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2-17話:吐息と恋バナ




おやすみと言って瞳を閉じてから1時間が経った。虚無の時間がずっと続いているというのに、未だ意識が睡眠へと落ちる気配がない。同じ布団で背を向けて寝ている結衣先輩が気になって仕方ないのだ。



何時まで経っても寝れる気がしないため、布団を出ようと軽く身体を起こした。



「あまり動かないで頂戴。眠れないわ。」



「布団に出たいだけですから勘弁してください。」



「布団の外で寝るつもりでしょう?駄目よ。」



「お手洗い行きたいだけですから。」



「ならば漏らしなさい。私が綺麗に拭いてあげるから。」



「赤ちゃんプレイに興味はありませんよ。それに濡れた布団はどうすればいいんですか。」



「私が漏らしたことにすればいいじゃない。」



「それは意味合いが変わります。俺が結衣先輩のお父さんに殺されますって。」



結衣先輩のあまりにも理不尽な提案により布団からの脱出を阻止された為、目を再び瞑り眠りを促す。やはり眠れない。背中に当たっている結衣先輩の背中らしき温もりが気になって仕方ないのだ。



「優希くんって、本当に手を出さないのね。」



「まぁ信頼されていますからね。裏切る訳にはいきませんよ。」



「出していいって言っているのに?」



「はい。恋人になってない人とはしないので。逆に結衣先輩はなんでそんなに誘ってくれてるんですか?」



「……なんでかしらね?きっと何となく、その方が良いと思ってるからよ。」



第六感に自分の人生を捧げるのは気が狂っているとしか言い様がない。きっと俺が手を出してこないだろうと踏んでチキンレースをしているのだろう。



「俺の事好きなんですか?」



「さぁ?どうかしら。少なからず友人だとは思っているわよ。」



結衣先輩らしからぬ意地悪ではない純粋な好意の発言についニヤけてしまう。



「優希くんってどんな女性が好みなのかしら?」



「俺を裏切らない人なら誰でもいいですね。」



「過去に浮気でもされたのね。」



「そんな感じです。」



正確に言うなら浮気ではなく裏切りだ。魔王の手先による色仕掛けはもちろんのこと、貴族や王族の娘から権力欲しさに距離を縮めてきたり、金銭欲しさに親密な関係になれるよう好意を演じたりなんかも多々あった。いざ付き合ってみたら本当の婚約者がいましただなんて話はしょっちゅうだ。



そんな経験を繰り返していくうちに、俺は女性を信じられなくなってしまった。友人として女性と仲良くなることは出来るが、恋仲になるのは躊躇してしまう。



「それ以外なら、どんな女性が好き?例えば、歳上の先輩とか。」



「ふたつ年上で黒髪ロングでお金持ちな逆玉清楚美人が良いですね。胸が大きいと最高です。」



「私の事じゃない。適当なことを言うのはやめなさい。」



「美人って自覚はあるんですね。」



「自分の容姿の良さくらい嫌でも気付くわ。周りの反応が他の人と違うもの。気付かない方がおかしいわ。」



「それもそうですね。」



この状況に慣れ始めたからか、眠気が俺を襲う。睡魔がまぶたを重くさせ、意識が薄くなり始めた。だが、その睡眠を邪魔する音が聞こえた。彼女が体勢を変えたのだ。布のこすれた音が俺の鼓膜を擽った。



「そのー、結衣先輩はどんな人が好きなんですか?」



気まずさを感じ、俺から話題を出してみる。



「そうね。優しい人かしら。」



背中越しではなく自分の耳元から聞こえてくる声につい驚く。吐息が俺の耳を触った気がした。



「なんて無難な回答。他には?」



「かっこいい人よ。」



「なんて馬鹿正直な回答。」



あまりにも欲望に正直なセリフが結衣先輩から出るとは思わなかったため、完全に目が冷めてしまった。知的な人や文学を嗜む人などが出てくると思っていたため、直球な不意打ちに頭が対応出来す笑みをこぼしてしまう。



「俺はイケメンじゃないので結衣先輩の恋愛対象には当てはまらなさそうですね。」



「人の魅力は顔だけじゃないわ。自信を持ちなさい。」



「そこは否定してほしかったのですがね。」



俺は自分で言ったようにイケメンではないが、慰められるほど酷い顔はしていない筈だ。勇者としての肖像画は多少盛られる程度だったのだから問題ない範疇。銅像は別人かってくらい美化されていたが、銅像とはそう言うものだと納得している。



一緒に銅像画を作られた仲間は忠実に再現されていた件は考えないことにした。



「貴方って鈍感なのね。おやすみなさい。」



「えっ、あっ、はい。おやすみなさい。」



気になるフレーズを残して対話拒否のおやすみなさいを放つ彼女を真横に俺も瞳を閉じる。



俺は鈍感ではないはずだ。アリサ先輩からの好意はなんとなく気づいていたし、多分結衣先輩は俺のことが好きなはず。マギーは俺のこと師匠として慕ってくれているに違いない。ちなみにジェヘラは対象外だ。



そう、つまり俺は鈍感ではない。



鈍感系難聴主人公ではないのだ。



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