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怪異に乙女とチェーンソー  作者: 重弘 茉莉
見える見えない
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第13章-1 見える見えない

これまでの主要な登場人物

奏矢そうやジュリ

大型チェーンソーを振り回し、怪異を狩り続ける。一家で怪異狩りの依頼を請け負っているが、休みの日が潰されることを非常に嫌がる。

都内の理系大学に通っており、専攻は応用生物学科。学年は2年で、20歳。髪型はショートで黒髪。碧眼であり、膝下ぐらいの長さのスカートを(怪異狩りのときも)好んで着用する。

愛用のチェーンソーが壊れたため、新しいチェーンソーを購入予定。


奏矢そうやジョン

奏矢そうやジュリの兄で、怪異狩りのときには銃火器を好んで使用する。依頼の時には、妹とともに向かうことが多い。身長178センチで体重は89キロ。髪型はツーブロックで、妹とは違い黒目、黒髪である。怪異狩りのときには、軍用の分厚いジャケットを着込む。

現在年齢は25歳で、日々修行と食い扶持を稼ぐために家業に邁進している。

最近、銃の改造だけではなく、弾丸にも特殊な細工をしようと研究している。


横溝よこみぞ 雅司まさし

『第3章 ガンプと呼ばれた怪物』にて、事件に巻き込まれてジュリに救われる。大学2年生で、20歳。ジュリとは別の大学に通っており、オカルトは好きだが、無縁の生活を送っていた。

髪型はソフトモヒカンで、身長は172センチ、58キロ。臆病ではあるが、咄嗟の勇気と判断力はそれなりにある。

関連章 ・『第3章 ガンプと呼ばれた怪物』 ・『第4章 水にストーカーされる女』・『第5章 長いトンネル』・『第7章 天国地獄診断機』



清水しみず 明夫あきお

警視庁捜査一課第三特殊捜査係、通称”SIT3”(special investigation team 3)に所属。47歳で妻子持ち。

奏矢兄妹に事件の依頼をすることで、協力体制を取っている。個人としては、奏矢兄妹とは、十年来の知人である。

関連章 ・『第2章 妖精博物館』・『第6章 異世界より』・『第8章 愚者のハーレム』・『第9章 祝福されし仔ら』・『第10章 人家じんか』・『第12章 血濡れの守護天使』・『第13章 見える見えない』



篠生しのう りん

年商58兆円を誇る篠生財閥グループの会長の孫。年齢は27歳。表の顔は建設・電気会社のCEOを兼任している。一方で裏の顔は、「オルハ評議会」と呼ばれる穏健派怪異集団の評議員を勤める。

「第11章 オルハ評議会」にて、”祝福されし仔ら”からとあるものを守るために奏矢兄妹と接触した。

関連章 ・『第11章 オルハ評議会』・『第13章 見える見えない』


・祝福されし仔ら

怪異集団。ジュリとジョンの両親を殺した因縁がある。祝福されし仔らの証として、手を逆さにした形の紋章、そして紋章の下に読めない字が書かれている印章を持っている。

関連章・『第8章 愚者のハーレム』・『第9章 祝福されし仔ら』・『第10章 人家じんか』・『第11章 オルハ評議会』


 辺りには独特な薬品臭が立ち込め、壁は清潔さを表すかのように白を基調としていた。

ここは、明治病院と呼ばれる大学病院。この病院の病床規模は600を超え、9階建ての建物が2つ並んだような構造をしていた。 


 5階のある一室。その部屋には『談話室』とプレートが貼られていた。そこに青いパジャマを着た男が、両手にアイスティーの入った紙コップを手に持ってフラフラと空いている席を物色し始める。

男は文庫本を読んでいた若い女性の隣の席に腰掛ける。


「なあ、あんたこの病院の噂を知ってるかい?」


 パジャマ姿の男は若い女性にそう話しかける。時刻は平日の真っ昼間、辺りには見舞客とその入院患者が疎らにいるだけであった。そして場所は病院の談話室。談話室と言うだけあって備え付けの机とイス、本棚と紙コップ式の自販機が置いてあった

だ机はプラスチック製の元は白かったのが、年月が経って変色しており、部屋の隅に申し訳ないように置かれた本棚には、入院患者の忘れ物なのか疎らに置かれた本が黄ばんで置いてあった。


 イスに腰掛けた男は、寝間着姿で傍らに座っている女性に話しかける。女性は今まで、文庫本に目を落としていたが、男に話しかけられたことで反応する。

女性は今まで手に持っていた文庫本にピンクのしおりを挟むと、青縁の眼鏡を外す。


「知らないって顔をしているな。なら、少し話そうか」


 若い女性は嫌な顔をしたが、男はそんなことを気にも止めずにゆっくりと、静かな声で話し始めた。


――まあ、話自体は良くあるもんさ。

若い看護婦と若い患者の恋愛ってやつだ。その患者ってのは、癌だかなんだかで余命あと僅かな状態だったらしい。

それで若い看護婦は毎日毎日、その患者の元に通っていたんだと。まあ、周りからは面倒見の良い看護婦さんが、患者を励ましているとでも見られたんだろうな。なんとか周りからは上手いこと2人の関係を隠していたらしい。


 そうやってつかの間の幸せを楽しんでいた2人だったか、そんなことは長続きするはずなんてなかった。

段々と、患者の体調が悪くなっていったんだ。最初は、健康な時と同じように動けていた体は、少しずつ動けなくなっていき、食事もまともに喉を通らなくなっていったんだ。


『……一緒に死なない?』


 そんなことをどっちが言い出したんだか。瀕死の患者か、それを見かねた看護婦か。とにかく、どっちかが提案をして、もう片方がそれを受け入れたんだ。つまり、2人は心中をして、来世も一緒に生きたいと考えたのさ。

……今じゃ厳重に管理されているような劇薬も、当時はわりかし簡単に持ち出せたらしい。そして、2人同時にその劇薬を飲み込んだんだ。

結果は、まあ良くある話。患者は死に、看護婦だけが生き残ったんだ。看護婦は、自分だけが生き残ったことに相当ショックを受けて、泣きわめいて錯乱したらしい。


 だが、看護婦は警察に通報されなかった。ここは大病院だろう?。看護婦が患者を殺したなんて言ったら、大スキャンダルさ。だから、病院はこのことを隠蔽したんだ。

患者の医療記録を改ざんし、スタッフの口裏を合わせて、看護婦を”精神異常者”として病院内に閉じ込めてな。


 そこからは、もうなるようになるだけさ。事件は闇に葬られ……そして残された看護婦は本当に狂っちまった。

しばらくは、まあ”普通”だった。狂った女がただ1人居るだけだった。


 おかしな話はここからだ。厳重に封印されていたはずの看護婦が突然消えたんだ。まるで、最初から居なかったみたいに。

病院内を隅から隅まで探したんだが、その看護婦が見つかることはなかった。その騒動の中、病室で絶対安静中の入院患者が1人姿を消したんだ。その入院患者も若い男だったとか。


 その患者は、すぐに見つかった。患者はどこにも行っていなかったんだ。病室の天井に設置された、換気扇に押し込まれていたのさ。換気扇から血が滴り、その下に血の染みが広がってようやくそこに”何か”があるって気がついたんだ。

綺麗に折りたたまれた患者の死に顔は、それそれは恐怖に引きつった表情だったらしい。


 それから毎年時期になると、決まって病院で誰かが死ぬらしい。死んだ人間は入院患者だけじゃない。医者、看護婦、見舞客……掃除婦まで。

そしてその日に限って、決まって見慣れない看護婦が被害者の近くに居るのが目撃されているんだ。


 ああ、そうそう。付け加えると時期って言うのは今ぐらいことなんだ。

だから、次の標的はアンタかもしれないぞ?


  ――そう言うと、男は手に持ったアイスティーを一息で飲み干したのだった。

 

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