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2-26話:私に教えて




破格の安さを誇る洋服屋であるUBの店内から出て、私はマグナダルドと言うハンバーガー専門店に来ていた。マグナダルドの店内はUB同様に色とりどりの装飾がされており、商品のポスターが目立つ。若者向けといわれるお店は店内を派手にする傾向があるのかもしれない。



「この大きなスマートフォンから注文するのね。タッチパネル、だったかしら?随分とIT化が進んでいるのね。優希くんはチーズバーガーが食べたいのだったわよね。私はどうしようかしら。おすすめはある?」



「ラッキーセットなんてどうです?おもちゃ付いてきますよ。」



「対象年齢12歳ほどの物を欲しがったりなんてしないわ。子供扱いしないで頂戴。」



「じゃあ俺はラッキーセットのチーズバーガーにしますね。」



「そう。私は……、そうね。私もチーズバーガー頼もうかしら。前菜付きが良いわ。」



油っこいハンバーガーには胃に準備体操をさせる為の前菜が必須。アメリゴ連邦スタイルのお店だということは、前菜はピクルスだろう。



「前菜?とりあえずセットメニューにしておきますね。」



疑問符を浮かべた後に、彼はタッチパネルを慣れた手つきで操作して、ラッキーセットと書かれたボタンをタッチし、目にも留まらぬ速さで注文する。



「サイドメニュー、じゃなくて、前菜はどれにしますか?」



「そうね。前菜、ではなくてサイドメニューは……、チキンマグナゲットとは何かしら?」



「揚げ鶏ですよ。ソース付けて食べるんです。」



「ハンバーガーと揚げ鶏を一緒に食べるだなんて随分とハイカロリーね。サラダをお願いするわ。」



「りょーかいです。」



再び慣れた手つきでサラダ付きのラッキーセットとチキンマグナゲットを注文し、お会計と書かれたボタンを押す。



「ここは私が……、ごめんなさい。私、今お財布を持っていないわ。後で払うからツケでお願い。」



「ここは俺が奢りますよ。マグナくらい奢らせてください。」



「では大人しく、甘えさせて貰うわね。」



28と書かれたプラスチックの立て札を取り、店内のアルミ製の骨組みにクッションを付けた椅子に座る。



「そういや二条先輩って普段何処で飯食べてるんです?」



「生徒会室よ。」



「じゃあ生徒会室行けば何時でも会えるわけですね。」



「そうね。私は授業の時以外は生徒会室にいるのだから、私に用がある時は教室か生徒会室に来ると良いわ。」



「そうしてみます。」



他愛のない会話をしているうちに頼んだ品物を持って店員さんが来た。どうやら立て札の数字を目印に店員さんが運んでくるみたいだ。



「いただきます。」



手を合わせていただきます、と声にする私を真似して、優希君も手を合わせる。普段から手を合わせてから食べるタイプではないのか、少したどたどしい。



ハンバーガーを包んだ包装紙を解き、かぶりついて味わう。



正直に言って、あまり良い味だとは思えなかった。パンの食感がパティと呼ばれているハンバーガーのハンバーグ部分を邪魔している。パティ自体は肉感が弱く、胡椒が効きすぎているせいであまり味を感じられない。チーズバーガーとの名を冠しているのに、チーズの味がしない。見た目を良くするために黄色を足したとしか思えない。全体的にネチョネチョした、食べられなくもない味と言える。



もし生徒会室でひとり食べていたら、一口だけ食べて他は残していただろう。



しかし、今は何故か今まで食べたどんな食事よりも美味しく感じられる。理由はきっと、目の前にいる彼と同じものを食べているから。そして外食という行為を、ふたりで共有しているため。



食事は何を食べるかではなく誰と食べるかだ、という言葉がある。正しくその通りだ。気心の知れた相手と食べる料理が美味しいだなんて簡単なことを、今までずっと忘れていた。



「美味しいわね。」



「そうですよね!良かった口にあって。結衣先輩A5ランクの肉しか食べてないイメージだったんで心配でした。」



「確かにそのイメージはあっているのだけど、ジャンクフードくらい私も食べるわ。」



「えっ、そうなんです?何食べるんですか?」



「……食パンよ。」



「食パンは決してジャンクなフードではないです。」



「そう。」



自然と笑みがこぼれる。



「ジャンクなフード、これからも沢山教えてくれる?」



「もちろんですよ。次はピザ行きましょう。しかも食べ放題の。」



「食べ放題ってあれよね?作って一時間した惣菜を食べさせられるあの食べ放題よね?」



「食べ放題になんてイメージ持ってるんですか。親睦会のビュッフェと同じですよ。」



白けた目で私を見た後に、慣れた手つきで切り込みからプラスチック袋を破ってラッキーセットのおもちゃを取り出す。中にはミサンガのような紐状のアクセサリーがふたつ入ってあった。



「アクセサリーかしら?」



「アクセサリーですね。ひとついります?」



「……貴方からのプレゼントだし、貰おうかしら。」



化学繊維で出来た紐のブレスレットを受け取り、腕に通す。先程UBで買ったカジュアルなアニメTシャツが紐のブレスレットのチープさを濁してくれる。



「せっかくですし、魔術織り込みますか。」



「魔術を、織り込む?」



「練った魔力を物にエンチャントするんです。魔法陣に近いですね。これすると魔石無しで魔道具を作れるんです。」



「そう。その、エンチャントというのがよくわからないのだけれど、魔石無しで魔道具を作れるのは凄いわね。万能じゃない。」



「万能ではないですよ。一週間経ったら魔道具としての機能を失っちゃいますので。」



「永遠に使えるのであれば今頃覇権技術よね。そんな技術知れ渡ってるでしょうし。そもそも優希くんはどこでその魔術を知ったのかしら?」



「えっとー、教会の古い文献に載っていました。」



彼の知識の大凡はニンホア教の教会にある古い文献だ。古い歴史のある宗教なだけあって多くの技術を持ち、秘匿しているのかもしれない。彼はボソボソと魔術の呪文らしき言葉を唱え、かすかに光る指先で彼の手にある紐のアクセサリーをなぞる。その後、「ちょっと触りますね。」と私の腕に通した紐のアクセサリーを触った。



「この魔術の掛かったアクセサリーは何ができるの?」



「念話が出来ます。」



「念話というのは脳内で語りかけるあの念話よね?スマホで良いのではないかしら?モンスターパニックのときは無線機も配られるのに、何故念話が必要なのよ。」



「一瞬で会話ができるというのは結構便利なんですよ。戦闘の時ってわざわざスマホ操作できるほどの時間はないじゃないですか。その時使うんです。それに、声を出さないで話ができるって案外便利ですしね。まっ、ラッキーセットでおもちゃ貰ったついでですよ。よかったら使ってください。」



「そうなのね。なら有り難く使わせてもらうわ。ありがとう。大事にするわね。」



腕に通した紐のアクセサリーを撫でながら、私は感謝を口にするのであった。








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