会談
会談当日――。
会談場所に指定された国境付近の会場へ、先に到着していたのはアストレオン側であった。
今回、アストレオンが代表として送り出した人物はルディアであった。
彼は前線の指揮官であると同時に、高度な外交手腕を併せ持つ人物であり、実質的に全権大使としての役目を兼任していた。
静かに待つルディアのもとへ、少し遅れて新たな指導者フラン・ドルーズが到着する。
こうして、両国の未来を左右する会談が幕を開けた。
最初に口を開いたのは、イヴリス側のフランであった。
「……ある条件を確実に実行してくれるのであれば、併合という申し出を呑むつもりだ」
(……ある条件、か。まあ、演説で語っていたあの内容だろうな)
ルディアはしばし沈黙を守っていたが、静かに言葉を返した。
「……フラン・ドルーズ。その条件とは、民が豊かで余裕のある生活を送らせること、だな?」
「ええ、その通りですよ。……ああ、敬称は不要だ。フランで構わない」
イヴリス側が提示された受諾条件を大枠で呑む姿勢を示したことで、交渉は順調に進むかに見えた。
しかし――たった一つの項目に対してのみ、フランは明確な拒絶を示したのである。
それは、イヴリスが産出する「資源」に関する要求であった。
「我々アストレオンは現在、約2万隻もの軍艦を保有している。通常であれば、これほどの規模を建造し終える前に資源が底を突くはずだが……」
「だろうな……それほどの艦隊を揃えれば、即座に資源は枯渇する。だが、お前たちにはなぜか、まだ余裕があるように見える」
フランは解せないといった様子で首を傾げた。
「単に枯渇していないだけだ、フラン。我々はとある技術を用いて、資源消費を従来の十分の一に抑えている。……だが、それでも2万隻の建造で限界だった。現在、修理や弾薬の補給に回す資源が深刻に不足しているのが現状なのだ」
ルディアは自国の内情を包み隠さず明かした上で、いよいよ本題へと踏み込んだ。
「そこで本題だ。イヴリスが産出している資源のうち、約7割を我が国へ提供していただきたい。……よろしいかな?」
だが、その強烈な要請を、フランが素直に首を縦に振るはずもなかった。
「……さすがにそれは承諾しかねる! 産出資源の7割も提出してしまえば、我が国の民の生活に甚大な影響が出かねん!」
「……!」
「我々が出せる限界は、4割までだ」
断固としたフランの返答を受け、ルディアは瞳の奥で思考を巡らせる。
(……イヴリスには豊富な鉱山が数多く存在する。だからこそ、交渉の糸口として7割と吹きかけてみたが……やはり拒絶されたか。まあ、想定内ではある)
(提示されたのは4割。……5割まで引き上げられれば御の字だが、どう交渉を結ぶか……)
数秒の長考の末、ルディアは切り出した。
「……無理を承知で頼む。4割から『5割』へ引き上げることはできないだろうか?」
「いや、4割が限界だ」
「ただ引き上げろと言っているわけではない。こちらから新たな提案がある。……そちらにとっても、決して悪い話ではないはずだ」
「ほう……。一応、聞いてみようではないか」
「感謝する、フラン。提案は2つある」
ルディアは指を1本立てた。
「1つ目。イヴリス国内における軍需工場および民需工場の建設費用を我が国が持ち、さらにその後の運営と管理を一任する」
「……なるほど。大量の雇用を生み出すだけでなく、完成後の実権までこちらに委ねるというわけか」
フランは目を細め、ルディアを見つめた。
「それにしても、管理を一任とは……ルディアよ、我々を信用しすぎなのではないか?」
「……悪用などをすれば、その後どうなるかくらいは分かっているのだろう? フラン」
何を当たり前のことを聞くのだ、とでも言いたげにルディアは小さく首をかしげた。
その底知れぬ威圧感に、フランは思わず破顔する。
「あっははは! 今の質問は忘れてくれ。……それで、もう1つの提案とは?」
「もう1つは、陸軍関連だ」
「陸軍……具体的な内容は?」
「いくつかある。各種装備の自動化技術の研究、長距離ミサイルの開発、そしてイヴリス軍を『陸軍の主力』として再編・位置づけることだ。開発に関しては、アストレオンと旧イヴリスによる共同開発という形をとる。……これでどうだろうか?」
(ふむ……悪くない話だ。軍需・民需工場の建設によって、数多くの民が職にありつけるようになる)
(そして共同開発か。これはイヴリスにとって大きなメリットだ。もっとも、私個人の私欲を満たすものではないがな)
フランはさらにルディアの意図を深く読み解いていく。
(そして、アストレオン陸軍の主力に据えるという話……。アストレオンは人口という点において、他国よりも圧倒的に少ない。だからこそ自動化技術の研究に力を注いでいるのだろう。だが、それでも不足分を補いきれないと判断したのだ)
国の未来、民の生活、そして提示された利害――すべてを天秤かけたフランは、静かに答えを出した。
「……その提案を受け入れるのであれば、提供量を『5割』まで引き上げよう」
「本当か……!」
かくして交わされた条約により、イヴリスはアストレオンの一部として併合された。
この併合によってアストレオンは強大な陸軍戦力を手に入れ、陸軍・宇宙軍の双方において、ウラニア領域における誰もが無視できない大国へと躍進を遂げたのであった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
もしこの物語が「面白い」「続きが気になる」と感じていただけましたら、ぜひブックマーク・評価をしていただけると嬉しいです。
あなたの応援が、次の話を書く大きな励みになります。




