で来ましてね」
男が消えると僕にナイフを向けて刺そうとしてきたが僕の前に炎の障壁が作られ、ナイフが刃が溶ける。
「わたしくの旦那様には手出しさせませんよ?」
ミイネが炎障壁を貼ってくれたようだ。
「これはこれは……む」
「らぁ!」
「……やぁ! あれ? 手ごたえがない」
ガロロの側面からの攻撃をカゲツは後ろに飛んで躱すと前からハクアが拳が入り、吹っ飛んだがハクアが首を捻っているとカゲツは起き上げる。
「いやはや。中々強い亜人がいるようですね。おっと、これ以上は何もしませんので、そこの竜人族の攻撃だけは止めて頂きたい。死んでしまいますので」
「その手に仕込んでいるアイテムは衝撃吸収のアイテムか?」
「バレてしまいましたか」
賢吾はハクアが攻撃した瞬間にカゲツが手でハクアの攻撃を受けているのを確認していた。拳の衝撃が無くなれば威力はほとんどないだろう。吹っ飛んだのは演技だね。
「何故こんなことをしたのか説明してくれるよね?」
「もちろんです。私はあるお方から仕事の依頼を受けていました。その仕事と言うのが亜人の奴隷を解放に動く人間の実力を計って欲しいと言うものでして、失礼ながら計らせて貰いました」
「その仕事を依頼したのは誰?」
「奴隷にされている獅子の亜人の英雄レロード様の依頼です」
誰?こういう事に詳しいのはホゥだね。
「レロード君はオウバ君の右腕だった人だよー。実力ではオウバ君より強くて王様候補だったんだけど、王の座より妻と子供を優先してねー。戦士として多くのモンスターと奴隷商人を撃退している獅子の英雄なんだよー」
「そういえば獅子の英雄が奴隷として捕まっているとか聞いたことがあるな。詳しい事は知らないけど」
「それでは私が少し説明をさせていただきます。レロード様は奥さんと子供を人質に取られ、奴隷となりました。この為、レロード様は奴隷の首輪から解放されても動く事が出来ません。他にも小人族や巨人族、他の実力がある者達は妻や子供を人質に取られている事が多いんですよ」
チョコネは副官さが少し出て来たな。それにしてもこれで奴隷達の解放がまた一段と難しくなった。
「ホゥはこの事を知っていたよね?」
「うん。でも、奴隷の首輪がまだどうすることも出来ない状態で話してもやる気が無くなるかと思って黙ってたんだよー。ごめんねー」
「謝らなくていいよ。確かにまずは奴隷の首輪をなんとかしないといけないのは事実だからね」
恐らく人質にも奴隷の首輪が付けられているはずだ。だからこそまず奴隷の解放の最初の壁は奴隷の首輪となる。
「話を戻すけど、そのレロードっていう英雄は僕達の実力をあなたに計らせて何がしたかったのかな?」
「あのままナイフで刺されているようでしたら、奴隷の解放を止めるように伝えられていました。失敗すれば人質がどうなるか分かりませんからね。もし防げるほどの実力があるのならあなたの事を教えて欲しいと言われています」
「ほぅ。つまりお前はそのレロードと連絡を定期的に交換することが出来るのか?」
「お察しの通りでございます。レロード様がいるのはラピス山脈でして。私の仲間が穴を掘り、手紙を背に括り付けることで連絡を取り合っております」
度胸があるというか行商人じゃなくて諜報員か何かだよね。この亜人。するとガロロが質問する。
「おい! その山には俺達の仲間がいなかったか?」
ガロロの質問をきっかけに皆が質問する。
「お待ちください。私は連絡を取っているだけで顔までは見ておりません」
「それなのにどうやって本人だと分かったんだな?」
「彼の鬣の毛が送られてきまして、オウバ様に確認が取れています」
オウバとも関わりがあるんだ。まぁ、当然と言えば当然か。
「なるほどな。お前はどう思う?」
「仲間にするのは危険だけど、手を組むくらいならいいんじゃないかな?」
「同意見だ。俺達では調べられなかった情報をいくつも持っていそうだしな」
「恐縮です。それでは本業をさせていただきますね」
袋から商品を取り出し、並べる。すると皆が興味津々だ。僕達としても是非欲しい物があった。それはルーナリア王国とラフェード魔王国の地図だ。
「よくこんなものを手に入れることが出来たな。俺が探した限りでは見つからなかったぞ」
「この手の地図は国が管理していますからね。ただ行商人にとっては地図は無くてはならない物です。物々交換などで結構手に入れる人が多いんですよ。ま、私の場合は同業の人から頂いた物ですけどね」
頂いたね……絶対に脅したり、何かして手に入れた物だよ。これ。ま、客である僕達にとっては入手法なんてどうでもいい話だ。
「本業ってことは買えるってことだよね?」
「えぇ。もちろん。ただ値段は高いですけどね」
「俺達が金があることを知った上で持って来ている癖によく言うな」
「ふふ。バレていましたか」
「当然だ。そんな身なりであのお店にいれば端にいても目立つぞ。視線も感じていたしな」
マロネがいるお店にいたんだな。そりゃあ、お金があることはバレバレだろうね。わざわざ見せてたし。
「これはこれは……私もまだまだですね。大金を目の当たりにして目立ってしまいましたか……以後気を付けます」
「是非そうしてくれ。敵に捕まって俺達の情報を渡されてはたまらないからな」
この二人、似た者同士で相性悪いな。まぁ、賢吾がそこまで言うということは自分の命が掛かっている場面では平気でこちらを裏切る可能性が高いってことだ。僕としてもその可能性は高く感じる。そのリスクを承知で話を進めるのが今は得策だと思った。
「それじゃあ、その二つを貰おうかな?」
「毎度ありがとうございます」
「ん?」
いきなり背中に柔らかい感触がした。
「はぁ……はぁ……抱いて欲しいです。カナタ様」
「サクニャちゃん!?」
「お姉ちゃん!? どうし……ズルいです。私も抱いて欲しいにゃ~。カナタさ~ん」
「チョコネちゃんまで何言っている!?」
ミイネがすぐに原因を突き止めてくれた。
「これにやられたようですね」
「木の枝? まさかマタタビ?」
「マタタビというのは知りませんがこの木は恐らくネコノコビという枝です。猫のモンスターに興奮作用があると言われているんですよ」
普通に読むと猫の媚びになるよね!?マタタビじゃん!
「これはもう旦那様にはこれを買っていただくしかありません」
「何? その変な形の芋」
完全の男のあれにしか見えないんだけど……凄く嫌な予感がする。
「それはエロダンイモ。ラフェード魔王国では量産されている男には無くてはならない物ですよ。何せ効果は一日中続いて、一晩中遊ぶことが出来る代物ですからね」
精力剤と同じ効果があるって言いたいわけね。いりません!
「そういえば水瀬がこれを使って、何かの薬を作っていたな」
「癒夢ちゃん!?」
きっとあっきーやなおやんに頼まれたに違いない。そう思うことにした。暫く混沌とした状態が続いたけど、ここでカゲツから商談を持ちかけられた。僕達が作っている物や持っている物を自分が売りたいと言い出したのだ。特にカゲツが注目したのが僕が着ている白衣と袴だった。
「これはまだ商品に出来る状態じゃないんだ」
「では、出来るようになってからで構いませんよ。私もそれを着れば色々商売がしやすくなると思うでね。あ、それと何か欲しい物などあれば教えて下さい。用意できる物があれば調達致しますので」
「それじゃあ、奴隷の首輪とかあったりする?」
「やはりそれが来ますか……残念ながら手には入りませんね。私も命を危険にしたくはありませんので」
やはり奴隷の首輪には位置を特定する何かがあるってことか。
「残念だったな。カナタ」
「しょうがないよ。とにかく今は守りを固めて、情報を収集するしかないね」
「だな。俺も動くとしよう」
「それでは私はラピス鉱山を探ってみます。何せあそこで奴隷の首輪が作られていますからね」
ラピス鉱山で奴隷の首輪が作られていることも確定したか。詳しく話を聞くと作っているのは巨人族と小人族らしい。巨人族が鍛冶をして、小人族が細工を担当しているそうだ。
「そいつらから話は聞けないのか?」
「残念ながら彼らの奴隷の首輪は特別性のようでして。それに作業場や牢屋も悪魔がいつも見張っています」
最重要人物だから当然守りも堅いか。これで情報交換を終わり、僕達は家の建設と悪魔達が落とした武器を使った戦闘訓練、罠の充実、消毒液の開発に必要なお酒の生産、魔毒の雨が使われた時の為に洞窟の拠点を作るなどして着実に戦いの準備を進めていった。




