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怪異に乙女とチェーンソー  作者: 重弘 茉莉
血濡れの守護天使
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第12章-13 血濡れの守護天使

ジュリが宙に舞い、堅いコンクリートに叩きつけられる僅かな時間。ジョンはジュリの方に視線を僅かに送りながらも、体を一切動かさない。

機械の様に標準を定め、ひたすらに弾丸を吐き出し続ける。ジュリの視線も天使に振りほどかれた衝撃で、暗い夜空を仰ぐことになった。そして天使の方は、ジョンの弾丸によって眼球を潰されて、血の涙が頬を伝っていた。


 一瞬、ジュリとジョン、天使の視線がお互いから外れる。その瞬間、天使に向かって突進する男が1人。


「うおおおおおおぉぉぉっぉ!!!!!」


 その男は先ほどまで情けなく尻餅をついていたフランク・ヴァリン。彼はまるで雄牛の様に吼えながら、天使に向かって突撃をする。

天使もフランクの存在に気がついて、すぐさま反応しようとしたがタイミングが悪すぎた。先ほどからジュリとジョンによって傷ついた体、またジュリを振り払うために無理矢理な体勢になり、さらには両の目も潰れて視界もない。普段ならびくともしなかったはずの天使の体が、フランクの決死の突撃によって大きく動かされる。


「ぬうおおおおおおぉぉぉっぉ!!!!!」


 だが、フランクの突進の勢いは天使にぶち当たっても止まることはない。むしろ、加速さえし始めていた。屋上の中央に居た天使の体が、フランクによって端へ端へと追いやられる。

そしてとうとう、天使が屋上の端の端の落下防止用の鉄柵へと勢いよくぶち当たる。だが、そこまでいってもフランクの勢いは止まることはなかった。


「……さようなら、私の天使、セラ」


 フランクはぽつりと小さな声で話す。フランクの顔からは狂気は消え失せて、どこか安堵したかのような表情を浮かべていた。 

鉄柵が天使とフランクの体重と勢いに負けて、屋上から崩れ落ちる。天使とフランクもまた一緒になって屋上から落ちる。

天使はもがきながらも、その翼を広げて重力とフランクから逃れようとする。


 だが、それは無駄なことであった。

天使の純白の翼は、さきほどジュリによって無残にも裂かれて赤く染まっていた。そのような状態では、飛べるはずもなかった。


 静かな廃マンションの中に大きな、陶磁器が割れるような音と、砂袋を落としたような重い音が2つ響いた。



**************




「「うっ……」」


 宙に投げ飛ばされたジュリを受け止めようとしたジョンが、折り重なるようにして倒れ込む。

血液が灰色の屋上を紅く染めつつあったが、ジュリとジョンは意識をなんとか保ちながら、天使とフランクがあ落ちた先に目をやるのだった。


 お互いに支え合いながら、ジュリとジョンは落ちないようにして屋上から地面を見下ろす。

そこには、白の破片に塗れて赤黒いモノが飛び散っていた。まるでそれは、グロテスクなひまわりのようであった。


「……終わったのか」


「みたいね」


やれやれといった風に力をなくして座り込むジョン。ジョンの顔色は青を通り越して白くなり、唇も自身の意志でコントロール出来ないのか細かく震えていた。

それでも、震える手でタバコに火を点けると、大きく吸い込んで紫煙をあげる。


「で、あの天使は何だったんだ? ……あのフランクって神父の妄想の産物か?」


「……さあ、分からないけど」


 ジュリもジョンと同じように地面に尻餅をつくような形で、座り込むとため息を吐く。


「まあ、あの天使が本物なら”天国”に行くのはおすすめ出来ないってことね」


 そうジュリはつぶやくと、自由の効く左手でスマ―トフォンを取り出す。

そして救援を呼ぶと、完全に意識を手放したのであった。

 

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