生き返ったエマ
「ぬくもりをって…どうすればいいんだ?」
流石に火にかける訳にもいかないので、とりあえずクローゼットから取り出してソファの上に置いておく。
「とりあえず温めるか」
確か凍傷にいきなり直火は良くないので、蛇口から水を出し、魔法で温めていく。強力な魔法は使えないが、魔法の繊細さで言えば人形遣いは全職業でもピカイチだ。
自分で触ってみて、自分の体温と同じくらいになったので、温水の入った桶をソファの方へ持って行き、エマの両脚をそっと桶に入れる。見た感じ凍傷が一番酷いのは脚なので、まずはエマの脚を温めながら、浴室へつながる扉を開けて、浴槽に水を張ることにした。大人2人が浸かっても問題ない程大きな浴槽なので、少し水を張るのに時間がかかる。そこで定期的にエマの脚の様子を見つつ、浴室とソファを往復した。
「そろそろか」
並々と水を張ったので、魔法で浴槽の水を温めていく。量が多いだけに少しだけ時間がかかったが、袖を捲り上げて浴槽の水の水温を確かめつつ、かき混ぜていく。人肌に近い、それより少しだけ温かい温度になったことを確認し、再びエマの居るところへ戻ると、
「なんか…デカくない?」
先程まで1mもない西洋人形のような見た目のエマが、今では随分と人間らしさを取り戻している。見た目は完全に幼い少女であり、浴槽に浸からせようと抱き上げると、人肌のような感覚と、ずっしりとした人間らしい重さがあることに気がついた。残念ながらまだ話は出来ないが、汚れていも、彼女の整った顔つきとその長い髪は、大事に大事に育て上げられた事がわかる。
「エマ…エマ…?」
数百体の人形を自ら設計開発したので、流石に全員分詳細に覚えていないが、きっと彼女の綺麗に拭いてあげれば本来の姿も思い出せるだろう。
「エマは人形…エマは人形…」
更衣室まで彼女を連れていくと、優しく彼女の服を脱がせていく。汚れているが、生地はしっかりとしており、洗えばまだ着れると思うので魔法で綺麗に洗浄しておく。
その間に再びエマを抱き上げ、浴室へと入る。備え付けの椅子に彼女を座らせ、その間に魔法で浴槽の水を少し取り出し、水球を作り出し、彼女の身体を包み込む。水球をうまく操作して水球内に水流を作り出し、彼女の身体を傷つけないようにしつつ、身体の汚れをまずは軽く洗い流す。備え付けの生活用品の中に石鹸があったので、石鹸も水球の中に入れて彼女の身体を洗っていく。なんだか人形洗濯機みたいだなと思いつつ、水球内の温度を少しずつ調節しながら彼女の身体を綺麗にしていった。
「こんなものか」
水球がかなり汚れてきたので、石鹸を一旦取り出し、水球をエマの身体から離してそのまま浴室の排水溝に捨てる。再び浴槽から水球を作り出し、軽く彼女の身体についた石鹸を流す。再び新しい水球を浴槽から取り出し、今度は彼女の目につかないように髪の毛を包んでいく。こちらも同様石鹸を水球に入れ、エマの髪の毛を優しく洗っていく。
【魔法操作の熟練度が上昇しました】
「お?」
そんなアナウンスが脳内で響く。試しに水球の中で手を広げるイメージをすると、水球の中の水の一部が本当に手のような形になった。
「これは便利だな」
魔法でイメージした手でエマの髪の毛を洗っていく。少しへたくそだが、なるべく優しく洗ったつもりだ。こちらも同様、汚れた水は捨て、新しい水球で髪を流し、最後に彼女の顔を洗うことにした。魔法操作の熟練度が上がったので、今度は浴槽から水球では無く手の形をした水の塊を二つ取り出す。そのままその手で石鹸を取り、片手だけ泡立てる。泡立て終えたら、まずは綺麗な水の方の手でエマの顔を撫でるように優しく濡らし、泡立てた方の水の手で彼女の顔を洗っていく。なるべく眼や鼻、口には入らないように、しかし丁寧に洗った後、再び綺麗な方の水の手で彼女の顔を洗い流す。
「よし、こんなものか」
かなり肌も血色を取り戻し、彼女の顔も随分と安らぎを取り戻した気がする。浴槽の湯も少ないが、一応彼女を湯に浸からせる。
鎖骨あたりまで使う余裕はあったので、ほっと一息しながら、浴槽に浸かる彼女を見守る事にした。
「…なんか暑いな」
エマの名前を自分の設定した人形達から必死に思い出そうと考えて事をしていたら、なんだか浴室が異様に黙々してきた。
「加熱しすぎた?そんなはずは…」
手で水蒸気を払い、浴槽の中に居るエマに手を伸ばそうとすると、誰かに手を引っ張られて、そのまま浴槽の中へ頭から入ってしまった。
「…ぶはっ!」
急いで頭を上げると、目の前にはすっかり人間らしさを取り戻したエマがいた。
「…マスター?」
「マスター…?俺か?」
「はい、マスター」
「そんな設定あったかな?」




