幹部たちの決断
烏龍軍団の創設が電撃的に決定した直後。アストレオンの中央本部執務室には、緊迫した面持ちの主要幹部たちが緊急招集されていた。
円卓のすべての席が埋まったのを確認し、サーモンが重々しく口を開く。
「さて、本題に入る前に、皆に一つ重要な報告がある。先ほど集結した二百万人のプレイヤーの代表である烏龍さんが、正式に我がアストレオンへ加入することになった。今後は軍事部門の最高幹部の一人として動いてもらう」
その言葉に、セラ・フェルクリア、ジン・ハイラル、ノクター・ヴェインら、室内にいた六人の幹部たちが、驚きつつも温かい歓迎の拍手を送った。烏龍は静かに一礼し、用意された自席へと着く。
「では、本日の深刻な議題だ。ウラニア星系外縁に突如として出現した、例の『未知の巨大宇宙軍艦』への対応について具体的に話し合いたい」
サーモンがそう切り出すと、会議室の中に知る者と知らない者の間で、微かな視線の交錯が生まれた。
怪訝な顔をしたマリア・エストレーヤがすっと手を挙げた。
「すまない、サーモン。先ほどの報告でも少し耳にしたのだが……その『未知の怪物』の背景にある噂がどういうものか、私たちにはいまいちピンと来ないのだ。詳しく説明してもらえるだろうか?」
マリアの言葉に、セラやヘパイストスの代表であるエールも、全く同意見だとばかりに深く頷く。サーモンは小さく息を吐いて説明を始めた。
「説明がまだだったね。ネット都市伝説――いわゆるオカルト怪談の領域では、既存の科学では説明のつかない異常な性質を持った物品や空間、怪物の総称を『ロスト・コード』などと呼んで分類する文化があるんだ。分かりやすい例で言うと、物理法則を完全に無視したり、現実そのものを強引に改変してしまったりするような、理外の代物のことだよ」
「なるほど……。つまり、私たちが培ってきた常識や、まともな軍事手段が一切通じない、相当にヤバいオカルトじみた代物ということだな」
マリアは顔を微かに青ざめさせ、セラやエールも表情を硬くこわばらせた。サーモンはさらに言葉を続ける。
「その概要が分かってもらえたところで、問題の『コード:2399』について説明するよ。……ネット都市伝説のプロットによれば、それは本来、遙か遠い外宇宙の『深淵セクター』に由来する、正体不明の知的生命体が製造したと目される超巨大な自律宇宙軍艦なんだ」
それを聞いたセラが、さらに理解を深めようと身を乗り出して質問を挟む。
「宇宙軍艦……。つまり、私たちの想像も及ばないような遙か遠方の異星人文明が作った決戦兵器、ということかしら?」
サーモンは少し困ったように眉を下げ、苦笑いを浮かべた。
「うーん、実はそのネット怪談の中でも、作った存在の正体は完全に不明とされているんだ。判明している設定は、数千年前からその物体が、星系外の未知の座標へ向けて超長波の不可解な暗号信号を送り続けている、ということだけ。だから高度文明というのはあくまで怪談内での憶測に過ぎない。けれど、通信を行っている以上、それを受信している『恐るべき何か』が外宇宙にいるのは確かだ、と語られているね」
「相手の正体は分からない、と……。じゃあ、そのコード:2399自体の具体的な性能はどう設定されているの?」
「都市伝説内で確認されているのは、周囲の浮遊物質を強制吸収してエネルギーに換える自己循環炉、あらゆる実体弾や光学兵器を無効化する高密度フェイズシールド、アンド物質の分子結合を寸断する崩壊光線だ。さらに、自己修復を司るナノマシンセルが無限に増殖し続ける。文字通りの怪物だよ。ただ、理論上は『高エネルギーの特殊な磁気嵐』に対してのみ、システムの修復機能が一時的にエラーを起こして脆弱になる可能性が指摘されている」
「なによそれ、完全なチートじゃない! ……でも、磁気嵐が効くかもしれないって弱点が分かっただけでも、少しはマシね」
セラが小さく溜息を吐き出すのを見届け、サーモンは会議の参加者全員を鋭い視線で見回した。
「さて、前提の説明はここまでにして、アストレオンとしての現実的な対応を決めよう。幸いなことに、ウラニア外縁に現れた『都市伝説に酷似したあの軍艦』は、中央評議会の緊急迎撃艦隊に対して、積極的な敵対行動は起こしていないようだと報告が入っている」
すると、それまで静かに思考を巡らせていたセラが、一つの提案を口にした。
「だったら、まずはその軍艦に向けて、こちらから応答を試みてみたらどうかしら? 私たちの通信言語を解析して回線を出力することくらい、あっちのオーバーテクノロジーなら容易だと思うけれど」
サーモンを含め、ジンやノクターたち幹部陣は一瞬、深く考える仕草を見せた。交わされる無言の視線。やがて、サーモンが覚悟を決めたように深く頷く。
「……リスクは極めて高いが、通信可能な有効範囲に入り次第、ファーストコンタクトを試みるとしよう。ただし、万が一にも相手に敵対された場合は、我々は抵抗すらできずに一瞬で殲滅される。その最悪の覚悟だけは全員、腹に括っておいてくれ」
皆に強い警戒を促したサーモンだったが――彼らはまだ、本当の真実を知らなかった。
あの第5惑星を割って現れた『鋼の怪物』が目覚めた瞬間、真っ先にアストレオンを『我が主』と認証していたという決定的な事実を。
そのシステムの深層を裏から強引に書き換え、アストレオンの味方となるように仕向けた“何者か”の不気味な存在を……。
張り詰めた空気が漂う中、アストレオンの新たなる運命を決める方針が、静かに決定された。
――次回へ続く。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
もしこの物語が「面白い」「続きが気になる」と感じていただけましたら、ぜひブックマーク・評価をしていただけると嬉しいです。
あなたの応援が、次の話を書く大きな励みになります。




