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魔王軍の紅一点ですが愛する魔王様に塵になる覚悟で告白したら溺愛が始まりました  作者: 紅薔薇みらの


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第十話 魔王引退

 「魔王を、辞めようと思う」


「まっ、魔王を辞めるう!?」


 ハッと口を押さえる。


 “魔王様、それはどういう……?” みたいな落ち着いた反応ができればよかったのに。


 自分も魔王の幹部でいようと必死に振る舞ってきた光属性と闇属性が混在した普通の人間。

 魔王様と同類なのだと思い知った。


「ずっと悩んでいたんだ……」


 動揺する私から目をそらし、魔王様は静かに話し始めた。


「俺は、闇属性の者として生まれて生きてきて、闇の中の暮らしでも普通の幸せが欲しかった。それで最初は普通に暮らしていたんだが、ある日、魔王になろうとする者同士の戦いというか、そんなものに巻き込まれて俺が勝ってしまったんだ。それで、このまま魔王になろうと思ってしまった」


「そんな風に魔王に……」


「フフ、おかしいだろう? 魔王には子供の頃から憧れがあったから、魔王になれたのはよかったんだが……」


「憧れの魔王に本当になるなんて、凄いです」


 私は跪き、尊敬の目で見ながら笑いかけた。


「ありがとう。そういうわけだから、こうしてモルガンと結婚して普通の幸せを手に入れた今、魔王でいる意味がない気がしてる」


 動揺しつつも相づちを打った。


「それに魔王といえば、世界征服前に勇者に倒されるからな」


「え……それは……」


 私も魔王が世界征服した話は聞いたことがなかった。

 けれど、魔王様ならばできると思っていたので返答に困る。


「前は倒されてもいいと思っていたが、今の俺は、勇者に倒されたくない。モルガンとの幸せを失いたくないからだ」


 魔王様は愛情に満ちた眼差しと微笑みを向けてくれた。

 最早、元魔王といった方がよさそうな優しい雰囲気。


 魔王様……そんなに私のことを……


 失いたくないと、不安に揺れながらもまっすぐ見つめてくる瞳。ただ、私も見つめ返すことしかできなかった。


 私も魔王様を勇者に倒されたくない。


 膝のローブに目を落とす。想いを告げた時からの、幸せな日々を失いたくない。それに、このまま秘密のままの暮らしを終わらせたいと願っていた。こんな形で道が開けるなんて……。


「私も、ダイス様を失いたくありません……! 絶対に」


「モルガン……」


 魔王様は私の片手を握り、力強い眼差しで私を射抜いた。


「愛している」


 心まで射抜かれて、心の中に愛というものが広がっていくのがわかった。


「私も愛しています」


 同じだけの想いを返そうと、手を握り返し必死に瞳を見つめ返した。


「辞めても、ついてきてくれるか?」


「はいっ」


「ただの闇の者として、暮らすことになるがいいか?」


「はいっ」


 私達は固く抱き合った。


「……ですが、魔王様なき後の魔王軍は?」


 私は落ち着きを取り戻して、仲間達を思い浮かべた。


「……いきなり組織解体も考えた。最大の敵だと疑っていたルークスは、聞いた通り脅威ではなかったし、もう魔王軍はなくなったほうがいいと考えているんだが、モルガンはどう思う?」


 初めて重大な意見を求められ、緊張に張り詰める。


「……はい。私もそう思います。ですが……」


「遠慮なく言ってくれ」


「いきなり解体して大丈夫でしょうか? 私のように魔王様に憧れて部下になった者や、他の部下達はどうなるでしょう?」


 魔王様は皆を思い浮かべたように、遠くに視線を向けた。


「そうだな。モルガンのような部下も他の部下達も混乱させてしまうな。人生を捧げてくれている者もいる……」


「魔王様は、闇の者達の希望です」


 大げさではなく、心からそう伝えた。


 魔王様は目を閉じ、しばらく腕を組んで黙っていた。


「誰かに受け継がせないとな……新たな魔王の目星ならある。バルダンディだ」


「バルダンディ」


「バルダンディなら、俺の後を継いで魔王になれる」


 即座にうなずく。

 私も他に浮かばない、なにより魔王様が選んだ者。

 彼しかいない。


「その気があるか、確かめてこよう」


 魔王様は立ち上がり姿を消した。




 急いで部屋に戻り、水晶玉で魔王様を探し様子を見た。


 魔王の間で対峙する魔王様とバルダンディ。

 すぐに強力な魔法がぶつかりあい、黒い光でなにも見えなくなった。城が衝撃に揺れている。


 水晶玉を落としてしまったが、震えて動けない。


 魔王様! ご無事で!


 必死に祈るうちに、揺れはおさまった。

 たまらず部屋を飛び出す。その時、後ろに魔王様が現れて、腕を引かれ部屋に戻された。


「魔王様、ご無事で……?」


 夢中ですがりつくと、優しく抱きとめてくれた。


「大丈夫だ。少しバルダンディの力を試してみたくて攻撃してみた」


「どうでした?」


「同じ魔力量で反撃してくれた」


 姿や言動や雰囲気だけでなく、実力も魔王様に匹敵していたなんて凄い。

 それにバルダンディは魔王様が引退すると聞いて、どんな反応をしたんだろう? 


「魔王様、引退すると聞いてバルダンディはどんな反応を?」


「冷静に “魔王様、それはどういうことでしょうか……?” と聞き返された。あまりの冷静さに、こっちがうろたえたぞ」


 やっぱり。

 さすが新たな魔王になるような者。


「魔王になる前の自分に戻ると、正直に伝えたら黙ってうなずいてくれた。奴は、俺が魔王になった経緯を知っているからな……」


 ふたりには、昔からの深い信頼関係が。やはり、魔王を継ぐのはバルダンディしかいない。


「バルダンディも無事ですか?」


「無事だ。魔法をぶつけ合っただけだからな」


「凄い衝撃でしたね。城が揺れていました」


「負けるかと少し焦った」


 魔王様は楽しげに笑ったが、次の日には潔く魔王を辞めた。


 私も後を追う形で、魔王軍を去った。

 潔く去れると思っていたが、いざとなると仲間達との別れは辛かった。

 ミストルティンもギルバードも黙って、魔王様を追うようにみせかける私を、あたたかく見送ってくれた。

 新たな魔王バルダンディは、ふたりきりの魔王のまで一言。


「ダイス様を頼む」


 と、切実な瞳を向けてきた。


 やはり全てわかっていたんだ。

 私はしっかりと、はいと応えた。


 みんな、元気で。

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