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第八話:敵は誰だ

 とりあえず、魔術の実験は切り上げて村長宅へ戻った。

 あの少女は何しに来たのか。まず誰なのか。それらの疑問は残るが、これから調べれば良いだろう。


 そして、朝になる。外は生憎の雨だ。


「クソが。あんまり寝付けなかったぞ」


 寝起きというのは、どうも気性が荒くなる。中途半端に寝たのだから尚更だ。


 と、いうのも、やはり心配事を抱えたまま熟睡することが難しかった。昨日の飯は豪華だったが口に合わなかったし、ベッドに入ったら何故か身体中が痒くなる。


 医療も発達してるように見えない。文化レベルも低い。モンスターが闊歩している。いつ命を落としてもおかしくない。こんな世界に来て安心して眠る高校生はいない。


 すると、部屋のドアが開かれる。入ってきたのは村長のようだ。


「おはようございます。昨日はよく休めましたかな?」

「まぁ……はい」

「それはよかった」


 モーニングコールって奴だな。ただの若造相手にご苦労なこった。


「そろそろ朝食が出来上がる時間ですが……その前に、お聞かせ願いたいことが」

「なんですか?」

「昨晩、祟り神の像の近くに行ったそうですね。事実ですか?」

「え、えぇ……誰から聞いたんですか?」

「私の友人の娘ですよ。シャリィと言う、とても可愛らしい子です」


 昨日会ったあの子のことか? それ以外には考えられない。


「そんなことは良いのです。私から言いたいことは一つ。あの像には近づかない方がいいですよ」

「……なぜ?」


 不吉な像であることは分かるが、そこまでなのか?


「……あの像は、不吉ですからね。近づくと、きっと良くないことが起こります。龍神様の神聖なお体が穢れて欲しくないのです」


 では朝食で、と言って村長は部屋を出た。

 どうもあの村長は、何か知っているように思えてならない。像に近づくな、と強く言う割には、理由が曖昧すぎる。


 考え事をしながら朝食の席につく。昨日は10人近くの人間が晩餐を楽しんでいたが、今日は村長と俺ともう一人、痩せ型で40歳ぐらいのおばちゃんだけだ。


「こちらの女性は?」

「あぁ、我が家に住み込みで働いている、言わば家政婦のようなものです」

「龍神様、恐れ多くも……」

「あ、はい。分かりました」


 また長ったらしい口上を述べられて崇められるのは御免だ。


 昨日と同じく、見た目は豪華に見える料理の数々。だが、まずい。生焼けとか、焦げてるとか、そんなことは無い。ただ、味が合わない。異世界人の味覚ってどうなってんだ。


 朝食を済ませた俺は、気になることがあった。村長は自室に戻ったようだ。台所で、家政婦が家事をしているので話を聞こうと思った。


「あの、すいません」

「あら、これは龍神様!いかがなさいましたか?」

「いえ、少し世間話でもどうですか?みたいな……」

「龍神様と世間話とは、なんと恐れ多いことか!」

「あ、いえ、やはり自分が守っている村のことは、少しでも多く知っておきたいので」

「感激でございます!何でもお聞きください!」


 龍神、ホントに便利な設定だな。


「いやいや、世間話をするだけですよ……はい」


 この人に話しかけた理由は一つ。

 それは、情報が欲しいからだ。この村の異質な雰囲気をどうにかして納得したい。


 とは言ったものの。いかにして話を切りだそう。とりあえず、自分に関わるかもしれない人間の情報を集めるか。


「そ、村長さんは……奥様はいらっしゃるのですか?」

「村長……?あぁ、もしかしてレイモンさんのことでしょうか」


 村長は、レイモンという名前のようだ。そういえば、ここにきてから自分から名前を名乗る人物に会ったことがないな。この世界の文化なのだろうか。


「あの人の奥様は……現在行方不明なのです」

「……」


 最悪だ。最初からこれだよ。俺の話題選びセンスがここまでクソだったとは。

 しかし、行方不明か。少し掘り下げて聞いてみよう。この世界の危険な要素を知っておきたい。


「す、すいません……行方不明、ということは、亡くなってないんですか?」

「いえ、分からないのです。盗賊に攫われたとしたら、奥様一人を狙う理由がありません。奥様は村から離れることはほとんどありませんでしたし、この村には他に若い女もいます」

「なるほど……」

「死体は見つかっていないのですが、きっともう……」


 そうだ。この世界は異常なんだ。どんな危険が潜んでいるか分かったものじゃない。


「盗賊でも無いとすれば、一体何者が?」

「この村で奥様に恨みを持っていた誰かに殺された……奥様は気性が穏やかで誰からも好かれる人でしたが、もしかしたら何処かで恨みを買っていたのかもしれません」


 な……なんだと!? くそっ、こんな殺人鬼のいる村なんかに居られるか!俺は先に逃げるぜ!


 そんな死亡フラグじみた考えが自然と出てくるぐらいに俺は恐怖していた。

 シャリィ……だったか?彼女にも普通の人間であることがバレていたし、ここまで目立ってしまったからには俺も命を狙われるかもしれない。


 だからと言って、この村を出て宛てはあるのか?他の場所でドラゴンを信仰するのは一般的ではないようだし、モンスターを引き連れたヤバい奴として追われることとなるかもしれない。


 俺がやるべきことは決まった。情報を集め、どウにカシて脅威を排除シナけレバ。


 そのときの俺の思考は、明らかに自分を守ろうとするがために利己的になっていた。どうかしていたのだ。狂気に呑まれていたとすら思う。

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