邂逅
「じゃあさぁー!日本帝国の建国と、他国への宣戦布告を兼ねて・・・万歳!!」
「キヒッ、キヒヒヒヒ・・・アハハハハハハ!!」
翔の不気味な笑い声は止まらない。あれほど騒がしかった群集を黙らせて1人不気味な笑い声を上げる翔の目は・・・
「狂ってる・・・」
幾島は数々の犯罪事件を報道してきた。もう20年になる。残虐な事件から凄惨な事故、思い出しただけで吐き気のする事件を山程見て、言葉にして、映像にして、全国に伝えてきた。だが、これほどまで狂った人間はいなかった。
「僅か17歳でこの鬼畜外道ぶり・・・なにを考えている・・・」
それから演説は翔によって一方的に終わった。
翔によってもたらされた影響はとてつもないものだった。テレビのチャンネルは全て翔の演説の特番で日本中に演説の様子が流された。
演説を終えた翔は自分の豪邸、「「白き城」」の1室に春樹といた。地下にあるこの部屋は赤と白の奇抜な部屋で所々に豪華な装飾があった。窓は地下なのでないが、あったとしたら今頃夕日が見える頃だろう。壁には西洋の甲冑と剣があり、広い部屋だからこそ置くことの出来るビリヤード台、そしてソファーが2つと透明なテーブルが1つ。直感で言い表すなら19世紀の西洋貴族の部屋か。
見るだけでもフカフカだとわかるソファーに座り、頬杖をつく翔は演説の時と同じスーツで春樹に問いかける。
「ねぇねぇ、チェスでもしないか?」
目を大きく見開いたその表情は満面の笑みで形作られていた。
「翔・・・」
「んー?やっぱり春樹は将棋の方がいいかなぁ?でもさぁー、僕にはどのゲームでも勝てないの知ってるよねぇーねぇー!僕は体力面はまったくダメだし身長も低くて体も細いけどさぁー、その分頭はキレるんだよー、一長一短かなぁ?」
「翔・・・お前・・・」
春樹の問いかけを気にもせず自分の言いたいことを言っていく翔。まるで眼中にないかのように。
「でも春樹はあれだよねぇ、だいたいなんでも卒なくこなせるタイプでぇー、でもさぁー、そのかわりにどんなことも一番にはなれない、僕とは正反対だよねぇ?」
「翔!いい加減にしろ!」
思わず手に力が入り爪が自分の皮膚に食いこむが気にせず続ける。
「なんだあの演説は!?世界を殲滅?統合?そんなことしたら一体どれだけの血が流れると思ってるんだ!」
「なにが日本帝国だ!王にでもなったつもりかお前は!?」
翔のがピクッと動く。
「王、か・・・いいね、それじゃせっかくだから世界の王にでもなってみよっかなぁ!」
「お前ぇえ!」
おもわず春樹が翔の胸倉を掴む。翔のスーツは乱れ、ネクタイは引っ張れる。身長の低い翔は春樹に引き寄せられながら爪先立ちになる。
「お前の目的はなんだ、」
「何がしたい?昔からお前は変なヤツだった。運動には興味ないし、ゲームはめちゃくちゃ強かった・・・変な笑い声で何考えてるかわかんねぇ。」
そっと胸倉から手を離すとゆっくりと後ずさった。
「なんだろうねぇ!ただ殺し尽くしたいだけかもなぁ!」
その言葉を聞いた春樹は咄嗟に壁まで走ると飾ってあった鋭利な西洋剣を取って翔に向けた。本当に衝動的な行動だった。
「僕を殺す?できる?春樹に?キヒヒ・・・無理だよ!」
「なら試すか?俺がお前を殺してこの茶番が終わるならやってやる!」
剣先を翔に向けたままそれを後ろに引く。あとは指し貫くだけ・・・
「うぉおおおおお!!!」
「「バンッ!」」貫く既の所で銃声と共に剣が根元から折れた。
「!?」
折れた剣が床に落ちて甲高い音を鳴らす。
「合図したらって言ったじゃないかぁー、せっかちだなぁ橘は・・・」
部屋のどこに隠れていたのだろう、まったく気づかなかった。
「いえ、これ以上は危険と判断しましたので発砲しました。」
橘と呼ばれた30後半くらいの身長の高い黒いヒゲの生やした渋い執事は拳銃をジャケットにしまってからまだ理解の追いつかない春樹に近づき流れるような早業で春樹を拘束して床に押さえつけた。
「くそ、は、離せ!」
必死に抵抗するがまったく動けない。
「どうしますか?」
「うーん、そーだなぁー、ほんとなら殺しちゃうけど、親友だしなぁ・・・」
「命だけは助けてあげるよ、春樹。」
「これから春樹、君は這いつくばってEU連合で暮らすんだ、僕が世界を染めるところをじっくり見てるといいよぉ!」
身動きの取れない春樹はただただ悔やむしかなかった。




