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怪異に乙女とチェーンソー  作者: 重弘 茉莉
血濡れの守護天使
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第12章-10 血濡れの守護天使

 廃マンションの屋上に続く錆びた扉を開けたジュリとジョンが目にした物は、 暗い中に淡い光を纏い、その背よりも大きな白いを持つ天使とその腕に抱かれたフランク。

フランクは”天使”に抱かれて恍惚の表情を浮かべ、喜びのあまりか口端はつり上がり涎が糸を引いて地面へと落ちる。


「ああ……。 セラ、セラ。 私の……」


 フランクの顔を、”天使”セラが優しく撫でる。だが、天使に顔を撫でられた瞬間にフランクが突如、絶叫し始める。

天使の白磁の手の平が、フランクの顔の皮膚をおろし金のようにすり下ろす。フランクの顔の皮膚は無残にも引き剥がされて、鼻先からその一部が振り子のように垂れ下がっていた。


「兄さん」 


 ジュリは兄のジョンに声を掛けると同時に、手に持った大型チェーンソーのエンジンを吹かして天使の元へと駆け出す。屋上の扉から”天使”まで、その距離20メートル。

声を掛けられたジョンも、ジュリをカバーするために後に続いて駆け出す。そして駆けながらも手に持ったマグナムを”天使”の眉間に照準を合わせる。


 ジョンが手に持つマグナムが火を噴き、フランクの絶叫をかき消すように重い音が連続して響く。ジョンが放った弾丸は、眉間へと吸い込まれる様に軌道を描く。

だが、その弾丸は”天使”の白い羽によって、目にも止まらぬ速度で叩き落とされる。


 「チッ」


 ジョンが空になったマガジンを投げ捨てて、新しくマガジンをマグナムへと滑り込ます。そして再度”天使”に向かって弾丸を吐き続ける。

ジョンがマグナムを撃ち続けている間に、チェーンソーを構えたままのジュリが天使の目の前へと到達する。


 そして走り出した勢いのまま、ジュリは天使に向かってチェーンソーの刃を突き出すようにして突っ込む。

だが、その刃は天使に到達することはなかった。ジュリの刃が天使に到達する寸前、今まで”天使の”の細腕に抱かれていたフランクが、ジュリに向かって投げつけられた。


「ああぁあぁああっ!!!!」


 猿のような甲高い声で喚き散らしながら、投げ飛ばされて弾丸のように投げ飛ばされたフランク。

ジュリは咄嗟に地面へと伏せ、フランクの体がジュリの髪に僅かに触れながらも避ける。だが、ジュリの真後ろに居たジョンは咄嗟にフランクの体を受け止めてしまう。


「ぐぅっ!?」


 ジョンはフランクの勢いに巻き込まれて一緒に吹き飛び、そのまま屋上の扉に大きな音を立てながら突っ込む。

鉄製の扉は2人がぶつかった衝撃で大きくへこみ、ジョンとフランクが折り重なるようにして倒れ伏す。


「兄さん、大丈夫!?」


 ジュリは”天使”から目を離さずに、後方へと吹き飛ばされたジョンに声を掛ける。

だが、ジョンからの返事はない。いつもなら壁に投げ飛ばされようが、地面をへこますほど叩きつけられようが意識を失うことなく返事を返していたジョンであったが、今回は何も返事がない。


 ジュリは咄嗟に、一瞬だけ兄の方へと目線を送る。

時間にしたら1秒にも満たない時間であったが、それが命取りであった。ジュリが視線を”天使”へと戻すと同時に、天使の手がジュリの右腕を掴んでいた。


「……っ!」


そして天使は、ジュリのはめた漆黒のドレスグローブをごと、右腕の皮膚を剥ぎ落としたのであった。

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