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君は水泳という名の青春に飛び込めるのか  作者: 柏木京介
一年生編-県大会-

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28/28

28話「思いを乗せて二日目は始まる」

 二日目の県大会も一日目と変わらず、学校に集合しマイクロバスで会場に向かい、アイススケート場に荷物を置き、アップをしに向かう。

 今回は一日目とは違い開会式がなく、直ぐにアップの時間が終わった後に競技が開始される。

 プールバッグを片手に持ちながら、桜坂花蓮、南条愛美、武田佳織里は喋りながら歩いていたところに横槍を入れる人達が現れた。

 その横槍を入れた人物は、桜坂花蓮が同じ組で泳ぐ相手でもある川津桃と小柏海であった。

「今日は楽しみだね」

 そう川津桃は笑いながら喋りかけ、隣にいる小柏海は無言のままだ。

 「なんて言ったらいいのだろうか?」と迷う。言葉にすることは頭の中で考えが纏まる。でも、言葉にするのは難しい。

 些細なことで喧嘩はしたくない。誰だってそうだろう。

 でも、一日目に怯えないと決めたからには堂々と発言をしようと心に決めていた。

 あの時に桜坂花蓮は自分の気持ちを全て吐き出しても、二人はこうしてまた会いに来てくれたのが何よりの証拠だろう。

 何を言ってもこの二人なら大丈夫。

 だから、安心して本音をぶつけてもいいと思えた。

「うん。私は負けないよ」

 その言葉は川津桃に向けた言葉ではあるが、自分自身にも向けた言葉でもあった。

 絶対に負けたくない。川津桃に勝ち、小柏海に勝ち、南条愛美に勝ち、田崎玲奈にも勝つ。これが今の桜坂花蓮の気持ちであり、覚悟だ。

「そうこなくっちゃね〜本番を楽しみにしているよ〜」

 そう言葉を残して、後ろに振り返りながら二人して立ち去ろうするが、小柏海だけ止まりこちらに振り向きながら、言葉を発した。

「花蓮も愛美も簡単で無様に負けたら承知しないから。それじゃあ、本番で」

 そのまま、小柏海も去っていく。

 彼女は、桜坂花蓮の覚悟に対して、ちゃんとした言葉で返すのは小柏海も桜坂花蓮という選手を大会に臨む選手の一人として認識しておきたいし、されたいと感じた。

 中学時代のような無様な泳ぎをするのであれば、全力で叩き潰すし、そうなればもうこれ以上絡むつもりもない。

「当たり前じゃん。私だって、変わったんだよ」

 遠ざかる川津桃と小柏海の背中に対してそう呟いた。

 一日目に二人に対して宣言したように自分自身の泳ぎを見てほしいと思うし、高校で変わった自分がどこまで二人に対して通用するかを知りたかったことも事実。

 それもあるけれど、こんなにも大会が待ち遠しいと思ってしまっている自分にも驚いた。

 『この気持ちこそが本気で水泳をしているということなんだな』と桜坂花蓮は数ヶ月のことを思い出しながら、肌で感じていた。

「あぁ〜楽しみだな。桃ちゃんと戦うのも、海と戦うのも、それにー」

 そう言いながら、南条愛美の方を振り返りながら、言葉を続ける。

「愛美と戦うこともね」

 南条愛美はその行動に対して少し驚きながらも、嬉しいと心から感じてしまう。

 『あぁ、私のことも忘れてはいなかったんだな』と南条愛美は感じていた。

 こう感じてしまっているのは先程の二人、川津桃と小柏海が一日目に現れてから、桜坂花蓮はそっちにばかり気を取られているのだとばかり思っていたから、嬉しい気持ちが顔に出そうになりながら答える。

「私も楽しみ」

 組が一緒になることは多分ないだろう。

 奇跡的にタイムが近ければなれるかもしれないが、それは運営が調整してしまうし実現には遠い。

 でも、タイムで競い合うことはできる。

 「絶対に負けない!」と誓いながら、手を差し出した。

 誓いの握手だ。

 桜坂花蓮は少し驚きながらも、返してきてこう言った。

「絶対に負けないから」

「私こそ」

 こうして桜坂花蓮、南条愛美、川津桃、小柏海の県大会二日目が開始された。

 田崎怜奈という不安を残しながら。



 桜坂花蓮達が川津桃と話している時に、田崎怜奈は昨日のことを振り返っていた。

 昨日出た競技といえば、メドレーリレーになるわけだが、田崎怜奈としては「泳ぎが不甲斐ない」と感じていて、今日の200m自由形とフリーリレーはそんなことにならないようにしようと考えている。

 そうは考えても、メドレーリレーにはあまり速くない部員しかいないのは事実だったが、そうだとしても「なんとかできるのではないか?」と考え奮闘したが無理だった。

 全てを考慮して泳ぐのは大変だしきついことだ。無理だとは田崎怜奈はわかっている。理解もしている。それでも、「なんとかする、なんとかしてしまうのが真の強者じゃないのだろうか?」とも感じていることだ。

 今日のフリーリレーだって、何かのアクシデントが起こらないとも限らない。全部を想定して考えようと心に決めていた。

『私はなんとしてでも関東や全国大会に行きたい』

 その気持ちは、200m自由形に限った話ではない。全員が速く、息があってないと不可能なリレーだって田崎怜奈にとっては関係ないのだ。

 リレーは別と考える人も少なくはない。田崎怜奈としては「別ではない、一緒だ」と考えている。

 そもそも、田崎怜奈は関東大会や全国大会に行けるのならどの種目でも構わないし、リレーなら選ばれるのは誰でもいい。人に拘りなどはないし、学校の速い選手が選ばれて、泳ぐのではあれば文句もいえない。選手は学校の部員からしか選ばれないのだから。

 そうは言うが、部活で泳ぐのは楽しいとは思う。でも、それ以上に勝ちたいと思っている。

 だから、他人との馴れ合いとかしている気持ちはわからない。ワクワクドキドキするという気持ちもわからない。

 速い人が勝ち、遅い人が負ける。ただそれだけだと感じているから。

 淡白だともいえるが、それ以上に田崎怜奈は水泳というものを、個人競技だと考えている側面が大きい。その考えはリレーでも同じだ。

 故に、個人種目はもちろんのことリレーでも「負けたのは私の責任だ」と考えてしまうことが多々ある。リレーのメンバーの中に遅い選手がいたとしても変わりはしない。

 ストイックという言葉がある。田崎怜奈という存在はそれに該当するかもしれない。

 だが、ストイックという言葉以上に田崎怜奈は、泳ぐことが好きで、クロールが好きで、大会で競い合うのが好きで、水泳が大好きな何処にでいる女の子の一人なのかもしれない。

 田崎怜奈の周りの部員達が異常な人だと思っているだけで、田崎怜奈の根底にあるのは普通に水泳が好きなだけなのだ。

 だから、田崎怜奈は特別でもなんでもなく、普通の高校生だ。

 溜め息を一つ吐く。深呼吸をしていると、場所がアイススケート場だったからか、吐く息は白く、半袖と半ズボンのユニフォームでは少し肌寒さを感じた。

 少しだけ、気持ちを落ち着かせていると小島順菜がやってくる。周りをキョロキョロと見回しながら、誰かを探しているようだったが、田崎怜奈を見つけた瞬間に駆け足で近づいてきた。

「あ!いた!何処行ってたのか心配したんだよ」

「今行くところだった」

 真っ赤な嘘である。何かを考えていることを悟らせないための嘘。田崎怜奈はこういう時に本音をあまり言わないために、何が嘘で、何が本当なのかがわからない人が多い。小島順菜を除いて。

「もう〜そうやって、嘘ばっかり」

「わかった、わかった。本当に行くから」

 これ以上話しても、小島順菜の咆哮は止まりそうもないので、これくらいで引いた方がいいと判断して、プールバックを掴んだ。

「じゃあ、行こうか」

「200m自由形はすぐなんだからね。遅れたらどうするの」

「はいはい」

 田崎怜奈の母親でもないのに、それと似たような行動をしているのを少しだけおかしくなり、笑いそうになるのを我慢して、アイススケート場から移動した。



 小島順菜は何処となく上の空な田崎怜奈を見て少し心配にはなるが、田崎怜奈のことだ、答えてくれないと思い聞かない。だから、別なことで話題を作る。

「今日はフリーリレーだね」

「うん」

 そっけない返事だが、これでいいと感じた。小島順菜は緊張をしているから、今は誰かと喋って落ち着きたい気分だったからだ。

 話す内容はなんでもよく、特に拘りはない。

「私は関東に行きたい。そして、全国にも行きたい。怜奈と一緒にね」

「それって、愛の告白?」

「かもね。だって、怜奈のこと好きだし」

「本気にしちゃうよ」

「本気にしていいよ」

 冗談で聞いたつもりだったのに、真面目な顔で本気で受け答えをしてきて、少しばかり驚いてしまった。田崎怜奈本人ですら、「好き」とか「愛の告白」が付き合うに直結していないことはわかっている。

 小島順菜は、田崎怜奈の泳ぎ方が好き、田崎怜奈の水泳に対しての考え方が好きなだけで、容姿の話は一切していない。

「そういう冗談は置いておいて、今日のフリーリレー勝つよ。私達は、今年で最後なんだからさ」

「うん。そうだね」

 ああ、田崎怜奈は頼もしいなと感じてしまう。

 その一言を聞くだけで、やる気が湧いてくるし、一緒に泳げるのが最後なのが嫌だと我儘の一つも言いたくなる。

 「もっと怜奈と泳ぎたい」と強く思えば思うほどに、今年で最後なのが寂しくなる。

 この県大会の会場となっている場所も中学生の頃から考えると、何回も来ているし、高校の部活の皆んなとも全員が揃って部活をすることもなくなるし、将来に向けての受験や就職活動にシフトして行く形になる。

『疎遠になるのは覚悟していたんだけどな…』

 いざ実際にそうなってくると感じ方が変わってきていき、「この楽しいけど苦しい時間がずっと続けばいいのに」と感じてしまうが、時は必ず止まりはしない。時計の針は動き続けるのだ。

『悔いが残らないように、全力でいこう!』

 そう思いながら、田崎怜奈の隣に立った。

 憧れている女の子との最後の県大会が始まったのだ。

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