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第十四話:忌まわしき狩人

 祟り神の像に体を向けながら、村長は何かを呟いていた。口の中でもごもごと話している感じだったので、俺には聞こえない。しかし、随分と熱中しているようだ。


「……! こ、これはこれは、龍神様! 失礼いたしました!」


「ッ!だから俺は龍神じゃ……」


「いいえ! 貴女様は紛うことなき龍神様の化身だ!やはり化身として龍神様に生み出されたことにお気づきになられてないのですね……あの預言者の言った通りだ!」


 明らかにおかしい。だが、到底逃げる事は出来なさそうな執念とプレッシャーを感じた。今逃げれば、後ろから全力で追われることが予想できる。話が通じるかは分からないが、とりあえず穏やかに話を進めよう。


「……この像に近づかないように言ったのは貴方ですよね? 今ここに俺を呼び出したのに、なぜあんなことを?」


「あぁ!申し訳ございません! 申し訳ございません!どうか怒りをお沈めください!あの時の私は自身の愚かさ故に、貴方様の存在を疑ってしまったのです!」


 やばい。足が震えてきた。村長から、あの女、シャリィと似た何かを感じる。


「前にこの村を訪れた、黒い預言者に言われたことを今でも鮮明に覚えております……」




『いずれこの村に降臨する龍神は、信者への慈悲深い心より、君たちと交流しようとする。そのために人間と同じ感情、同じ能力、同じ体を持った化身を引き連れるだろう。化身を疑ってはならない。化身は、貴方達を試している。龍神は、祟り神を滅ぼせる唯一の存在。どんなに取り繕っても、龍神は化身を通じて全て見透かす。信仰への疑いは、龍神の機嫌を損ねる。下手を打てば、この村を守ることは無くなるだろう』




「化身様、私が僅かな疑いを貴方様に向けていたのは事実でございます。どうか、お許しください! 信仰への疑いを持った者は、私だけなのです! この村の皆は、貴方様への信仰を疑ったことは一度もございません!どうか、どうか、忌まわしき祟り神を滅ぼしてください!」


「う、うわぁぁぁ!」


 後ずさった拍子に、地面に尻餅をつく。足元まで這ってきた村長は、目の前に這い蹲る。そして、なんども頭を地面に打ち付けて叫び始める。


 この異世界に飛ばされて、異常な盲信の恐ろしさはかなり味わったつもりだ。もしかすると、よくある異世界から召喚された勇者って奴もこんな気持ちだったのだろうか。いや、出来ることをやらされるのと出来もしないことやらされるのでは訳が違う。今すぐにこの場から逃げ出してしまいたい。


「は、はははは!!!祟り神よ!!我らが守護神、龍神様が貴様を滅する時が来た!!私が生贄だ!!これから私を殺す貴様は、この龍神様に殺されるのだ!!この村は、脅威に恐れる必要はない!!龍神様!!龍神様!!もう、我々には龍神様しかおりません!!どうか、どうかぁぁぁぁぁぁ! あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 血走った目をした村長は、その場で悶えながら発狂する。打ち上げられた魚のように、跳ねまわりながら奇声を上げる。


 異常な状況を見て、混乱してどうしたらいいか分からなくなる。何かを言おうにも、何を言ったらいいか分からない。


 固まって動けない俺を前に、村長の奇声が規則性を帯びはじめる。そしてそれは、意味は分からないがおそらく意味のある言葉を叫び始める。


「くとぅるふ・ふたぐん! にゃるらとてっぷ・つがー! にゃるらとてっぷ・つがー! くとぅるふ・ふたぐん! んが・にむるすとぅん! にゃる・がしゃんな! ふがぬるむ!!」


 ボロボロになりながら、血走った目で体を地面に打ち付ける。そして、懐からナイフを取り出して自らの腹に突き刺し絶叫する。


 俺は、悍ましい光景を前にひたすら立ちすくむ。

 そのとき、背後から影が飛び出して村長に纏わり付いた。


「レイモンさん!!落ち着いてください!!正気に戻ってください!!」


「な……! お前、 付いて来てたのかよ……!」


「レイモンさん!!レイモンさん!!」


 飛び出してきたのはあのイカレ女、シャリィであった。俺に見向きもせず、村長に組みついて必死にその行動を止めようとする。


 さっきから唖然として見ているだけの俺だが、実は意外と冷静かもしれない。狂気に飲まれて固まっているわけではなく、俺が動いても何も変わらない、という感じがしていたからだ。

 そうした意外と冷静な頭で考えると、今の村長に比べてあの女が相対的に常人に思えた。


「にゃる・がしゃんな!にゃるらとてっぷ・つがー!あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 村長が自分の腹のナイフを勢いよく引き抜き、大量の鮮血が宙を舞う。


 瞬間、空から垂直に落ちてきたナニカが、村長の頭を攫っていった。首から上を失った身体は、噴水のように血を噴出した後に地面に倒れ込む。

 シャリィはそんな村長の死体を見て絶望の表情を浮かべたあと、後ろを振り返った。そして、顔を憎悪と恐怖に染めた。

 唖然としながらシャリィの肩越しに見える存在に焦点を合わせた……いや、合わせてしまった俺は、本当に運に乏しい男だろう。



 そこにいたのは、黒く巨大な蛇。だが、口の周りに生えた大量の鎌や、イカの口のような牙を見るに、この世のありとあらゆる生物を狩るために生まれてきたかの様な印象を与える。なんとも悍ましく、忌まわしい。

 そしてその姿は、ソレの背後にある祟り神の像と酷似していた。


 見た目のイメージをそのまま名前にするなら……そうだな。




 【忌まわしき狩人】と言った所だろう。

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