8.5 貴女との再開②
しばらくして彼女は目を覚ました。
嬉しさと驚きのあまり座っていた椅子から立ち上がってしまう。
あきらかに彼女は私のことを〝知らない誰か〞としか認識していない反応だった。わかってはいたが少し胸がちくりとした。私のことなど覚えているはずがないのに。
■ ■ ■
「助けていただきありがとうございます」
私が助けたのではない。本当に君を助けたのは会長だ。と口から発しそうになったが、なぜだかそれをやめてしまった。真実を言うだけなのにすごく悔しくなった。私の心の小ささが嫌でも思い知らされた。
「私、あなた様とお会いしたことがありましたか……?」
まさか覚えているとは。正直すごく驚いた。
その言葉以上に嬉しい言葉はなかった。彼女は私のことを少しでも覚えていた。名前を覚えていないのはどうでもいい。ほんの少しでも彼女の記憶にさえ残っていれば私は満足だ。
私はずっと気になっていた手紙のことを聞いた。
そうすると彼女は初めて私が手紙が送ったことを知ったようだった。何かの手違いで手紙は届かなかったらしい。良かった、嫌われているわけではないのか。
__良かった?どうして私は今、彼女から嫌われていないとわかって安堵し喜んだのか。私の立場上、人に嫌われることは慣れている。そして好かれることも。ある意味私の心は冷めきっていると自分でも思っていた。しかし、彼女に嫌われているかもしれないという可能性があったときはすごく悩み、嫌わないでくれと何度願ったことか。彼女の存在は私にとって他の人と何か違うのか。わからない。わからない、が、私は彼女に嫌われたくなかった。
「足を滑らせたのか?」
「……はいっ。私、ドジなのでついつい段差を踏み間違えてしまって」
そうではないのはわかっていたが彼女は私に知られたくなかったのだろう。その意思を尊重したい。そう思って彼女の嘘に騙されることにした。あくまで私は階段で足を滑らせたところを助けた。
このことを彼女ひとりで背負わせる訳にはいかない。もしものことがあったら私のことを頼ってほしい。今度こそ力になりたい。会長のように。
■ ■ ■
しばらくすると彼女は寮に戻ると言って行ってしまった。
ひとり残された私は彼女について考えた。
2年前、彼女を茶会に招待したのはドラゴンだった令嬢がいると友人から聞き、一目見て話したいという好奇心からだ。もちろんその事は私と友人しか知らない。友人いわく、この事は絶対秘密らしい。
そして当日。ドラゴンだったというのだから、その令嬢は野蛮なのか。男のようなのか。それとも変わり者なのか。いろいろと想像を膨らませていた。
しかし、期待は外れた。ドラゴンだったという令嬢は想像とは正反対の華奢で大人しそうだった。こんな子が……。と思った。だが、どこか芯が通っていて美しくも思えた。
彼女を見ることはできたが、話すことはできなかった。人に囲まれて抜け出せない私の代わりに友人が彼女に話しかけに行った。後で話を聞かせてもらおうと思い、しばらく遠目で見ていた。
すると、なんだか険悪な雰囲気になっている。友人の顔は笑みを浮かべ、それとは対照に彼女の顔はひきつっている。彼女は酷く動揺しているように見えた。
あいつ……何をやらかしている!私は友人を恨んだ。
茶会の数日後、私は彼女に手紙を書いた。……本当は彼女ともう一度会うための誘いの文を書きたかった。しかし、いきなり話したこともない、もしかしたら見たこともない男と会うのは嫌かもしれない。だから建前上友人の無礼行為の謝罪文とした。
しかし、返事は来なかった。
いま、こうして再会できたことは奇跡かもしれない。もう少し彼女のことを知りたくなった。




